ホンダ・CBR1000RR-R FIREBLADE SPで郊外を疾走。|高回転型エンジンとは思えぬ、大人びたパワー特性でした!

2020年3月のフルモデルチェンジ登場後、2年毎に刷新されて2024年3月に仕様変更された最新モデル。その変更内容は、単なるカラーリング・チェンジに留まらず、エンジンから車体に至るまで細部に渡って熟成されているのである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・CBR1000RR-R FIREBLADE SP…….2,849,000円(税込)

グランプリレッド

カラー&バリエーション

CBR1000RR-R FIREBLADE SP…….2,849,000円(税込み) マットパールモリオンブラック
CBR1000RR-R FIREBLADE…….2,486,000円(税込み) グランプリレッド
CBR1000RR-R FIREBLADE SP レースベース車(公道走行不可)

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最新モデルの特徴

中央のダクトは走行時のエア導入効率を向上。一新されたウイングレットはスッキリしたデザインになった。
高速走行時には効果的なダウンフォースを発揮する。

今回試乗した「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」は“スーパースポーツのトップエンドモデル”と謳われる同社のフラッグシップモデルである。同時に古くはCBから受け継がれる技術の粋を結集した、レーサーレプリカ系モデルを象徴する1台なのだ。

現行モデルの登場は2020年3月。その後2022年3月にマイナーチェンジ、さらに2024年3月に仕様変更されたのが今回の試乗車である。
コンセプトは「“TOTAL CONTROL”for the Track」だ。
先ずひと目でわかる外観の変更点は、ウイングレットのデザインにある。主力のグランプリレッド(赤、青、白)のカラーリングで新旧比較すると、一見大差無いように見えてしまうが、その取り付け方法も含めてミドル及びアンダーカウルが一新されている。
ご覧の通りシンプルな造形を披露するウイングレットは軽快感のある仕上がり。左右への張り出しが控えられ、スッキリとしている。キャラクターラインやエッジの処理も丸みを持たせ優しさを加味した雰囲気だ。空力特性はさらに徹底追及され、アンダーカウルも一新。レースシーンで培われる最新のテクノロジーを惜しげもなく積極投入する姿勢には感心させられてしまう。
広報資料によると、新しいウイングレットはより小さな翼面積でダウンフォースを効果的に発生させ、さらにヨーモーメント(バイクの向きを変えるのに関わる力)を約10%低減させつつ安定性の向上が図られたと言う。ダウンフォースとは車体を地面に押さえつける働き(力)を意味し車体の安定性を増すが、単にそれを強くすると、操縦性(旋回や切り返し時の取り扱い)が重くなる影響へも作用する。それを嫌った緻密な空力設計がなされたということだ。
リアタイヤへの整流効果を担うアンダーカウル後端部も細部まで設計変更。排気管キャタライザー部の後方下部を左右でブリッジするロワウイング形状も見直され、最低地上高は115mmから130mmになった。

ウイングレットだけではなく、ミドル及びアンダーカウルが一新された。

エアロダイナミクスの追及を始め、エンジンや車体に関する熟成進化は、MotoGPやWSB(FIMスーパーバイク世界選手権)レースシーンで培われるノウハウがふんだんにフィードバックされている。イメージリーダーとして輝ける存在にはRC213Vがあるし、鈴鹿8時間耐久レース3連破が証明するポテンシャルの高さとその勝負強さにも侮れない魅力が感じられる。 
搭載された999ccエンジンは、同クラスのどれよりもショートストロークで、81mmのビッグボアを持ちストロークは48.5mm。ギリギリまで狭角化された16バルブヘッドへつながる吸気マニホールドが一新され、ピストンクラウン形状も見直されて13.6対1の高圧縮比を得て、クラストップレベルの高出力を発揮。
クランクケースも剛性が見直されクランクシャフトやチタン鍛造コンロッドが新設計されて、エンジン単体重量で720gの軽量化とフリクションロス及び各部の慣性マス低減化も図られた。
吸排気バルブの開閉タイミングとリフト量も変更。それら細々と手を加えられたトータルで、性能曲線図で示す通り主に中速域でのスロットルレスポンスを向上。実用域での扱いやすさに貢献していることは間違いない。
諸元データ上の最高出力と最大トルクの数値に変わりは無いが、ピークパワー時のエンジン回転数は13,500から14,000rpmへ、最大トルク時は11,500~12,000rpmへと高くなり、高速域でもより伸びの良い特性が期待できそうだ。
一方、燃料消費率のWMTCモード値も15から15,4km/Lへと向上。フリクションロスの低減化が奏功しているのだろう。その他、標準搭載のリチウムイオンバッテリーも12V2.0Ahから同2.3Ahへ容量アップされた「HJ12L」に変更されている。

