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カワサキ・KLX230 シェルパ……63万8000円(2024年12月25日発売)



極低回転域での粘り強さと優秀なレスポンスに感心しきり

「シェルパ」と聞いて懐かしさを覚えた人は間違いなくベテランライダーだろう。カワサキのデュアルパーパス「スーパーシェルパ」が発売されたのは、およそ30年前の1997年のことだ。当時の競合車であるセローはまだ225ccであり、DOHC4バルブ&250ccフルサイズのスーパーシェルパは、エンジンの元気の良さが際立っていた。
日本での販売終了から18年が経ち、シェルパの名が復活した。車名に「スーパー」を冠さないのは、先代よりもパワーが控えめだからだろうか。ベースとなっているのはローダウン仕様のKLX230 Sで、外装や車体色、装備をアウトドアテイストとして差別化を図っている。なお、車両価格はKLX230 Sから4万4000円アップの63万8000円で、これはホンダ・CRF250Lよりも1万6500円高い設定だ。
今回はKLX230 Sと同日に試乗することができた。シェルパはハンドガードやスキッドプレートなどを追加しているにもかかわらず、KLX230 Sよりもやや小さく見える。おそらくシュラウドがコンパクトにデザインされているからだろう。個人的にKLX230 Sのシュラウドに対しては、空冷エンジンなのにこれほど大きなものが必要か? などと思うところがあるが、シェルパに乗り換えると明らかに手前の路面が見やすく、特に林道ではシュラウドのコンパクト化のメリットを実感する。
232ccの空冷SOHC2バルブ単気筒エンジンは、かつてのスーパーシェルパが26psを発揮していたことを考えると、18psという公称値はやや控えめだ。このクラスは積載重量や上り勾配でパワーの差が出やすいのだが、少なくとも空荷かつ一般道の走行においては20psのセロー250よりも元気が良く、特に市街地ではキビキビと走り回れる。特に感心するのはエンストのしにくさで、ローギアのまま10km/hを下回るまで時速が落ちても、半クラを使わずに済むほど制御系が調教されている。狭い林道でUターンする際に何度も助けられたほか、右手でトラクションを制御しやすい絶妙なスロットルレスポンスもこのエンジンの長所だ。
車体剛性は十分以上、高荷重に耐えられそうな雰囲気あり

KLX230 Sからシェルパに乗り換えると、ハンドルバーの仕様違いからか、手に伝わるエンジンの微振動が若干マイルドに感じる。ただ、これは慣らし運転の進捗具合や個体差の可能性も捨てきれないので、あくまでも参考までに。ハンドリングについては、KLX230 Sと同様にフルサイズトレール車とは思えないほど旋回力が高く、オンロードモデルから乗り換えてもすぐにこの操縦性に慣れるだろう。
シェルパはハンドガードやガードバーを標準装備しており、それによって増えたステアリングモーメントを相殺するため、アンダーブラケットはKLX230 Sのスチールからアルミ製へと変更されている。それもあってか、ワインディングロードで何度も乗り比べたが、ハンドリングに大きな違いは感じられなかった。なお、速度が上がるほどKLX230 Sの方が倒し込みや切り返しが重くなるように感じたが、これはシュラウド形状の違いによる空力の差が影響しているのかもしれない。
さて、筆者はかつてセロー250のファイナルエディションを所有していた時期があり、キャンプ道具を満載して北海道をはじめ全国各地に出掛けていた。そこで、同じことがシェルパで可能かどうか、ここまでの走りを踏まえて少し考えてみた。
まずはネガティブな面から。シェルパはサイレンサーの張り出しが大きく、サイドバッグを付けると全幅がかなり広くなるばかりか、左右バランスが大きく崩れる可能性大だ。また、純正アクセサリーでラージサイズとスモールサイズのリヤキャリアが用意されているが、シート座面との高低差がある設計のため、大容量のシートバッグを安定して積載するには何らかの工夫が必要だろう。

続いてはポジティブな面だ。シェルパのシャシーはフレーム、足周りともに剛性感が高く、柔軟に過ぎるセローほど高速巡航で緊張を強いられることはない。ちなみにセローは荷物を満載すると高速巡航で振られが発生しやすく、特にキャンツー派は純正アクセサリーのパフォーマンスダンパーが必須とも言える。なお、エンジンのパワーについては、排気量が7.3%、最高出力が2ps大きい分だけセローにわずかな余裕を感じる場面もあるが、高速巡航においては5段ミッションのセローよりも6段のシェルパの方が明らかに快適だ。
加えて、ブレーキがしっかり利くというのもシェルパの長所だろう。セローは未舗装路での扱いやすさを重視した設定なのだろうが、シェルパは十分以上の制動力を確保しつつ、万が一の際にはABSでライダーをサポートするというスタンスであり、こんなところにも設計年度の開きが感じられる。

KLX230 シェルパのPVにはキャンプシーンやダート走行が印象的に使われており、まさにそんな使い方に適したモデルと言えるだろう。昨今、キャンプブームが下火になったとはいえ、このSUVを思わせるシェルパのスタイリングと車体色は、少なくとも日本ではベースとなったKLX230 Sより人気が出そうだ。なお、水冷シングル/24ps/倒立フォークのCRF250Lよりも車両価格が高いことが最大の懸念点だが、このスタイリングに惚れた人なら値段差など気にしないだろう。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)
ライディングポジション、足着き性はKLX230 Sに準じる。シート高845mmはセロー250の830mmより15mm高いが、着座位置のクッション性はシェルパの方が良いと感じる。なお、車重はセロー250より1kg重い134kgを公称。最小回転半径はセロー250の1.9mに対し、2.1mとなっている。