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アメリカの砂漠で華開いたロイヤルエンフィールドのスクランブラー
ロイヤルエンフィールド(以下RE)はイギリスに起源を持ち、その後インドで育ったバイクブランドだ。そんなメーカーがラインナップする新型車が“アメリカン”とはどういうことか。説明しよう。
1960年代、アメリカは二輪車の巨大市場だった。そこでシェアを拡大しようと、世界中の二輪車メーカーが個性豊かなモデルを次々に送り込んだのである。それは小排気量のコミューターであったり、大排気量でパワフルなフラッグシップモデルあったり…とにかくアメリカのモーターサイクルカルチャーのフィットするありとあらゆるスタイル&排気量のバイクがアメリカ市場向けに開発され、輸出されたことはご存じの通り。

REも例外ではなかった。1950 年代から大排気量化(といっても500cc)や多気筒化(といっても2気筒)を進め、北米市場への輸出を積極的に行う。余談だが、1955年から1960年までREはインディアン・モーターサイクルの車両を製造。150〜700ccまでの、単気筒および2気筒エンジン搭載車両をインディアン・ブランドで販売していた。そんななかREは、アメリカで人気のデザートレース(砂漠地帯でのオフロードレース)やフラットトラックレースでの活躍を受け、土系モータースポーツを使ったプロモーション活動を開始。土系マーケットに向けた新型車も開発していく。
その土系モデルとは、いまで言うところのスクランブラーやトラッカーと言ったスタイルのバイク。オンロードバイクをベースに、オフロード走行に適したタイヤやサスペンションをセットアップしたものだ。
そして1960年に発表されたのが、並列2気筒エンジンを搭載していた「CONSTELLATION 700(コンステレーション700)」をベースに、タイヤやサスペンションをアップグレードした「INTERCEPTER 700(インターセプター700)」であり、ここからREのインターセプターの歴史が始まったのである(現在日本とアメリカでは、商標権によってインターセプターという名前が二輪車に使用できないことからINT/アイエヌティと表記されているが…)。
エンジンもフレームも進化したツインプラットフォーム
今回ラインナップに加わった「BEAR 650(ベア・ロクゴーマル)」も、そのインターセプター(日本名INT)の系譜に連なるモデルだ。「BEAR 650」のエンジンは排気量648ccの空油冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒であり、それをダブルクレードルフレームに搭載する。このエンジンとフレームのコンビはツインプラットフォームと名付けられ、REが2018年にラインナップした「CONTINENTAL GT650(コンチネンタル・ジーティ)」や「INT650」と共通であることからも、その系譜であることが理解できる。
しかし「BEAR 650」は、ツインプラットフォームをベースに足周りや外観を変更してスクランブラーに仕立てたモデルではない。フレームやエンジンをアップデートし、オフロードでの走破性を高めて、スクランブラーとしてのパフォーマンス向上が図られているのだ。


具体的に解説しよう。REがラインナップする2気筒エンジン登載モデルは、そのエンジンは外観もメカニズムもほとんど共通(後から発売されたクルーザーモデルのSUPER METEOR650や、それをベースにしたSHOTGUN 650はシリンダーヘッドにエンジンマウントが追加されている)。最高出力も、わずかな違いこそあれ、ほとんど同じ約47PSである。しかし「BEAR 650」は、点火タイミングやフューエルインジェクションのプログラムを変更し、最大トルクおよび低中回転域での出力トルクを約10%増大させている。「BEAR 650」の2in1サイレンサーも、RE2気筒シリーズ初採用だ。
ダブルクレードルフレームは、ステアリングヘッド周りと燃料タンク下に専用のガセットを追加。シート下で左右フレームを連結するとともに、リアサスペンション取り付け部以降を新造して、フレーム剛性の最適化を図っている。またそれらによって、INT650と比べてストロークを20mm伸ばしたSHOWA SFF-BP倒立式フロントフォークをセット。フロントフォークとフレームを繋ぐトップブリッジやアンダーブラケットも、倒立フォークに合わせて変更している。開発陣に話を聞くと、倒立フォークのほか、19インチに拡大したフロントホイールによってフロント周りの重量が増えたこと。オフロードの走破性向上を狙ったこと。新しくしたリアフレーム周りにアクセサリーのパニアケースやソフトバッグを装着した長距離およびオフロードのツーリングで走行安定性と快適性を高めることなどが、フレーム剛性アップに踏みきった理由だと説明してくれた。
キビキビと走るロードスター的スクランブラー
それらの変更は、走りのパフォーマンスに明確に現れていた。低中回転域でもトルクを増したエンジンは力強く車体を前に押しだしてくれる。アクセル操作に対する反応は唐突なものではなく、シリンダー内での爆発の粒が大きく力強くなったような印象で、アクセル操作に対する車体の反応がリニアになった。そうなるとコーナーの起ち上がりで早めに車体を起こしてグッとアクセルをひねり、加速していくのがじつに楽しい。2in1サイレンサーからの歯切れの良い排気音が、その加速感をさらに力強く演出してくれる。


