ホンダのスクランブラー、CL500。開発べースとなった、レブルの問題点を見事に解消‼|1000kmガチ試乗【1/3】

フレンドリーなモデルではあるけれど、ロングランにはあまり向いていない。過去のガチ1000kmで記したように、筆者はレブル500にそんな印象を抱いていた。ところが、レブル500の主要部品を転用して生まれたCL500は、開発ベース車とはまったく異なる快適性を獲得していたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダCL500……863.500円

1962年型CL72以来、ホンダは数多くのスクランブラーに“CL”という英字を採用。ただし、2002年にCL400の生産が終了してからの約20年間、同社のラインアップにCLは存在しなかった。

3車3様の仕様変化に感じたこと

決して上から目線で言うつもりはないのだが、ここ最近の僕は、“車両メーカーにも、自分と同じような考え方の人がいたんだな……”と感じる事態に何度か遭遇している。例えば2020年にガチ1000kmで取り上げたホンダCBR1000RR-Rに対して、僕は常用域を度外視した乗車姿勢と低中回転域の味気なさに異論を述べた。そして大幅刷新を受けた2024年型は、サーキットでの運動性を高めつつも、ハンドルが高く手前に、ステップ位置が低くなり、エンジンは低中回転域の充実化が図られている……ようなのだ。また、ヤマハが2024年からテネレ700の欧州仕様に追加したエクスプローラーは、前後ホイールトラベルが210/200mm→190/180mmに短縮されていて、その数値は僕が2020年にガチ1000kmで記した期待値とまったく同じなのである。

2023年5月から発売が始まったCL250/500も、僕が(勝手に)開発陣との共感を覚えた車両だ。ただし前述した2台とは異なり、僕が苦言を呈したのはCLの開発ベースとなったレブルの500ccモデル。具体的な話をするなら、ロングランの後半で尻や腰に耐え難い痛みを感じたので、肉厚のシートとストロークを延長したリアショックを装備するツーリング仕様を作って欲しい、という意見を2021年のガチ1000kmに記している。

φ175mmの4灯式LEDヘッドライトを含めた灯火類は、2020年以降のレブル250/500と共通。

もっとも、クルーザーのレブルとは異なり、CLはスクランブラーで、2機種に共通する要素はダイヤモンドタイプのメインフレームと並列2気筒エンジン、補器類くらい。とはいえ、着座位置の自由度が大幅に上がったシート(肉厚はそんなに増えていない模様)とホイールトラベルを95→145mmに延長したリアサスから推察すると(フロントも140→150mmに延長)、CLの開発陣には僕と同じような考え方、“レブルのツーリング仕様を作る”という意識があったんじゃないだろうか。

180度位相クランクの並列2気筒エンジンは、そもそもヨーロッパのA2ライセンスを前提にして開発。初採用車は2013年型CBR500R/CB500Fだった。

レブルとは一線を画する快適性と運動性

さて、前置きが長くなったけれど、今回のガチ1000kmで取り上げる車両はCL500で、ここまでの展開を振り返ると、まずはレブル500との差異を述べるべきだろう。とはいえ、実は僕は他媒体の仕事でCL250でロングランを経験し、レブルとは一線を画する、CLならではの快適性や運動性をすでに確認済みなのである。だから以下に記す印象は、想定の範囲内だったのだが……。

それでもやっぱり、CL500はレブル500の問題点を見事に解消していると思った。撮影を兼ねた約400kmのツーリングに出かけた際は、走行開始から10時間が経過した段階でも尻や腰に極端な痛みは感じなかったし、フロント19インチならではの安定感や(リアは17インチ。レブルは前後16インチ)、高めの着座位置による視界の広さのおかげで、精神的な疲労も少ない。もちろん前後サスストロークが豊富なので、路面の凹凸の回避をあまり気にしなくていいこと、未舗装路がそれなりに走れることも、このバイクならではの魅力である。いずれにしてもCL500は、僕が想定したレブル500のツーリング仕様を大幅に上回る魅力を備えていたのだ。

