ヤマハ製パラレルツインを搭載するファンティック・キャバレロ・スクランブラー700、旧知の仲間とじっくり考察 1000kmガチ試乗【2/3】

絶対的な評価はさておき、バイクの印象は乗り手の趣向や体格や技量によって大きく変わる。今回の試乗期間中のツーリングで、4人の仲間に約1時間の試乗を依頼した筆者は、その事実をしみじみ実感することとなった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
協力●モータリスト合同会社 https://motorists.jp/

ファンティック・キャバレロ・スクランブラー700……1,750,000円

車名とルックスから推察して、1960~1970年代に人気を誇ったスクランブラーをイメージをする人が多そうな気がするけれど、このバイクの乗り味は現代的で、旧車的な雰囲気は希薄。

4人のツーリング仲間に試乗を依頼

第1回目の最後に記したように、第2回目はキャバレロ・スクランブラー700の具体的な魅力を記すつもりなのだが、今回はいつもの当記事とは趣向を変えて、僕の古くからのツーリング仲間である、清本さん、本村さん、平川さん、池野上さんの言葉を主軸にして、インプレを展開したい。もちろん、広報車の又貸しは厳禁だから、僕以外のライダーが乗ることは事前に輸入元のモーターリストに申請済みで、試乗の方法はツーリングの途中で僕と交代して各人約1時間ずつ、という形で行った。

ちなみに僕と4人のツーリング仲間は、もともとはスポーツスターつながりで仲良くなり、二十数年前から一緒に走るようになったのだが、現在もアメリカンVツインにこだわる本村さんと平川さん(と僕)とは異なり、清本さんはヤマハMT-07、池野上さんはスズキSV650やロイヤルエンフィールド・ヒマラヤなどを、近年の愛車にしている。そして興味深いことに、キャバレロ・スクランブラー700の見解は、現在もスポーツスターを愛用する派とそうでない派に分かれることとなった。

清本さんと池野上さんは大絶賛‼

筆者のツーリング仲間は、いずれもバイク歴30~40年前後のベテラン。右から、池野上さん、清本さん、本村さん、平川さん。

まずはキャバレロ・スクランブラー700と同じCP2エンジンを搭載する、MT-07オーナーの清本さんの印象から。なお21年に新車で購入したMT-07に対して、当初の清本さんは乗り味に違和感を抱いたものの、前後ショックの設定を刷新することで問題はおおむね解決。以後は快調に距離を伸ばしているようだが……。

「走り始めて十数分で、これだ‼と思いました(笑)。私が感心したのは、とにかくアクセルが開けやすくて、加速がムチャクチャ楽しいこと。その一番の理由は、車体に絶大な安心感があるからですが、パワーユニットの反応も理想的。逆に言うならノーマルのMT-07に対して、車体は何となく信頼できない、エンジンは開け始めのレスポンスが唐突な一方で低速トルクが物足りない、と私は感じていたのですが、キャバレロ・スクランブラー700はそのあたりの不満を見事に解消していました」

パッと見はシンプルでオーソドックスだが、LEDヘッドライトは超薄型。ステアリングステムはアルミ削り出し。

「もっとも今の私は、足まわりに手を入れた愛車が気に入っているので、すぐに乗り換えようとは思わないですが、久々にフロント19インチで前後輪が細身のバイクに乗ると(F:110/80R19・R:150/70R17。MT-07はF:120/70ZR17・R:180/55ZR17)、悪路が好きな自分のツーリングには、やっぱりこういう構成が向いている気がしますね」

そういった見解は池野上さんも同様なのだが、清本さんとは異なる視点でこのバイクの魅力を語ってくれた。

「車体に関しては、当初はクロモリ製のフレームが硬いような気がしたのですが、前後サスの設定が絶妙だからか、硬さをマイナス要素と感じる場面はありませんでした。前後サスの設定は本当に絶妙で、乗り心地が上質なだけではなく、ここぞという場面での踏ん張り、スロットルを開けた際のトラクションも秀逸だと思います」

ダイヤモンドタイプのクロモリ製フレームは、ファンティックのオリジナル。フロントフォークはφ45mm倒立式、リアサスペンションはボトムリンク式で、アルミスイングアームはテーパータイプ。

「パワーユニットについては、ドライバビリティが素晴らしいですね。スロットルをガバッと開ければガツーンと力が出てきて、そのまま高回転域まで勢いよく回るのですが、一方で6速3000rpmからでも滑らかに加速するので、まったり巡航も楽しめる。元気が良くても、ヤンチャではないんですよ。そういった懐が広い特性には、独自のインジェクションマップを作ったファンティックの技術者のこだわりを感じました」