また減速比の全てが見直され、1次減速比は1.630から1.687ヘ、2次側はドリブンスプロケットが43丁から44丁になり、減速比は2.687から2.750に変更。
ギア比が低められたように思うが、実は6速ミッションの全てが高めに変更され、総合減速比で判断すると、微妙な違いに過ぎないながら、1速を除き僅かに低くなった。注目すべきは、1速から4速まで各速間におけるギヤ比のギャップ(シフト時のギヤ比段差)が小さく設定(クロスレシオ化)されている。
逆に4速から6速まで各速間のギャップは少し大きく(ワイドレシオに)なった。発進加速時における低いギア段では、各ギアトレーンに加わる駆動トルク負担は大きいが、そんな領域におけるギアシフトのより良い繋がりとシフトワークにおける小気味よさにさらなる改善を加えたものと思われる。
サーキットでのハイパフォーマンスはもちろんのこと、一般公道における扱いやすさや快適な操作性の向上が期待できるわけだ。
旧モデルと比較するとクルージング時のエンジン回転数は若干高めになるが、例えばトップギヤ100km/hクルージング時でその差は50rpmに満たない レベルである。
各部の高効率軽量化やコンパクト設計は既に徹底されてきたが、最新モデルでは、目立たぬところまで惜しみない熟成を極め、とことん丁寧に設計変更されていることが実に印象深い。
φ52mmのスロットルボティを持つ電子制御式スロットルも、2モーター制御を新採用。1、2番と3、4番スロットルをそれぞれ独立制御することができる緻密な吸気コントロールが可能となり、コーナーへの進入減速からパーシャルを経て旋回、スロットルONでダイナミックにコーナーを立ち上がる時の扱いやすさと鋭い走りが期待できるのである。

コンパクトに仕上げられた1Lツインカムエンジン。クランクまわりの一新で720gの軽量化を果たしている。
試乗車の出力特性は赤線で示されている。ピーク値は同じだが全回転域にわたってパワー/トルク共に向上している。
コンパクトなロッカーアームを介して16バルブを駆動する。
吸気ポート形状が一新されている。吸気バルブは9°の狭角設定が特徴。
電子制御式スロットルは2モーターで左右それぞれ独立してコントロールされる。
スロットル開度に応じて2モーターを位相制御する。

アルミ鋳造製ダイヤモンドフレームも明確に熟成進化を果たしている。最新の鋳造解析と製造技術が投入され、要所が薄肉化された他、ハンガーボルトを従来の通しボルトから左右でセパレートされた分割(2本)ボルト方式を採用。6ヶ所でリジッドマウントされるエンジン締結部も含めて車体の剛性バランスが見直された。
これにより従来モデル比で1.1kgの軽量化とフレーム横剛性及びねじれ剛性は17%及び15%低減され、ライダーの意志通りに扱える操縦性の向上が図られたと言う。
また細部に目をやると、ステップステーやマフラーステーも一新。下のライディングポジション比較イメージ図にある通り、ステップ位置は僅かに下げられハンドル位置はグリップの握り一つ分ほど高めに変更されている。そしてキャスター角が24度から24.7度へ、僅かに寝かされた。これは空力特性の熟成や車体剛性の変更を含めて操縦安定性向上への総合的バランスを考慮されたものだろう。

要所の薄肉化など、全体が見直され剛性の最適化が図られた。同時に960gの軽量化も実現されている。
上に示す締結方法の変更で、140gの軽量化に貢献している。

作り手の情熱が熟成を極める。

既報の旧型試乗インプレ記事では、試乗車に跨がった瞬間に「乗ることそのものがスポーツである」ことを直感したと記した。それは競技車両に近い、走るための充実装備(サスペンションやブレーキ)を始め、戦闘的なライディングポジションから感じ取れるスーパースポーツとしてのピュアなキャラクターがとても印象的だったからだ。
例えるなら全身の筋力を躍動させる、競馬のジョッキースタイルをイメージさせる様な雰囲気を覚えたのである。
果たして今回の新型はどうだろうか。シートに跨がりライディングフォームを取るとその研ぎ澄まされた感触がいくらか和らいでいるように感じられた。
パッと見で気付く新旧の違いはホイールがゴールドからブラックに変更されたこととウイングレットのデザインが一新されたことぐらいだったが、跨がった時の第一印象が微妙に違って感じられたわけだ。
後に資料を調べたところ、ステップ位置が少し下がりハンドルも少し手前に、グリップの握りひとつ分高くなり、やや開きぎみにセットされたそう。前方視界も含めて一般的なストリート走行を楽に扱えるようになった様に思えた点は好印象である。
前回同様に筆者はレーシングスーツを着用して試乗。やはりホンダ最高峰のスーパースポーツに跨がると、その存在には自然とリスペクトしたい気持ちが沸き上がる。
CBや市販レーサーのCRに憧れた若き日の心境が鮮明に思い出されるから不思議。CBに始まるスーパースポーツとしての系譜は、およそ60年にわたりしっかりと受け継ぎながら途切れることなく着実な進化熟成を重ねてきている点に感心させられてしまうのだ。
今や“R”の文字を四つも連ねた上に“SP”で締めくくられたネーミングは、まさにホンダ最高峰を象徴していると思う。