ちなみに、CL250/500には純正アクセサリーとして、座面が30mm高くなる(790→820m)フラットシートが存在する。前述したCL250のロングランで僕はそのシートをテストし、劇的……と言って差し支えないほどの乗り心地と運動性の向上に感激した。逆に言うならフラットシートを体験すると、どうしてこっちを標準にしなかったのかという疑問が湧いてくるのだけれど、おそらく開発陣は、やっぱり足つき性が気になったのだろう。何と言ってもレブル250/500が世界中で好セールスを記録している背景には(日本では250が主力だが、欧州では500が人気)、シート高が690mmで足つき性がムチャクチャ良好という事情があるのだから。

実質的にはハイシートとなるフラットシートのカラーはブラウンのみ。

とはいえ、CL250/500用フラットシートの価格はなんと、一般的な純正アクセサリーシートの半額以下、1万2540円なのである。そしてその価格設定には、“体格的に許容できるなら、ぜひともフラットシートを装着して欲しい”という開発陣の意図が表れているように思う。

シャシーを共有する250との差異

業界内でCLの話をすると、“2気筒の500と単気筒の250のどちらがオススメか?”という話題になることが少なくない。この件はなかなか難しい問題なのだが、僕は予算と体格に応じて……で、いいんじゃないかと思う。

もっとも、500と250には各車各様の魅力が備わっているのだ。まず500の美点は言わずもがな、パワフル&トルクフルなエンジンで(500:46ps・43Nm、250:24ps・23Nm)、そのおかげでロングランがイージーにこなせるし(250のようにパワーバンドやミッション段数を意識する必要がなく、ズボラな運転ができる)、メーター読みの最高速は170km/h前後なので、ビッグバイクとのツーリングもそんなに苦も無くこなせそう。また、車重の重さによる安定感も(CL250+20kgの192kg)、場合によってはプラス要素になるだろう。

一方の250ならではの美点は、いろいろな意味で気軽なこと。その筆頭に挙がるのは車重の軽さと価格の安さだが(CL500より24万2000円安い62万1500円)、燃費が良好で(WMTCモード値は、500:27.9km/ℓ、250:34.9km/ℓ)、エンジンオイル容量が少なく(500:3.2ℓ、250:1.8ℓ)、タイヤやブレーキパッドのライフは500より長いはずなので、250は維持が楽なのである。

いずれにしても、2台のCLに安易な優劣は付けられないのだ。だから僕としては、大型2輪免許を所有するライダーがあえてCL250を選択するのもアリだと思うし、CL500に乗るために大型2輪免許に挑戦するライダーがいてもまったく不思議ではない。そして改めて振り返ると、2017年初めてレブル250/500に試乗したときも、僕は同じような印象を抱いたのだった。

あら、思いつくままに書いていたら、今回の文章は何だか周辺事情が多くなってしまった気がする。その反省を踏まえて、近日中に掲載予定の第2回目では、CL500の素性をじっくり掘り下げてみたい。

CL250のボディカラーは、オレンジ、ホワイト、グレーの3種で、CL500はブルーとマットグリーンの2種。まあでも、それらの色が使われているのはガソリンタンクのみだから、自分好みの色でペイントするのも面白そうである。

主要諸元

車名:CL500
型式:8BL-PC68
全長×全幅×全高:2175mm×830mm×1135mm
軸間距離:1485mm
最低地上高:155mm
シート高:790mm
キャスター/トレール:27°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:471cc
内径×行程:67.0mm×66,8mm
圧縮比:10.7
最高出力:34kW(46ps)/8500rpm
最大トルク:43N・m(4.4kgf・m)/6250rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.285
 2速:2.105
 3速:1.600
 4速:1.300
 5速:1.150
 6速:1.043
1・2次減速比:2.029・2.733
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:ツインショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:150/70R17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:192kg
使用燃料:レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:43.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:27.9km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…