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トライアンフ・タイガー 900 RALLY PRO…….1,860,000円
先にレポートしたタイガー900GTと、エンジンや車体は基本的に共通のコンポーネンツが使われている。しかし両車の決定的な違いは、GTが舗装路用途をメインに構築されているのに対し、RALLY はオフロード性能を追求した究極のアドベンチャー性能を踏まえているところだろう。
一目で違いが分かる具体的な装備内容の差は、前後ホイールにチューブレス対応のスポークホイールを採用。フロントはGTの19インチサイズに対して21インチの大径リムを使用しており、ギャップでの踏破性能に決定的な優位性を誇っているのである。
さらに前後サスペンションもSHOWA製の足(ストローク)の長い専用部品を選択する。フロントのホイールトラベルはGT(フロントフォーク:マルゾッキ製)の180mm に対してRALLY は何と240mm 。リヤもGTの170mm に対してRALLY は230mm 。つまりRALLY は前後共に60mmものアドバンテージを誇っている。
十分なロードクリアランスも確保され、不整地を走るポテンシャルを向上。さらにエンジンガードやアンダープロテクターの標準装備でヘビーデューティな仕上がり具合は一目瞭然。
アルミの大型パニアを装着すれば、そのまま冒険旅行に出掛けられる雰囲気は満点である。
余談ながらこの手のバイク人気を牽引したのは欧州市場だった。EU諸国からアフリカまでは、地中海を隔てて意外と近い。実際にアフリカのオフロード(砂漠等の不整地)を旅する冒険ツアーが開催されており、そこへの参加を夢見るユーザーは多い。
本格的なアドベンチャーマシンを購入し、日々オフロードライディングのテクニックを磨き、愛車の整備や改造に精を出しつつ本番に備えて準備する毎日は、ユーザーにとっては至福のひと時になることは間違いない。
そんな素敵なライフスタイルを、ロマン溢れる冒険シーンに夢を膨らませる価値は大きい。日本ではそんなバイクライフはなかなか真似できないが、それでもオーナーの充実感を満たしてくれる存在といえるだろう。
凸凹を探し求めて走りたくなってしまった。
試乗車のシートは下段に設定済み。20mm差で高低が選択できる。跨がるとGTより明らかに背が高く感じられた。GTは上段位置で試乗しシート高は830mm 。RALLYは下段で850mm 。地面につく両踵の浮き具合を撮影した写真で比較すると、大差無いようにも見えるが、実は膝をピーンと伸ばしている事等、20mm差には明確な違いが感じられた。
右足をシート後方に回して乗り込む時も、足を引っかけないように用心が必要。ただ、ハンドル位置が高くなったお蔭で、車体を引き起こす時の手応えが軽く感じられたのは好印象。そしてもうひとつ、タイヤサイズの違いからか、操舵フィーリングも軽快だ。
大きな車体には足つき性も含めて少々手強さを感じるものだが、扱いの軽さにはホッとする。実際ダート走行でも大柄な車体に対する不安感がいくらか軽減される感じである。
また前方視界に優れる見晴らしの良い乗り味は、いかにも本格派アドベンチャーモデルらしい壮大なスケールを感じさせてくれ、爽快な気持ち良さに包まれる。
ハンドリングは軽快だが、操舵レスポンスはゆったりと穏やかな感触。前輪の接地感ではGTに譲る感じだが、シッカリした直進性の強さはある。全体的に穏やかな挙動を邪魔しない素直な扱いを覚えるどんなステージでも快適に走れる。
エンジンの出力特性やギヤリングはGTと同じ。2,000rpmからでも十分良く粘る図太いトルクが発揮され、どんな領域からでも豪快なスロットルレスポンスを発揮。3気筒ならではの柔軟な出力特性は秀逸である。
しかし、もっと感心させられたのは、サスペンションの作動特性が格段に優れていた事。普段は滅多に遭遇しないであろう大きな段差や凸凹を、それもギャップに気づかず通過してしまうようなシーンでの衝撃吸収性とロードホールディングの素晴らしさは流石の出来であった。
ガツンと激しい衝撃に襲われるであろうと予想したが、路面からのショックは意外な程伝わってこない。実に巧みに吸収されて、長い足(サスペンション)からもたらされる緩衝具合は脱帽物である。
オフロード性能に長けたバイクの快適な乗り心地を理解すると、逆に荒れた所を探して走り、わざと大きめなショックを拾ってサスペンションの反応の良さに満足してみたい気分にかられてしまった。
正直言うと舗装路を走る限り、ここまで高性能な長足は必要ないと、冷静な目で見る一方の自分が居たのも事実だが、RALLYだからこそ駆り立てられる冒険心を胸に遠くまで旅してみたい。
まるでバイクから誘われている様な不思議な感覚を覚えた。“旅心がくすぐられる”、そんな魅力が感じられたのである。