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KOVE・450RALLY……1,380,000円
KOVE450RALLYは極めつけにスパルタンなマシンである。何しろダカールラリーを完走したマシンそのものを市販車にしているという触れ込みだ。世界中のオフロードヘビーユーザーたちがこのマシンに興味を持ったことは言うまでもない。今回はそんなKOVE450RALLYを舗装路と林道を走らせてみることにした。
もちろんそれだけでは本格的ラリーマシン本来の力を知ることはできないから、KOVE450RALLYを良く知るショップのコメントも含めて様々な方向からこのマシンを見ていくことにしたい。
ノーマルでラリー参戦が可能
Kove Motorcyclesは、元プロのエンデューロおよびオフロードライダーであるZhang Xueによって2007年に設立された。中国の重慶に複数の工場を持ち、ほぼすべての部品を自社生産している。創業者の経歴を考えれば、この会社がオフロードバイクを重視しているのは無理もないこと。オンロードバイク含め様々なラインナップの中を充実されている中で、特に力が入っているのが4年間の開発期間を経てリリースされた450RALLYである。
EICMAで発表されたこのモデルは、中国が日本や欧米のモーターサイクルメーカーに真っ向勝負を挑んだマシンとして大きな話題を呼ぶことになった。
「ダカールスペックを公道で」というコンセプトに偽りはない。ハイスペックな450cc単気筒エンジンを130kgという軽量な車体に搭載し、前後の燃料タンクは30リットルの容量を確保している。ダカールをはじめとする過酷なラリーを戦うことを最優先とした設計が行われていて、そこに排出ガス規制に対応したエンジンを搭載するなどストリートを走るために必要な要素が与えられた。
ラリーマシンに必要な要素はストリートにも通じる部分がある。ロングディスタンスのラリーでは速さのみならず、信頼性やライダーを疲れさせない快適性なども求められるからだ。これで日本での販売価格は1,280,000円。本格的なレーシングマシンでストリートリーガルということを考えると相当にお買い得である。
実車を前にするとラリーマシンらしいオーラが漂っている。チープな雰囲気は微塵もしない。アッパーカウルや燃料タンクがクイックファスナーで固定されているなど実戦的で、思い切った設計はやはり一般的なオフロードバイクとは別物だ。
今回、参考にお話しを聞いたのはストレンジモーターサイクルの和泉さん。エンデューロの国際ライダーでもあり、国内の様々なハードエンデューロなどに参加しているエキスパートだ。和泉さんは当初KOVEにさほど興味を持っていなかったという。以前、中国製バイクで色々と苦労した経験があったからだ。ところが450RALLYに触れて印象が180度変わった。
「実車に触れてみたらすごく良かったんですよ。まず作りがちゃんとしていました。使っているボルト類やコネクターなどを見ればある程度分かるじゃないですか。これだったら理不尽な壊れ方はしないだろうと思いました。リアのタンク自体が剛性部材になっていてシートレールを廃しているし、サイレンサーだってタンクにステーを介して直接取り付けられている。軽くするために相当思い切った作りになっていました。国産ではこういうバイクは作れないと思います。勢いを感じました。」
そして実際に乗ってみて450RALLYの素晴らしさを知ることになる。
「一番の魅力はポジションでした。オフロード走行では前の方に座れることが重要です。でも普通のオフロードバイクに大きなタンクをつけてしまうと前に座れないバイクになってしまいます。450RALLYはタンクが左右に別れているからシートが前の方まであって、エンデューロバイクやモトクロッサーのようなポジションになっていたんです。最初から考えて設計しないとできないんですよ。あれくらい大きなタンクのオフロードマシンでそんなポジションになっているバイクは他にありません。」
試乗をしてその可能性を感じた和泉さんは販売代理店となることを決めた。そして自らも450RALLYを購入してセットアップやチューニングなどの方向性を探っていくのである。
レーサーなのに扱いやすいエンジン
エンジンは荒々しい。スロットルを開けると鋭いレスポンスで反応し、吸気音が響く(吸気音はかなり大きめ)。電子制御で乗りやすく調教されている最近のマシンとはまったく違う乗り物であることがわかる。
エンジンは低回転でもそれなりにトルクはあるけれど、ガタガタと若干ガサツな感じがするが、4000rpm位からシャープに回り出す。8000rpm位まではさすがレーシングマシンという感じ。非常にパワフルで鋭い加速をしてくれる。パワーのピークは8000 rpm前後。レブリミットの9000rpmに近づくと若干パワーがドロップしてくるが、レースではこれくらいの特性の方が使いやすいだろう。
6000rpm位までを使ってクルージングしている状態であれば振動はほとんど感じない。スロットルを開けたときは4000rpm位からタンクがブルブルレと細かく振動し、6000rpm位からはハンドルにも細かな振動が出てくるが、それほど激しいと言う感じはしない。パワーが出てくる6000rpmから8000rpm位までは振動が増えてレブリミット付近ではタンク、ハンドル、ステップなどにも強めに出る。トップギア100km/h巡航の場合は6000rpm弱なので、高速道路のクルージングは快適。直進安定性も高く防風性能もそれなりにあるから思っていたよりもずいぶん快適。ストリートバイクに比べるとシートが固いところが少し気になるくらいだ。
