バックトルクを制御する「スリッパークラッチ」|バイクのメカニズム

「簡単メカニズム解説」。第二弾もクラッチについての話題。中・重量級あるいはスポーツモデル等への採用が一般化し、既に耳に馴染みのある「スリッパークラッチ」について、基本的な仕組みと機能について解説します。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
取材協力●株式会社エフ・シー・シー / 株式会社ホンダモーターサイクルジャパン / 株式会社スズキ / ヤマハ発動機株式会社
スズキVストローム1050のクラッチ。

バックトルクリミッターとしての機能を担う。

前回の当コーナーでは電動化および電子制御化された「ホンダ Eクラッチ」について掲載、今回はシンプルな構造である目的の機能を果たすメカニカルな(機械的仕組みの)クラッチについて簡単に解説します。


「バックトルクリミッター」についてご存知でしょうか。一般にバイクの駆動系は、エンジンの回転力がクラッチやミッションを経由し、チェーンやシャフトを介して後輪を駆動します。バックトルクとは、逆方向からの回転力のこと。後輪側からエンジン側を回そうとするトルクのことを意味します。具体的にはスロットル全閉で降坂する時など、エンジンブレーキがかかる状態の時、バックトルクが発生するのです。
高速からの激しいシフトダウンや、シフトミスで減速し過ぎてしまうような時、リアタイヤは滑り(スリップ)や暴れ(ホッピング)によりバイクに求められる安定走行が乱れてしまいます。
そんな不安定な走りを防ぐために、減速時のトルクを制御し、穏やかで安定した減速をキープする「バックトルクリミッター」が求められるのです。今回の「スリッパークラッチ」は、クラッチ内部の構造を工夫することで、バックトルクが強く生じた時の回転力を利用して、下図の通りクラッチのプレッシャープレートを押す作用を発揮し、クラッチに滑りを発生させます。結果として後輪に生じる減速の勢いを穏やかなものにし、リアタイヤのグリップ力を安定的にキープしてくれるのです。

なお、軽快な操作性を併せ持つ「アシスト&スリッパー™︎クラッチ」は、それを開発し、各メーカーに部品供給している、株式会社エフ・シー・シーの登録商標である。

ヤマハYZF-R7製品説明資料から抜粋。
ホンダXL750 TRANSALPのクラッチ。

減速側の回転力(後輪からのバックトルク)により、
クラッチアウター側の回転力が高まると、
斜めに合わさる「スリッパーカム」の働きで、
クラッチプレッシャープレートが押され、
クラッチの滑りによって減速側トルクを逃す。

ホンダCB1000Rの解説図から抜粋。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…