前後サスペンションともにストロークを伸ばしているが、やや硬めにセッティングされていることでロードスター的にスポーツライディングしても不安定になることもない。スクランブラー的な、加減速時に車体の重心移動が大きくなるリアクションを想像していただけに、最初はもう少しサスペンションが動いて欲しいなぁと思ったが、良いペースでグループを先導するテストライダーに導かれるままにワインディングを走って行くうちに、このロードスター的なセッティングはありだな、と感じるようにもなってきた。
途中、撮影のためにオフロードセクションを走った、さすがにそのときはもっとサスペンションストロークを活かしたオフロード的なサスペンションセッティングが必要だと感じた。しかしそれさえクリアできれば、低中回転でのエンジンの力強さも相まって、フラットダートくらいならば十分にオフロードでのファンライドを楽しむことができるだろう。
ちなみにモデル名の“BEAR”は、1921〜1960年までカリフォルニア州にある「Big Bear Lake(ビッグ・ベア・レイク)」周辺で行われていたレース「Big Bear Motorcycle Run」をインスパイアしたもの。そもそもLAからのキャノンボールとしてスタートしたそのレースは、途中から湖周辺の砂漠地帯で行われるデザートレースへと進化。そして最終回となる1960年大会に、約800人のライダーの頂点に立ったのが、REの単気筒500ccをベースにスクランブラーに仕上げたマシンだったのである。
全米各地で開催されていた、「Big Bear Motorcycle Run」のようなデザートレースでの活躍をきっかけにREが北米でのプロモーションを強化したと言う話は、冒頭で述べたとおり。したがって、その名前を冠した「BEAR 650」が、カタチだけのスクランブラーモデルでないことは、容易に想像が付く。
スクランブラースタイルが気に入って「BEAR 650」を試してみたいというライダーはもちろん、ちょっとしたオフも楽しみたい何て言うライダーにも、是非試してもらいたい。
ライディングポジション&足つき(170cm/65kg)
前後サスペンションが伸びたことでグランドクリアランスは184mmと高くなったが、それにともないシート高も830mmとやや高め。ステップは、INT650に比べてやや低く、そして前側に移動している
ディテール解説
「BEAR 650」主要諸元

■全長×全幅×全高 2,216×855×1,160㎜■ホイールベース 1,460㎜■最低地上高 1840mm■車両重量 214㎏■エンジン形式 空油冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒■総排気量 648㏄■ボア×ストローク 78.0㎜×67.8㎜■圧縮比 9.5:1■最高出力 34.9kW(47.4PS)/7,150rpm■最大トルク 56.5Nm/5,150rpm■燃料供給方式 FI■燃料タンク容量 13.7L■フレーム スティールチューブラー・ダブルクレードルフレーム■サスペンション(前・後)SHOWA製SFF-BP43mm倒立タイプ/130mmストローク・SHOWA製ツインショック/プリロード5段階調整&115mmストローク■変速機形式 6速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー・270mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー■タイヤサイズ(前・後)MRF製NYLOREX-F 100/90-19M/C57H・MRF製NYLOREX-X 140/80B17M/C69H■価格 未定