東京都羽村市で焼き鳥屋「やきとりBarすたいる」を営むすたいるマスターさん。店主であるのと同じくらい、いやもしかするとバイクのカスタム界隈ではさらに有名人。自宅ガレージに工作機械を設置してあらゆるパーツを手作りしてしまい、独自のスタイルにカスタムすることを長年楽しんでいる。製作したバイクたちがネットで有名になり、排気量問わずバイクなら何でも手掛ける。取材でお邪魔した時には知人に頼まれたということで、カワサキZをレストア&カスタムされていた。
2024年のカフェカブミーティングin青山にもその姿を見せ、インターネットを通じて知り合った人や旧知のカブ仲間たちと交流を深めていた。ミーティングに展示されたのが今回紹介するスーパーカブ50で、実に良くまとまっている。一見すると普通に感じられるほどだが、よく見ると手を加えていない個所を見つけるのが困難なほど。スタイル最大の特徴はなんといっても足回りだろう。
前後にキャストホイールを組んでいるのだが、フロントフォークがボトムリンクではなくテレスコピックに変更してある。これは以前に紹介したカイキチさんの記事でも触れた個所で、すたいるマスターさん自らステムを製作して装着しているのだ。アッパーカバーもスーパーカブ110のようなデザインで作り出し、ボディ同色でペイントしてあるので違和感がない。
さらにはフロントフェンダーがリトルカブのようにフォーク部へ伸びる後ろ部分をカットしているので、赤いシートともどもリトルカブがベースのように感じさせている。使ったフロントフォークはDio純正で、ステムを作りつつフォーク自体をショート加工している。これらすべてをすたいるマスターさん自ら作ったパーツで実現させているのだ。
さらに注目なのがキャストホイール。使ったのはNS-1純正の17インチだが、そのままだと太いためフェンダー内に収まらない。そこで細く削ってスーパーカブのフェンダーに収まるよう加工してある。さらにはリムにも注目。白く塗装したホイールはVFRをイメージして作ったデカールを貼っているのだ。しかも貼る位置までVFRと同じになるよう計算している。すごいこだわりなのだ。
さらにはフロントだけでなく前後ともにディスクブレーキ化を果たしている。フロントに使ったのはニッシンの6ポットキャリパーで、キャリパーサポートもアルミ材を自ら削り出して製作している。組み合わせたディスクローターはNS50用のφ220mm仕様。いかにも付けました的な印象はなく、ごく自然に収まっているのは、どこにも無理がないからだろう。
リヤブレーキをディスクにするのは難易度が高そうだが、こちらも自然な感じに収まっている。やはりキャリパーサポートを自作していて、使ったのはHRC製のRS250用キャリパー。意外なことに数年前までは比較的安価に買えたそうで、レーサー用だから効きはバッチリ。スイングアームはカブ純正のままで、加工などは必要ないとのこと。
もちろんエンジンにも手を加えている。SP武川製ボアアップキットで排気量を拡大しているが、エンジン本体をモンキー用に変更している。そのため自動遠心クラッチではなく手動のクラッチとなっていて、クラッチそのものはCD90用を組み込む。ただ4枚は入らないので3枚に減らしているそうだ。さらに組み合わせたミッションはモンキー用の5速。
ここも以前に紹介したカイキチさんの記事で触れているが、クラッチカバーも同様の手法で他車用を溶接している。エキゾーストパイプはブレーキペダルを逃げるように加工してあり、絶妙な角度で取り回されている。
キャブレターはPWK28としてボアアップしたエンジンにセッティングしている。チラッと見えるサイドカバーは50周年スペシャル用で、部品単位で購入したもの。またクラッチ仕様の5速ミッションなのでシフトペダルも通常のつま先だけで行えるものとしている。SUPERCUBの文字が入るクランクケースカバーは正体不明なのだが、おそらくキジマの試作品とのこと。
絶妙なタレ角となるハンドルは短くショート加工されている。カットしてから溶接するわけだが、その時に角度をつけているのだ。ハンドルカバーも同じサイズにカットするが、ウインカー部をしっかり再利用している。純正より大幅に中央寄りになるのだが、これがあるだけでカブらしい風情が得られる。ちなみにブレーキレバーはマスターシリンダーごとBMW純正を移植している。
赤いシートはシャリィ用の社外品でカブらしく見えるようにパイピングを施している。同時に注目したいのがタンク部に追加されたSuper Cubの文字。これは型を作ってアルミパテを流し込み、固まったところで取り出して貼り付けている。ボディ同色だから気づきにくいが、随所にこのようなカスタムが施されている。これまで何台もバイクをカスタムしてきた人だからこそできる技なのだろう。