シート下に収まるECU:エンジンコントロールユニットは、ファンティックのオリジナル。設定だけではなく、ボディもヤマハとは別物。

というわけで、スポーツスターから現代のバイクに乗り換えた2人は大絶賛である。念のために気になる点を聞いてみると、清本さんはシングルディスクのフロントブレーキに物足りなさ、池野上さんはウインカースイッチの曖昧なタッチに違和感を覚えたようだが、そのあたりはあえて言えばの話で、2人ともキャバレロ・スクランブラー700の資質に大いに心を動かされたようだ。

予想以上に高い悪路走破性

ところで、清本さんと池野上さんは未舗装路での性能にも興味津々だったのだが、今回の試乗で走ったのは舗装路のみ。ただし、僕は撮影を兼ねたツーリングで林道や砂浜を走っているので、以下にその印象を記すと……。

予想以上にイケた。もっとも、装備重量は181.5kgでホイールトラベルは前後150mmだから、250ccクラスのトレール車(参考値としてヤマハ・セロー250の最終型の数値を記すと、133kg・F:225mm/R:180mm)ほどイージーではないし、絶対的な悪路走破性は同じCP2エンジンを搭載するアドベンチャーツアラーのテネレ700(205kg・F:210/R:200mm)に及ばないだろう。とはいえ、キャバレロ・スクランブラー700の美点は路面状況が悪化しても健在だったので、僕は自信を持って未舗装路を走ることができたのである。

本村さんと平川さんの意外な指摘

続いては、2人のスポーツスター乗りによるちょっと微妙な見解を紹介したい。2002年型XL883を愛用する本村さんは、どんな印象を抱いたのだろうか。

「先に断っておきますけど、このバイクはすごく魅力的で面白くて、清本さんと池野上さんの意見には私も同感です。ただし、60歳という自分の年齢と、普段の自分のツーリングのペースを考えると……。このバイクはピチピチしすぎなんですよ(笑)。フロント19インチでも、スポーツスターのように穏やかなセルフステアが感じられず、自分自身で曲げるという意識を持つ必要があることも、個人的には気になった要素です」

肯定派の2人の意見と似たような展開になるけれど、1998年型XL883に乗る平川さんの見解も、本村さんと通じるところがあったようだ。

「ルックスからも乗り味からも、キャバレロ・スクランブラー700は造り手の主張がビンビン伝わって来ますよね。僕はそういうバイクが大好きなので、異論はあまり言いたくないのですが……。数年前に友人から借りたヤマハのXSR700や、これまでに何度か乗せてもらった清本さんのMT-07と比較すると、ファジーな領域が少ない気がしました。もちろん、だからこそのダイレクト感があって、そこが好きな人がいるのはわかるんですけど、個人的にはもうちょっと曖昧で、適度なユルさを感じる乗り味のほうが好みです」

第1回目で記した通り、僕はキャバレロ・スクランブラー700に“我が意を得たり‼”という印象を抱いたので、本村さんと平川さんの言葉は目からウロコだった。逆に言うなら、2人が僕の気持ちを代弁するかのような美点を挙げてくれた一方で、2人が意外な一面を指摘してくれたことで、いつものガチ1000km試乗と比較すると、今回の原稿は厚みが出たような気がする?

万人向けではないけれど……

試乗に協力してくれた4人のキャバレロ・スクランブラー700に対する見解をまとめると、刺さる人にはグサッと刺さるものの、万人向けではない……ということになるのだろうか。もっとも僕は、万人向けではないことを悪いとは感じていない。と言うよりファンティック自身も、わかる人にわかってもらえればOK、という意識でこのバイクを作っているような気がする。

ただしキャバレロ・スクランブラー700は、決してピンポイントで尖ったキャラクターではない。自分の趣向に合致しないと言った本村さんと平川さんだって、乗りづらい、敷居が高いなどという言葉は使っていないのだから。あら、まとめのつもりが、何だかとりとめがない展開になってきたが、たとえ万人向けではなくても、ヤマハのCP2シリーズを含めた他機種では味わえない魅力を備えるこのモデルを、今現在の僕は1人でも多くの人に体感して欲しいと感じているのだった。

純正タイヤはピレリ・スコーピオンラリーSTR。F:110/80R19・R:150/70R17というタイヤサイズは、一昔前のアドベンチャーツアラーの定番だから、アフターマーケット製の選択肢はかなり豊富。

主要諸元

車名:キャバレロ・スクランブラー700
全長×全幅×全高:2164mm×890mm×1136mm
軸間距離:1453mm
シート高:830mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:689cc
内径×行程:80.0mm×68.6mm
圧縮比:11.5
最高出力:54.4kW(74ps)/9400rpm
最大トルク:70N・m(7.14kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ 
 1速:2.846
 2速:2.125
 3速:1.632
 4速:1.300
 5速:1.091
 6速:0.964
1次・2次減速比:1.925・2.813
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:150/70R17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
乾燥重量:175kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13.5L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…