ルックスはアドベンチャーツアラー。でも本質はオンロード指向のベーシックモデル? ホンダNX400 1000kmガチ試乗【3/3】 

アドベンチャーツアラー的な資質は備わっている。とはいえ、各項目を評価しながらNX400の乗り味を反芻した筆者は、このバイクの本質はオンロード指向のベーシックモデルではないか……と、感じているのだった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダNX400……891,000円

日本人には馴染みが薄い車名(英字)かもしれないが、ホンダにとっての“NX”は久々の再登板。初代NXは1988年に登場した125/250/650cc単気筒デュアルパーパスで、日本市場でのNX250はAX-1として販売された。

ライディングポジション ★★★★★

第2回目で記したように、NX400の乗車姿勢はネイキッド的にして1980年代前半以前のロードバイク的。筆者が大柄なため(身長182cm・体重74kg)、真横からの写真だと、下半身が窮屈そうに見えるかもしれないが、着座位置の自由度は適度に確保されているし、ロングランでも尻や膝や足首などに痛みは感じなかった。

海外仕様のNX500に対して、前後ショックのストロークを短縮することで、シート高を30mm低い800mmとした日本市場向けのNX400だが、両足が地面とベッタリ接地するためには最低でも170cmの身長が必要。なおノーマルより約2カ月早く配車が始まった教習車仕様のNX400Lは、シート高がさらに10mm低い790mm。最低地上高が150→134mmに下がっていることを考えると(NX500は180mm)、教習車仕様のローダウンは、主に前後ショックで行われているようだ。

タンデムライディング ★★★☆☆

運転手の印象は至って良好で、乗員が増えたことによるハンドリングの変化はごくわずか。この感触なら快適なタンデムツーリングが楽しめそう……と思ったものの、後部座席に座った身長172cm・体重52kgの富樫カメラマンは、そこはかとない居心地の悪さを感じたようだ。「決して不快ではないんだよ。でもグラブバーはどこを握ってもしっくり来なかったし、シートの面積は意外に小さかった。運転手との距離感やステップの位置は好感触なんだけどね。タンデムが快適なバイクって、走り始めてすぐに、自分が落ち着くべき場所が自然にわかるものだけど、今回はそれが見つからなかったんだ」

取り回し ★★★☆☆

押し引きの印象は、可もなく不可もなく。車重が208kgで最小回転半径が2.6mのXL750トランザルプより軽いけれど、153kg・2.3mのCRF250ラリーよりは重かった。なお前述したように、NX400(196kg・2.5m)には教習車仕様のLが存在するのだが、長きに渡って教習車の世界で定番の地位を維持してきたCB400SF(最終型は201kg・2.6m)と比較して、どちらの取り回しがイージーなのかと言うと、それはなかなか微妙なところ。車重と最小回転半径はNX400のほうが優位だが、感覚的にはネイキッドのCB400SFのほうがイージーかもしれない。

ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

コクピットはアドベンチャーツアラー然とした雰囲気。ハンドルバーはテーパタイプで、スクリーン+フェアリングの防風効果とバックミラーの視認性は非常に良好。新規採用の5インチTFTフルカラーメーターには、任意で選択できる3種のレイアウトが存在し、スマホとの連携機能であるHonda Road Syncを採用。その上部には各種ガジェットの装着を意識したバーが設置されている。

左右スイッチ/レバー ★★★★☆

左スイッチボックスは新規開発で、メーター内の表示内容や設定の変更は十字型ボタンを介して行う。その左に備わるのは、後輪の滑りを抑制するトラクションコントロールのオン/オフボタン。

グリップラバーはオンロードタイプ。レバーの位置調整用ダイヤルが備わるのはブレーキのみ。振動対策の主役となるウェイトはハンドル内に収まっているため、バーエンドウェイトは小ぶり。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★★

燃料タンク&サイドカバーのフィット感は抜群。左右に張り出したフェアリングは、高速巡航時に下半身に当たる(はずの)走行風を巧みに整流してくれる。前後一体型のシートは海外仕様のNX500と共通で、十分な肉厚を確保。パッと見では着座位置が固定されそうだが、実際のライディング中は前後左右にそれなりに動けた。