このエンジン、ラリーなどで走ることを考えていてモトクロッサーほど激しくはないので、それなりに扱いやすさもある。フライホイールマスが少なめなので、回転を落としてしまうとストンとエンストしてしまうこともあるけれど、ストリートバイクでもこれくらいのマシンは他にもある。打倒なところだろう。一日色々な場所を走ってみたがエンジンに関して極端に激しくて扱いにくいという感じは受けない。
こんな書き方をしたら失礼かもしれないが、エンジンはとてもキチンと設計されている感じがした。中速以上を使っていればがさつな感じもなくスムーズに回るから走っていて気持ちが良い。ミッションのタッチも良く、ペダルを軽く踏めば確実にシフト操作ができる。加工精度が十分に高いからである。
これまで様々なマシンでレースをしてきた和泉さんにエンジンに関して聞いてみると、概ね満足している様子だ。
「高回転まで回すとパワーはあります。低回転はガサガサしているけれど、回転が上ってくると調律が取れてくるような感じは初期のWRに似ています。ただ、競技用のマシンに比べるとトルクは少ないですね。厳しい排出ガス規制をパスしたエンジンだとこれくらいのパワーが限界なのではないかと思います。」
レース前提の足回り
試乗車にはテクニクスのサスペンションが装着されていた。このサス、オンロードでもとても良い感じの動き方をする。しなやかでストロークがあるのに、オンロードの加減速でむやみやたらと姿勢変化をしない。沈んでいくと奥の方でしっかりと踏ん張ってくれる。
オンロードでのハンドリングで感じるのはフロントの安定感が高いこと。車体自体がとても軽いので重さを感じるようなことはないのだが、車体をバンクさせたときもフロントタイヤはまっすぐ進もうとするような感じだ。ハイスピードのオフロード走行では頼りになる特性だろう。
ハンドリング自体は素直。重心が高いことなどもあって、バンクさせるとユックリとバイクが勝手に倒れていくような感覚はあるのだが、特に違和感を持つほどではない。
今回テストで走ったような比較的フラットなオフロードでは非常に走りやすい印象だった。スピードを上げたときの安定感はさすがにラリーマシンという雰囲気で安心して走ることができる。廃道的な場所では持て余すこともあったがこれは450RALLYの使い方とはちょっと違う。今回は走ることができなかったがスピードの出るセクションなら素晴らしい走りを見せてくれそうだ。
車体とサスペンションに関しても和泉さんは高評価だ。
「サスは相当しっかりしています。フロントフォークはツインチャンバーになっていてしっかり感が凄い。ただノーマルはハイスピードラリー用なのでバネレートが高くて使いにくい。モトクロスコースを走っても底突きしないくらいです。林道レベルでは使い切れないので柔らかくする方向でセッティングしています。サスのパーツにはCRFの部品が流用できるからリバルビングやスプリングレートの変更も簡単です。僕はテネレも使っているけれどハイスピードでオフロードを走ることを考えたセッティングにするのは大変です。それこそサスを変えたほうが早い。でも450RALLYはセッティングでどうにでもできます。そこがとても良いところです。」
ラリーを前提にマシンを作っているからセッティングがハード。その点を改良して、一般的な使用まで考慮しているのが、今回試乗させていただいたマシンに装着されていたテクニクスのサスペンションなのである。
林道ツーリングに最適なマシン
前述したように高速巡航性能は高く、この手のオフロードマシンとしては快適だから(シートは硬めだが)、高速道路を走って林道を走りに行くという使い方にはピッタリだ。「スパルタンなオフロードバイクが欲しい」あるいは「本物のレーシングマシンを公道で走らせたい」「オフロード性能が高いバイクに乗りたい」というようなライダーには相当に魅力的なバイクだ。国産には今、こういったマシンはないし、ヨーロッパ製のマシンと比較してもまったくひけを取っていない。
和泉さんに聞くとこのマシンの魅力はそこだけではないよう。
「実はこの450RALLYっていじるのが楽しいんですよ。今は中型クラスのバイクでもトラクションコントロールなどの電子制御があるので簡単にいじることができません。ECUにもプロテクトがかかっているので簡単に交換することができないんです。でも450RALLYは電子部品が少ないので、何をしてもエラーが出ない。アメリカやヨーロッパでは色々なアフターマーケットパーツが開発されていてECUなども色々あるんです。しかも安価。純正部品も安いです。タンクもアッセンブリーで35,000円程度でした。最近は450RALLYを買っていただいたお客さん達と情報共有しながら、原付きをいじって遊んでいたときのような感覚で楽しみながらマシンを改良しています。」
EVで中国の自動車が日本を追い越す勢いで進化しているのは周知のことだが、エンジンを搭載したバイク、しかもストリートリーガルのレーシングマシンがこの価格とこのクオリティで登場してくることには正直おどろきだった。エンジンでも世界のトップを狙うのだというようなエネルギーが伝わってくるバイクだった。
450RALLYは誰にでもすすめられるマシンではない。しかしオフロード好きなライダーにとっては限りない魅力に満ち合われていることは間違いない。他にはないオンリーワンのバイクである。
ポジション&足つき(身長178cm 体重75kg)
長距離のRALLYを走ることを想定したポジションは疲れにくい。シートは競技を考えてスポンジが硬めになっている。
ストリートを考慮したテクニクスのサスペンションが沈み込むこともあり、予想していたよりもずいぶん足つき性は良かった。車体がとても軽いのでバイクを支えるのにまったく苦労しない。
ディテール解説