シルキーな操作感を左手に覚えながら握力の軽いクラッチレバーを操作してスタートすると、難なくスムーズに加速を始める。この手のモデルとしては、ギア比もそれほど高くはないから発進操作も苦にならない。
エンジンをブリッピングした時の印象として回転フィーリングはとても軽快で、流石に俊敏なレスポンスを披露するタイプだが、2000rpm前後の低速域から柔軟に発揮されるトルクが太くなった印象。
最高出力が200psオーバー、1Lもの排気量で1万4,000rpmも回ってしまう高回転高出力エンジンとは思えない大人びた穏やかな雰囲気がある。ギクシャクする神経質な挙動も少なく扱いやすくなっていた。
出力特性に余力十分な感触を得て早め早めにシフトアップしていくと左足に伝わるタッチが良い。旧型もクイックシフターの操作フィーリングに不満を覚えることはなかったが、操作時の小気味よさと踏力の軽さには着実な進化熟成が感じ取れたのである。
試乗は郊外の空いた舗装路。タイトなコーナーから中速コーナーまで多彩な屈曲路を行くと、車重が201kgある1Lクラスのスーパースポーツとは思えないほど素直にかつ気持ちよく走れた。思いのままに扱える親しみやすいグッドハンドリングは、ライダーの気持ちを爽快なもにしてくれる。
電子制御される前後サスペンションは、決してソフトではなく、作動ストロークも大きくは無いが、路面の小さなギャップにも実に細やかに動きフットワークが良い。作動初期の微妙なところから、衝撃吸収と減衰性が巧みに働きロードホールディングは好感触。
大きな凹凸を通過した時もしっかりと衝撃を吸収しながら上手に減衰してくれるあたりのバランスの良い仕上がりは流石である。
行き交うクルマが少なくなる郊外では自然とぺースが上がってしまう点は要注意。ライダーに理性が求められるが、コーナーへの減速から旋回そしてコーナー脱出からの加速という一連の操作をする上で、バイクの姿勢安定が乱れない乗り味も優秀だ。
そんな操縦性の高さに一役買っているのは文字通りフィンガータッチ、2本指の軽い操作でも急ブレーキまで任意の効きをコントロールできる制動性能の高さも見逃せない。
深くバンクしているコーナリング最中の繊細なスピードコントロールも意のままに扱えるし、コーナー手前で強力なブレーキングをしてライダーの体重も含めたバイクの荷重がグン前輪を押さえつけグリップ力を増していく様や、やがてタイヤのグリップ力が限界を迎えてABSが作動する領域に至るまで、路面を転がるタイヤの様子がライダーに良く伝わりコントロールしやすいのが嬉しい。
仮にコーナーの旋回曲率を読み誤ってオーバースピードで突っ込んでしまい、ライダーが慌ててしまう様なシーンでも、制動能力はまだ切羽詰まってはいない。おちついてリカバリーできてしまう時間的、精神的な余裕が感じられるのである。
そしてエンジンのダイナミズムも本当に気持ちが良い。
通常走行では実力を持て余すが、少し右手をワイドオープンした時の凄まじい吹き上がりは豪快かつスムーズ。4,000rpm前後から既に太いトルクが発揮され、さらに6,000rpm、8,000rpmをこえる領域のレスポスは強烈。回転の伸びも鋭くアッと言う間にレッドゾーンへ飛び込んで行く。
やはり何処かの高速サーキットで思う存分にフルスロットルを試してみたいと思えたのが正直なところだが、一般公道でもストレスなく走れる柔軟かつスムーズ。パワフルながら決して乱暴者ではない出力特性には改めて感心させられてしまった。  
レーサーレプリカ系の価値ある1台として着実に進化を重ねられた、そんな総合力が素晴らしいのである。

SPに採用されている電子制御式サスペンションは、多彩なモード設定を可能としている。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

シート高は830mm。従来から変更はなく、足つき性はご覧の通り両足の踵が少し浮いた状態になる。ライディングポジションは若干変更され、ステップが僅かに低く、そしてハンドル位置は少し高められた。上体の前傾具合など、いくらか楽になった印象だ。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…