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MV AGUSTA BRUTALE 1000RR……3,960,000円
派生機種や限定車が非常に多いため、門外漢にはいまひとつわかりづらい、近年のMVアグスタのラインアップ。その全貌を説明するには相当な文字数が必要になるのだが、旗艦にして柱となる並列4気筒車の車種は意外にシンプルで、排気量や装備の差異はさておき、系統としては、フルカウルスーパースポーツのF4と、そのネイキッド仕様となるブルターレの2機種である。ただし今年度からは、ブルターレ1000RRをドラッグレーサースタイルに仕立てた、ラッシュが追加される予定だ。
約20年の歴史を誇るF4とブルターレは、エンジン+シャシーの基本設計を共有している。もっとも、F4が2010年にフルモデルチェンジを受けて第二世代に進化したのに対して、2011年以降のブルターレの第二世代は、エンジンの大幅刷新を図りつつも、シャシーは第一世代の構成を継承。とはいえ、2019/2020年から展開が始まった第三世代のブルターレ1000セリエオロ/RRは、F4の最高峰となるRCのエンジンとシャシーをベースにしながら、数多くの部品を新規開発している。
第三世代のブルターレで最も驚くべきは、208psの最高出力だ。言うまでもなく、この数値はネイキッド史上最高値で、今年からドゥカティが発売を開始するストリートファイターV4は、明らかに第三世代のブルターレを意識した数値を公表。また、同じく今年度の新型としてカワサキが市販するZ H2も、ネイキッド最強を意識したモデルだが、イタリア勢と比較すると、最高出力はやや控えめな200psで、装備重量はかなり重めの240kgである。なお第三世代のブルターレには、多種多様なカーボンパーツを導入した上級仕様のセリエオロと、通常モデルのRRが存在し、乾燥重量はどちらも186kg。その数字はちょっと不可解だが、おそらく2台の装備重量は、ストリートファイターV4と同様の200kg前後だろう。
アグレッシブなルックスとは裏腹に、意外に従順?
初対面のブルターレ1000RRで僕が驚いたのは、アグレッシブで獰猛で豪華な雰囲気だった。あくまでも個人的な主観だが、エレガントさを感じた先代以前と比較すると、4本出しのセミアップ&ショートマフラーやラジエター左右のウイングレット、大胆な造形のテールカウルなどを採用する第三世代は、何だか欧州のコンスタラクターが製作したカスタムバイクを思わせる。その事実をどう感じるかは人それぞれだが、目立ち度という点なら、現行車では間違いなくトップクラスに違いない。
では実際にこのバイクを走らせた僕が、どんな印象を持ったかと言うと、最初に感心したのは最先端電子制御の見事な黒子ぶりだ。208psのネイキッドと言ったら、よほどのエキスパートでもない限り、怖さや難しさを感じそうなものだけれど、多種多様な電子制御が乗り手をサポートしてくれるブルターレ1000RRは、大型初心者でも普通に乗れるんじゃないか?、と思えるほどフレンドリー。さらに言うなら、エンジンは5000rpm前後でもなかなかドラマチックな吹け上がりを堪能させてくれるし、ライポジはF4ほどスパルタンではないので(ただし、バーハンドルが定番だった既存のブルターレと比較すると、押し引きはかなり重かった)、このバイクは市街地でのチョイ乗りがなかなか楽しいのである。
もちろんブルターレ1000RRが本領を発揮するのは、やっぱり見通しのいい峠道やサーキットだ。そういった状況下でも、電子制御は相変わらず見事なサポートをしてくれるので、乗り手としては、思い切ってスロットルを開け、思い切ってブレーキをかけ、思い切って車体を倒し込める。と言っても、電子制御のおかげでそういったアクションができることは、今どきのリッタースーパースポーツとそのネイキッド仕様に通じる話だが……。
スロットルをワイドオープンしたときに感じる狂おしいほどの雄叫び、最高出力発生回転数の13000rpmに向かってクァーンッ‼というカン高い排気音と共に気分が高揚していくフィーリングは、このバイクならではだと思う。逆に言うなら、速さに特化した今どきのリッタースーパースポーツとそのネイキッド仕様は、もっと真面目で実直な特性なのだが、ブルターレ1000RRのエンジンには何とも言えない色気が感じられるのだ。もちろん、その色気はF4にも備わっている。でも独創的な排気系の出口が乗り手の耳に近いからか、ブルターレ1000RRの色気は、F4の4割増しと言いたくなる印象なのである。
スペックや構造を見るぶんには、ネイキッド最強を目指したガチなバイクでありながら、ハイパワー車らしからぬと言いたくなるほど乗りやすく、それでいてイタリア車ならではの派手さや色気も備わっている。新世代のブルターレ1000RRは、MVアグスタの今後の指標を示すモデルなのかもしれない。