BMW・G310GS試乗|312ccでもさすがGSシリーズと唸らせる、その走りを体感!

ロードスターのG310Rから遅れることおよそ半年、2017年11月から日本でも販売がスタートしたスモールアドベンチャーがBMWのG310GSだ。共通の基本骨格を持つG310Rと同様に2021年モデルで排ガス規制ユーロ5への適合に伴い、電子制御スロットルやスリッパークラッチなどを新採用した。2022年モデルは価格がアップしたが、それでもライバルより安価なのは魅力的だ。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー株式会社(https://www.bmw-motorrad.jp/ja/home.html#/filter-all)

BMW・G310GS……753,000円~(2022年モデル。塗色によって異なる)

試乗したのは2021年モデルであり、価格は709,000円に設定されていた。写真はGSシリーズ生誕40周年を記念した「40イヤーズGS」エディションカラーで、価格は+10,000円。
フューエルキャップの前方には「40イヤーズGS」エディションカラーであることを示すデカールあり。元ネタはバンブルビーの愛称で親しまれたR100GSのブラック×イエローだ。
灯火類がオールLEDとなり、さらにブレーキとクラッチレバーが調整機構付きに。スチールチューブラーフレームやタービンデザインのホイールなど基本骨格については変更なし。

どんな状況でも扱いやすい優秀な単気筒エンジン

世界的にアドベンチャーモデルの販売が好調だ。このジャンルの祖は1980年に登場したBMWのR80G/Sであり、窮地に追い込まれていた同社の経営を救った立役者としても知られる。その流れを汲む最新モデルはR1250GSであり、メインとなるEU市場では今なお2位に大差を付けて売れているという。
そんな40年もの歴史を持つ「GS」シリーズに、普通二輪免許で乗れるG310GSが加わったのが2017年11月のこと。基本骨格は同年6月に先行して発売されたG310Rと共通だが、ホイール径は前後17インチからフロントのみ19インチへと大径化。さらにホイールトラベル量をフロントは40mm、リヤは49mm伸長するなどして、アドベンチャーを名乗るに相応しい足回りを手に入れている。
さて、まずはエンジンから。排気量312ccから34psを発揮するこの水冷シングルは、シリンダーヘッドの前方から吸気して後方へ排気するという、通常とは真逆の吸排気レイアウトとなっている。この2021年モデルからワイヤーのない電子制御スロットルが採用されているが、レスポンスに関しては従来型と印象はほぼ同じ。単気筒でありながら人が歩く程度の微速域から非常にスムーズで、砂利道をトコトコと走る際にも無駄にリヤタイヤのグリップを失うことがない。一方、スロットルを大きく開ければ10,000rpmから始まるレッドゾーンまでフラットにパワーが盛り上がり、100km/hでの高速巡航も楽々とこなす。刺激や味わいこそ薄いが、どんなシチュエーションでも扱いやすいというのは大きな武器であり、パワーモードの切り替えシステムやトラクションコントロールの必要性を一切感じない。まさに実用に徹した優秀なエンジンと言えるだろう。


G310Rとは巧みに差別化、GSらしいハンドリングを構築

G310GSで最も感心させられるのがハンドリングだ。G310Rをベースにフロントホイールを17インチから19インチとし、ホイールトラベル量を前後とも40mmほど延ばしただけではあるのだが、シート高が50mm高いことによる重心位置の変化や幅の広いハンドル、40mm長くなったホイールベースなどの要素も加わり、そのハンドリングは明らかにデュアルパーパスのそれなのだ。
具体的にはフロントホイールの舵角の付き方が穏やかで、倒し込みや切り返しの際に適度な手応えがある。それは重いというよりも安心感と表現できるもので、実際にも外乱を受けたときの安定性はG310Rよりも明らかに高い。加えて、このときに伝わる低重心感はフラットツインエンジンのR-GSシリーズに通じるものであり、これに貢献しているであろうユニークなレイアウトの水冷シングルは全てにおいて理に適っていることを実感する。
前後のサスペンションのグレードがあまり高くはないので、フラットダートでバネ下だけがスムーズに動くというわけではないが、乗り心地という点ではG310Rを上回っており、よりロングツーリング向けと言えるだろう。
防風効果については、スクリーンが短いので上半身はそれなりだが、これについては社外品も含めてさまざまなサイズのものが用意されているので試してみてほしい。そして、下半身についてはシュラウドが大きく張り出しているため、特に膝周辺は冷気からほぼ完璧にプロテクトされる。ブレーキについては前後ともコントロール性は十分以上であり、コンチネンタル製のABSについても介入は適切だと感じた。
直接的なライバルはホンダの400X(858,000円)やKTMの390アドベンチャー(829,000円)などだ。G310GSは2022年モデルで44,000円アップしたとはいえ753,000円であり、この2車よりも安いというのは大きなアドバンテージである。アドベンチャーのエントリーモデルというだけでなく、GSの歴史にも触れられるという意味でも魅力的な1台だ。


エディション40イヤーズカラーはG310GSのほか、R1250GS、R1250GSアドベンチャー、F850GS、F750GSらに採用された。ちなみに初代にあたるR80G/Sは1980年に誕生している。

キーワードで検索する

著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…