「のんびりペースで走ろう」と語りかけてくるようなエンジン。モトグッツィV7ストーン・コルサは”フツーに走る”が楽しいバイクだ。

モトグッツィは1921年に創業したイタリアのバイクメーカーだ。1960年代から縦置きVツインエンジンを守り続けていて、現在ラインナップしているマシンもすべて縦置きVツインを搭載しており、伝統の空冷2バルブOHVを採用しているV7シリーズから最新の水冷DOHC4バルブを搭載したV100マンデッロ、ステルビオまで5つのバリエーションが揃っている。今回はその中からV7ストーン・コルサのインプレッションをお届けすることにしよう。

EPORT●後藤 武
PHOTO●山田俊輔

モトグッツィV7ストーン・コルサ……1,518,000円(消費税込み)

V7は元々1960年代にモト・グッツィから発売されていたモデルの名前だ。縦置きVツインエンジンを初めて搭載したこのマシンは性能や信頼性の高さなどが世界各国で人気になり、様々なバリエーションモデルが誕生した。良く知られているのは1973年に誕生したV7スポルト。V7を進化させたスポーツモデルで、V7の中でも特に人気の高かったモデルである。

現行のV7は、往年のV7スポルトのイメージを強く感じさせるデザインになっている。細身の18インチバイアスタイヤを前後に装着したナローなデザインからはクラシカルな雰囲気が漂う。

V7に搭載されているエンジンは現在モトグッツィがラインナップしているV型の中では最も排気量が小さい853cc。空冷OHV2バルブという伝統的なメカニズムを受け継いている。

V7には色々なバリエーションモデルが登場していて今回試乗したのはV7ストーン・コルサ。

イタリア語で競争を意味するコルサは、レースに対応したマシンなどに与えられるイメージがあるが、V7ストーンコルサの場合はスペックなどに関しては他のV7と同じ。ビキニカウルやテールカウル風のカバーがついたシート、バーエンドミラーなどを装着することでカフェレーサー感を演出したモデルである。

低中速が楽しいエンジン

モトグッツィのVツインは排気量によってキャラクターがかなり異なる。V7はどちらかというとまったりとしたエンジン特性だ。このエンジンがストリートを適度なペースで走る分には色々な意味でちょうどいい。

低中速トルクは太いけれどモトグッツィのVツインエンジンは昔からフライホイールマスが大きめなのでエンジンは過敏な反応をすることがない。スロットルを開けると穏やかにトルクが出てくれる。それに加えてフライホイールマスが慣性力を蓄えるから独特の力強さが生まれる。

V7で楽しいのは4000rpmを過ぎるくらいまでだ。これくらいの回転域でも十分なトルクがあるから心地よい鼓動感と排気音を楽しみながらスポーティに走ることができる。

5000rpmを越えたくらいから排気音が連続してしまって、レブリミットである7000rpmまでは苦しげな回り方になってしまう。回転を上げて速く走りたいというときは使えるけれど、高回転域を常用してもあまり楽しい感じはしない。

こういう特性だからV7で走るときは、中速までを使うことがほとんどなのだけれど、このバイクに乗っているとそれで十分に満足できてしまう。エンジンの特性が過激で、まるでライダーが急かされているように感じてしまうバイクがあるが、V7はその真逆。「これくらいのペースで走ろうよ」とVツインエンジンが語りかけているような気がするのである。

普通に走るのが楽しいハンドリング

ハンドリングは基本的に素直だけれど味付けは少し変わっている。ステムのオフセットが大きいので直進安定性に寄与するトレールが少なめになり、車体をバンクさせたときのステアリングのレスポンスが強めにつく。その代わりにフロントフォークのキャスターで直進安定性が確保されている。

細身の18インチバイアスタイヤを履いていることもあってバイクを少しバンクさせるだけで、フロントの舵角がすっと自然に素早くついてくれるのはオフセットの多いステムの影響だろう。ワインディングを適度なペースで走るのであれば、浅いバンク角でこのステアリングの動きを利用して走るのがとても楽しい。あまりバンクさせなくても気持ちよく向きを変えてくれるのである。
ソフトでよく動くサスペンションも低い速度域でバイクを操るのに適した設定。低中速型エンジンもこのハンドリングと実に良くマッチしているから、適度なペースで峠を流しているのがとても楽しくなる。