グリップラバーと同じく、ステップ周辺部品もオンロードタイプ。意外なことにステッププレートは、兄弟車にしてフルカウルスポーツのCBR400Rと共通だが(バーは各車各様)、位置に対する違和感は抱かなかった。

積載性 ★★★★☆

リアキャリアは備わらないが、グラブバー下面の4カ所のフックがいい位置に設置されているため、積載性はなかなか良好。ただしフックには“返し”が存在しないので、筆者の私物であるタナックスのダブルデッキシートバッグを装着してロングランに出かけた際は、途中で抜けを確認する必要があった。積載系の純正アクセサリーは、サイドバッグ、トップボックス、リアキャリア、リアシートバッグの4種。シート下はギュウギュウという雰囲気ではないので、ETCユニットは余裕で収まるはず。

ブレーキ ★★★★☆

フロントφ296mmペータルディスク+片押し式2ピストンキャリパー/リヤφ240mmペータルディスク+片押し式1ピストンのブレーキは、どんな場面でも必要して十分な制動力とコントロール性を発揮。2チャンネル式ABSの感触も、至ってナチュラルだった。なおNX400を含めた近年のホンダ車の多くは、急制動時に自動でハザードランプを点滅させ、後続車に危険を知らせるエマージェンシーストップシグナルを採用している。

サスペンション ★★★★☆

フロントフォークはφ41mm倒立式、リアサスペンションはリンク式モノショックで、調整機構はリアのプリロードのみ(5段階)。海外仕様のNX500と比較すると、前後ホイールトラベルは約30mm短いものの、車体の動きに不自然な雰囲気はナシ。といはいえ、未舗装路では凹凸の吸収性の悪さを感じたし、厳密に言うなら舗装路でも“動き出しがちょっと硬いかな”という印象を抱いた。そんなわけで個人的には、海外仕様と同じ前後ショックを導入した足長仕様を併売して欲しいところだが、そういうモデルの需要はあまり多くはないような……。

車載工具 ★★★☆☆

車載工具袋に収まる工具・道具は、リアショックのプリロード調整用フックレンチ、10/14mmのスパナ、差し替え式ドライバー、L型六角棒レンチ、ヒューズプーラー、ヘルメットホルダーとして使用するワイヤーの6点。近年の400ccクラスでは平均的な数だが、先代の400Xが、それらに19・24mmのアイレンチ、スパークプラグ用レンチ、8/12mmのスパナを加えた10点だったことを考えると、ちょっと残念。

実測燃費 ★★★★☆

実測燃費は意外に奮わず。もっともネットで先代の400Xを調べると、30km/ℓ前後と言う人が多いようだし、今回の数値はほぼ尻上りで良好になっているので、序盤の筆者はこのバイクの走らせ方を把握できていなかったのかもしれない。燃料タンク容量は17ℓなので、平均燃費から割り出せる航続可能距離は26.3×17=447.1km。ただし、燃料残量計の減り方と警告灯が点滅するタイミング(規定値は2.8ℓだが、試乗車は4~4.5ℓで点滅が始まった模様)を考えると、400km以上の距離を初めて走るときは勇気が必要になりそうである。

純正指定タイヤは、ダンロップMIXTOUR。サイズはフロント110/80R19・リア160/60R17で、リプレイス品は潤沢。もっともオフロード指向のユーザーは、リアをブロックパターンタイヤの選択肢が豊富な150/70R17にして欲しかった……と感じる人が多いかもしれない。

主要諸元

車名:NX400
型式:8BL-NC65
全長×全幅×全高:2150mm×830mm×1390mm
軸間距離:1435mm
最低地上高:150mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:27°30′/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:399cc
内径×行程:67.0mm×56.6mm
圧縮比:11.0
最高出力:34kW(46ps)/10000rpm
最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.285
 2速:2.105
 3速:1.600
 4速:1.300 
 5速:1.150
 6速:1.043
1・2次減速比:2.029・3.000
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:160/60R17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:196kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:41.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:28.1km/L(1名乗車時)

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…