目次
ベスパ・スプリントS150……56万6500円(2024年6月1日発売)
原付二種よりも力強い出足、スロットルレスポンスも良好だ
イタリアの航空機メーカーであるピアッジオが、画期的なスクーター「ベスパ 98」をリリースしたのは1946年のこと。以来、スチール製モノコック構造のシャシーやフロントの片持ち式ボトムリンクサス、ユニットスイング式のリアサスペンションといった基本構成を維持しながら、現在もクラシカルなフォルムのスクーターを生産している。
現在のラインアップは、GTSやGTVが属するラージボディと、今回試乗したスプリントやプリマベーラが属するスモールボディ、そして最軽量ボディを持つLXに大別される。ヨーロッパは今でも各地に昔ながらの石畳が残ることから、ハイホイール系のスクーターが人気と言われるが、イタリア生まれのベスパは現在も小径ホイールのまま。ラージボディもスモールボディもホイールは前後12インチで、LXに至ってはフロントに11インチという特殊サイズを採用する(リアは10インチだ)。
さて、今回試乗したのはスモールボディシリーズのスプリントS150だ。1965年に発売された角型ヘッドライトの「150スプリント」をオマージュしたモデルで、S150にはオレンジとブラックの専用ストライプが入っているのが特徴だ。なお、海外ではホワイトやレッドなど5種類のカラーリングが用意されるが、日本では写真のエクレッティコブルーのみが販売される。
まずはエンジンから。排気量155ccの強制空冷4ストローク単気筒はSOHC3バルブという特徴的な動弁系を有し、最高出力は12.5psを公称する。同じく軽二輪スクーターのホンダ・PCX160が15.8psなので、スペックだけを見ればやや控えめなパワーと言えるだろう。
セルボタンを押してエンジンを始動する。さすがに2ストローク&ハンドチェンジ時代のベスパよりもアイドリング時の音は静かで、体に伝わる振動も含めて国内メーカーのスクーターと何ら変わりはない。スロットルを徐々に開けると、低めの回転域で遠心クラッチがミートするようで、そこからはスムーズかつ力強く発進する。信号が青に変わってからの出足は原付二種スクーターよりもやや速く、すぐに60km/hへ到達する。これなら流れの速いバイパスでもストレスを感じないだろう。
上り勾配のきついワインディングロードでは、原付二種との力量差がより明確になる。適度に発生するエンブレも含め、スロットルの動きに対するレスポンスは良好であり、キビキビと走れるのだ。この優れた動力性能はスプリントの名に恥じないと言っていいだろう。
ボトムリンクサスの衝撃吸収性はさすが、直進安定性も上々
続いてはハンドリングだ。微速域から安定性に優れるPCX160と比べると、人が歩くような速度ではややフラつきやすいと感じるスプリントS150。しかし、このクイックな挙動はベスパの伝統であり、慣れてしまえば軽い入力で意のままに操れるようになる。
その一方で、速度を上げていくと直進安定性が徐々に高まり、多少の外乱にも動じなくなる。今回は試せなかったが、これなら高速道路を使っての移動も安心だろう。そして、何より感心したのはボトムリンクサスの乗り心地の良さだ。特に路面の小さな凹凸に対してはテレスコピックフォークよりも作動性が良く、ベスパがこの機構を使い続ける理由がひしひしと伝わってくる。一方、大きなギャップではそれなりに衝撃が伝わるが、これは許容範囲だろう。
ブレーキは、フロントにディスク、リアにドラムを採用する。リアについてはリターンスプリングが強すぎるように感じたが、前後ともコントロール性はおおむね良好。ABSの介入についても特に不満はなかった。
現在、軽二輪クラスで最も売れているスクーターがPCX160で、それと比べるともスプリントS150の価格は+15万4000円、およそ37%も高い。スマートキーもなければアイドリングストップもなく、ラゲッジボックスもPCXほど広くはない。リアブレーキもドラムだし……、などとウィークポイントはいくつかあるが、それらをすべて帳消しにするのがこのイタリアンブランドらしいスタイルとカラーリングだ。もしあなたが趣味性の高い海外ブランドの4輪を所有していたとして、そのガレージに似合うのはおそらくホンダよりもベスパだろう。ファッションも込みで長く付き合える、レアで小粋な軽二輪スクーターだ。