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キムコ・レーシングS150……341,000円
昨今、150ccクラスの軽二輪スクーターが注目されている。任意保険のファミリーバイク特約が使える125cc以下の原付二種に対し、維持費の面では不利だが、高速道路など自動車専用道路を走れるというのは大きなメリットだ。それに、プラス30cc程度とはいえ、明確に体感できるほど原付二種より動力性能が高いのも魅力だろう。
キムコのレーシングシリーズは、台湾のスクーターレースで圧倒的な強さを誇っていたヤマハのシグナスXに勝つために誕生したという背景があり、最新モデルの〝S〟は2016年の夏にデビューした。日本では先に説明したとおり、125ccを境に法律や保険などが大きく変わるが、台湾では特にそうした区分がなく、150ccモデルはパワーのある上位モデルという存在だ。今回試乗したレーシングS150の場合、125をベースとしつつもボディパネルの一部を専用品に変更したり、キムコ独自の車載ネットワークシステム「noodoe(ヌードー)」を搭載するなどして、よりラグジュアリーな方向へとシフトしている。
またがってみて最初に感じたのは「軽い!」だった。装備重量128kgは、直接のライバルとなりそうなホンダのPCX150(131kg)やヤマハのマジェスティS(145kg)を下回っており、これは大きなアドバンテージと言えるだろう。一方、燃料タンク容量は5.7Lしかなく、PCXの8.0LやマジェSの7.4Lと比べると、1回の給油で巡航できる距離は必然的に短くなる。通勤通学に使うライダーにとって、これはマイナスポイントになりそうだ。
エンジンを始動し、スロットルを開けてスタートする。最高出力はPCX150やマジェスティSの15psに対し、このレーシングS150は13.8psとやや低いので高をくくっていたが、同等レベルかそれ以上といってもいいほどに発進加速が力強いのだ。よくよく観察すると、クラッチスプリングが強めなのか、メーター読みで常に5000rpm付近でクラッチミートしている。このエンジンはVVCSと呼ばれる可変バルタイ機構を採用しており、6500rpmを境に吸気側がローからハイカムへと切り替わる。つまり、クラッチミートしてすぐにハイカム領域に入っているのだ。加えて、高速道路で最高速をチェックしたところ、メーター読みで100km/hを超えるか超えないかあたりだったので、減速比がローギアード気味という可能性が大きい。つまり、この二つの要素が合わさっての鋭い加速性能と考えられ、事実モトチャンプ誌2020年6月号の実走テストでは、0-100m加速で150ccクラスのトップに輝いている。
クラッチミートする回転域が高いために微速域でややギクシャクしやすいのと、空冷ゆえにメカノイズが大きめだが、気になったのはその程度。信号待ちでも高速巡航でも体に伝わるエンジンからの微振動は少なく、これならロングツーリングでも疲れにくいだろう。
ハンドリングは、ホイールサイズが前後とも12インチと小径なため、同社のハイホイールスクーター、ターセリーS150ほど高速安定性に優れるわけではない。だが、街乗りで常用する速度域では変にクイックすぎず、自然な扱いやすさが光る。アンダーボーンフレームの短所として、ステアリングヘッド付近の剛性不足を感じることが多いが、このレーシングS150は一部にハイドロフォーミング製法を採用したフレームにより、芯の強さが十分に伝わってくる。一方、どの速度域でも乗り心地は良好であり、レーシングを名乗っていてもストリートを犠牲にしていない点は好感が持てる。
さて、キムコ独自の車載ネットワークシステム「noodoe」について。通常であれば「スマホとつなげますよ」程度の説明で済ませるのだが、1週間ほど使ってみたところ、その便利さにハマってしまい、別記事で紹介することにした。これは専用アプリの内容をメーターに表示するもので、各種SNSの更新通知や不在着信通知などが分かるほか、特に私が便利だと感じたのは専用のナビゲーションシステムだ。
noodoeを採用するのは、日本のラインナップではフラッグシップのAK550のほかにこのレーシングS150だけであり、キムコの力の入れようが伝わってくる。しかも、この便利なデバイスを標準装備しながら、価格はPCX150(383,900円)やマジェスティS(379,500円)よりも安い341,000円だ。キムコのスクーターにおけるテクノロジーは世界トップクラスであり、カワサキやBMWが技術提携するほどのメーカーだ。検討する価値は大いにあるだろう。
※価格、諸元は2020年5月21日に掲載した当時のものとなります。