ただし、ペースを上げてワインディングを攻めようとすると難しくなる。強引に切り返せば柔らかいサスペンションが落ち着かなくなるしエンジンもぶん回すと使いにくい部分がある。縦置き、シャフトドライブの癖は普段ほとんど気にならないのだけれど、高回転を常用するとタイミングによってパワーのオンでリアショックが若干突っ張り気味になってしまうこともある。バイアスタイヤもグリップや安定感がラジアルほど高いというわけではないから、攻め立てようとすると操作がシビアになってくるのである。

ただ、これはV7の評価をさげるものではないだろう。多くのスポーツバイクが使い切れないくらい高い性能を持っているのに対し、V7はそういった余分な性能を追い求めていないというだけのこと。その結果、実用域で楽しく走れるバイクになっているのである。

刺激的なバイクを求めるライダーにV7は物足りないかもしれないが、ストリートを常識的な速度で楽しむライダーにとってみればとても魅力的な存在だと思う。

前述したようにモトグッツイのVツインは排気量やモデルによってキャラクターが大きく異なる。もしも興味があるのであれば、色々なモデルに乗ってみることをオススメしたい。他のメーカーのバイクにはない個性と楽しさがあることが分かるだろう。

ポジション&足つき(身長178cm 体重75kg)

ポジションは軽い前傾。長距離でも無理のない自然な姿勢になる。乗り心地も良好だ。

縦置きのVツインエンジンは、重心が通常よりも前で高い位置にあるような印象。そのためにバイクを傾けたり引き起こすときに重さを感じることもある。

車体がスリムなので足つき性も良い。シート高は780cmだがサスが沈むので両足ベッタリとついて更に膝が曲がる。

ディテール

フロントタイヤは100/90-18。短めなフロントフェンダーがスポーティーな印象。
エンジンは空冷4ストローク90°V 型2気筒 OHV 2バルブで排気量は853cc。ボア×ストロークは84mm×77mm。最大出力65 HP (48 kW) / 6,800 rpm、最大トルク73 Nm / 5,000 rpmと中速域を重視した特性になっている。
サイレンサーは左右2本出し。上品で力強い排気音はモトグッツィの魅力。後輪を駆動するシャフトが見える。
リアブレーキはΦ260mmのローターに2ピストンキャリパーの組み合わせ。
リアサスペンションはリザータンクなしのオーソドックスなデザイン。動きはスムーズでソフトなセッティングになっている。
シングルシート調のシートカウルはオプション品。
シートカウルを取り外せばタンデムも可能だ。
シート下にはバッテリーや電装品が収納されている。
フロントブレーキはΦ320mmのディスクにブレンボの異径対抗4ポットキャリパーを組み合わせる。
LCDメーターはシンプルで表示も見やすい。
エンジン 空冷4ストローク90°V 型2気筒 OHV 2バルブ
総排気量 853 cc
ボア × ストローク 84 mm × 77 mm
最大出力 65 HP (48 kW) / 6,800 rpm
最大トルク 73 Nm / 5,000 rpm
燃料供給方式 電子制御燃料噴射システム
始動方式 セルフ式
トランスミッション 6速リターン
クラッチ 乾式単板
フレーム 高張力鋼管ダブルクレードル
フロント サスペンション Φ40㎜ 油圧式テレスコピックフォーク
リア サスペンション ダイキャストアルミ製スイングアーム 油圧式ツインショックアブソーバー
スプリングプリロード調整式
フロントブレーキ 320 mm径ステンレスフローティングディスク
Brembo製異径対向 4ピストンキャリパー
リアブレーキ 260 mm径ステンレスディスク フローティング2ピストンキャリパー
フロントタイヤ 100 / 90-18″ 軽量アルミキャストホイール
リアタイヤ 150 / 70-17″ 軽量アルミキャストホイール
全長 / 全高 2,165 mm / 1,160 mm
シート高 780 mm
ホイールベース 1,450 mm
燃料タンク容量 21 L
乾燥重量 198 Kg
車両重量 218 Kg ※走行可能状態 (燃料は90%搭載時)
主要装備 DRL付きフルLEDライトパッケージ, LCDメーター, MGCTトラクション
コントロール, 2チャンネルABS, フロントフェアリング, バーエンドミラー,
アルミ製ビレットフューエルキャップ, “CORSA”プレート付ハンドルバークランプ

 

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