“名を捨てて実を取る”と言いたくなるバイクを見つけました。質実剛健の資質を備えた「ホンダNX400」|1000kmガチ試乗【2/3】

革新的な機構は見当たらないし、完全無欠でもないけれど、あらゆる場面を過不足なくこなす、必要にして十分以上の性能を備える万能車。このバイクのオーナーになったら、相当に充実したバイクライフが楽しめるだろう。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダNX400……891,000円

日本市場では大人気とは言えないものの、400X/NX400の海外仕様となるCB500X/NX500は、A2ライセンスに適合する貴重な並列2気筒アドベンチャーツアラー/クロスオーバーモデルとして、ヨーロッパでは好セールスを記録している。

スーパーカブに通じる感覚で使い倒せそう

第1回目で記したように、NX400はチョイ乗りだとインパクトを感じづらいバイクである。とはいえ今回の試乗で、約2週間を共にし、約1800kmを走った僕は、いろいろな面で出来の良さに感心することとなった。

まずはライディングポジションに関する説明をすると、シートに跨った際の前方視界はアドベンチャーツアラーなのだが、ハンドル・シート・ステップの位置関係と感触はオーソドックスなネイキッド的、あるいは1980年代前半以前のロードバイク的。いずれにしてもオフ指向のライダーを除けば、物足りなさや抵抗を感じることはないだろう。

では市街地を走っての印象はどうかと言うと、車格の大きさや重さがネックになりがちなミドル以上のアドベンチャーツアラーとは異なり、日常の足として気軽に使えた。もっともこのあたりの見解は各人各様なのだが、僕がこのバイクのオーナーになったら、スーパーカブに通じる感覚で思いっ切り使い倒しそうである。

岩手~東京の高速移動が楽勝?

続いては高速道路の話で、当初の僕はこの場面におけるNX400の性能にコレといった期待はしていなかった。何と言っても、エンジンはパワフルとは言い難い400ccツインだし、スロットル操作が不要になる便利機構のクルーズコントロールは装備していないし、メーカーが空力性能を美点として挙げている気配はないのだから。

ところが実際に高速道路を走ると、スクリーン+フェアリングが予想以上の防風効果を発揮し(肩周辺に多少の走行風が当たるものの、その他は巧みに整流されているようで、下半身もきっちりフォロー)、19インチの前輪が程よい安定感を生み出し、しかもエンジンの中~高回転域の維持が容易だから、120km/h巡航は余裕で、条件的に許されるなら150km/h前後で走り続けられそうなのだ。

なお第1回目で述べた通り、今回の試乗期間中に僕はNX400を駆って実家がある岩手県盛岡市に帰省し、グーグルマップによると、自宅の東京都西部~実家の最短所要時間は6時間半(距離は約570km)。そして世間では、グーグルマップが提示する時間の短縮は難しいと言われているのだが……。復路の僕は昼食後に実家を出発し、ムキになって飛ばさず、2度の休憩を取ったにも関わらず、日が暮れる前に自宅に到着。最新のミドル以上のアドベンチャーツアラーなら普通かもしれないが、NX400でそこまで快適かつ俊敏な高速移動ができるというのは、僕にとってはまさかの展開だったのである。

同系エンジンを搭載するCL500との差異

さて、ここからはワインディングロードの話で、この場面も高速道路と同様に、当初の僕はコレといった期待はしていなかった。それどころか、前回のガチ1000km試乗で取り上げた、同系エンジン搭載車のCL500と比べて、どのくらい味気が無いのか、どのくらいモッサリしているのかを、確認するつもりだったのだが……。

普通にスポーツライディングが楽しめたのである。もっとも、CL500のようなヒラヒラ&ヒョイヒョイ感は味わえないけれど、しっとり穏やかで安定志向のNX400のハンドリングが、悪いわけではまったくない。また、排気量がCL500より72cc少ないにも関わらず、エンジンに物足りなさを感じる場面はほとんど無かった。

さらに言うなら、前後サスペンションの包容力が高いおかげで、見通しが悪くて荒れた路面の舗装林道や県道や農道などをイージーに走れることも、CL500とは一線を画する、NX400ならではの魅力である。ただしそういった感触に気を良くして、モノは試しと未舗装路に入ってみたところ、海外仕様のNX500より前後サスのストロークを30mmほど短縮しているせいか、悪路走破性は良好とは言い難かった。と言っても、フラットダートなら余裕で通過できるのだが、僕を含めた一般的な技量のライダーがこのバイクで未舗装路がメインのツーリングを楽しむのは、ちょっと難しそうな気がする。

必要にして十分以上の性能

革新的な機構は見当たらないし、完全無欠でもないけれど、必要にして十分以上の性能を備える万能車。文字にすると微妙な雰囲気になるが、NX400はそんなバイクだ。ただし世の中には、周囲に対するハッタリが利かないこと、主張が希薄なことに、物足りなさを感じる人がいるかもしれない。確かに、このバイクでツーリングに出かけて、高速道路のサービスエリアや道の駅に立ち寄った際に、周囲の注目を集めたり、他のライダーから話しかけられたりする機会は、あまり多くないだろう。

とはいえ今回の試乗を通して僕は、NX400のオーナーになったら、相当に充実したバイクライフが楽しめると感じたのだ。もっとも排気量を考えると、大型2輪免許を所有するベテランライダーはこのモデルに興味を抱きづらいのかもしれないが、“名を捨てて実を取る”的なNX400の資質は、個人的にはベテランライダーのほうが、理解しやすいのではないか……という気がする。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、約1800kmを走っての実測燃費を紹介します。

Y字5本スポークのキャストホイールは、既存の400X/CB500Xとはデザインが異なる新規開発品で、サイズはF:2.50×19・R:4.50×17。なお海外仕様の車体色には赤が存在するが、日本仕様は白と黒の2色のみ。整備で重宝するセンタースタンドは標準装備ではなく、純正アクセサリーとして設定。

主要諸元

車名:NX400
型式:8BL-NC65
全長×全幅×全高:2150mm×830mm×1390mm
軸間距離:1435mm
最低地上高:150mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:27°30′/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:399cc
内径×行程:67.0mm×56.6mm
圧縮比:11.0
最高出力:34kW(46ps)/10000rpm
最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.285
 2速:2.105
 3速:1.600
 4速:1.300
 5速:1.150
 6速:1.043
1・2次減速比:2.029・3.000
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:160/60R17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:196kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:41.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:28.1km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…