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今さらではあるけれど、無段変速の構造に感心!
誠に恥ずかしながら、僕は人生で1度もスクーターの駆動系を分解したことがない。もっとも過去に見た写真や図や動画で、構造は把握しているつもりなのだが、ナマの部品に接した経験はゼロ。だから編集部から当記事の話を聞いたときは、それはもう喜んで! という気分だった。
そして実際にカバーを外して、プーリーやVベルト、遠心式クラッチの動きを目視で確認し、分解組み立て作業を行なった僕は、〝なるほど。こうなっていたのか!〟と、何度も感心。誤解を恐れずに言うならその感覚は、若き日に初めて、女体の神秘に触れたときに通じるような……。
いや、その表現だと本当に誤解を招きそうな気がするけれど、やっぱり実物から得る感触は、写真や図や動画とは違ったのだ。いずれにしても自分の目と手を使って作業することで、僕のスクーターに対する理解度は格段に高まったように思う。
さて、個人的な事情はさておき、駆動系の整備インターバルは2万㎞前後というのが通例。補修部品は純正を使用してもいいのだが、リストアップの手間や価格を考えると、アフターマーケットメーカーが販売しているセットがお得だと思う。
そして肝心の作業の難易度は、僕のような初心者でもできるくらいだから、決して高くはない。もちろん特殊工具かインパクトレンチは必要だが、当記事をじっくり読んで準備を整えれば、初めての人でも1~2時間でできるんじゃないだろうか。
今回用意したパーツ
ドライブプーリー、ランププレート、スライドピース、ウエイトローラー、Vベルトのドライブ側一式がセットに。純正部品を一つずつ揃える必要がなくノーマル以上の性能を実現。
リチウム系のグリスで、スムーズな変速のために添加剤を配合したセカンダリー専用品。
駆動系を冷やすためのダクトに装着する交換用フィルター。5000㎞毎に点検したい。
今回のTAEGET▶︎YAMAHAシグナスX
前後12インチホイールを採用する4スト125㏄スクーター。現行モデルは5型でこちらは3型。駆動系は1度メンテナンスされているようで比較的状態は良かった。この車両をエムファクトリーで徹底検証。
走行距離 | 2万4000km |
0-50m加速 | 5.51秒 |
最高速 | 100km/h |
BEFORE IMPRESSION
明らかに駆動系がヘタッている……という雰囲気ではない。でも厳密に言うなら、発進直後は右手の動きと加速感がいまひとつリンクしないし、70km/hを超えるとスピードの伸びが衰えることも腑に落ちない要素。
グラフ解説
「決して悪いデータではないですが、クラッチイン直後の落ち込みは気になりますね。ただし加速騒音を重視した2013~2015年のシグナスXは、基本的にこういう傾向です」
駆動系分解の手順とポイント
使用する工具
一般的な工具のほかに、回り止めのためのロックレンチやシザーズホルダー(中央の2点)、クラッチナット専用レンチを用意した。
【7】トルクカムのスカート(手で掴んでいるパーツ)をねじりながら力業で引き抜く。けが防止のため軍手をはめて行ないたい。
走りがパッとしない理由は?
アクセルに対するレスポンスが鈍く加速も悪い。劇的なダメージはないものの、それなりにヤレているのかその原因を探ってみた。
素人目にはガッカリと思えるけれど……?
メンテ記事で使用する車両は、分解時のコンディションが悪ければ悪いほど盛り上がるもの。でも残念ながら今回のテスト車の駆動系は、アチャ~というほど悪くはなかった。
もっとも、プーリーの段付き磨耗やVベルトのヤセと硬化、クラッチシューの減り、トルクカム周辺のグリス不足、トルクカムピンとスカート内側の接触痕など、気になる点がなかったわけではない。とはいえ、見るからにガタガタ&ボロボロの状況を期待していた僕は、微妙なガッカリ感を味わうこととなった。
まあでも、僕がそう感じたのはスクーターの駆動系事情を把握していないからで、取材に協力してくれたエムファクトリーの三保田さんによると、現状でも整備と部品交換を行なう意義は十分にあるという。なお今回は準備していなかったけれど、加速性能を左右する重要部品、ドリブン側に備わる3本のクラッチスプリングと巨大なセンタースプリングも、定期的な交換が必要な消耗品だ。
理由その❶ プーリーの段付き摩耗が加速不良の原因!急激な加速の谷と最高速がダウン
40km/hを過ぎたあたりからガクンと大きく速度が落ち込んでしまうノーマルプーリー。3型特有の現象ではあるが、爪で触るとはっきりと分かるほどプーリー表面の一部に凸凹ができていた。このくぼみにVベルトが引っ掛かりスムーズな加速をスポイルしていたと思われる。
Vベルトのカスやクラッチシューの粉塵が、クラッチアウターやプーリーの内壁にびっしり。変速時の妨げやクラッチ滑りの要因にもなるので、パーツクリーナーでしっかり洗浄&脱脂を行なった。
理由その❷ Vベルトが細くなり最高速もダウン!
Vベルトは絶えずプーリーとクラッチに挟まれ回転しているため、摩耗により幅が細くなってしまう。そうなると高速域まで変速できずに最高速がダウン。そのため定期的な交換が必要なのだ。また、接触面の反りや弾力もチェックしたい。
ドリブン側はグリスアップのみ
トルクカムの内側(グリスが溜まる溝がある)とカム溝にもたっぷりとグリスを充填。高速回転するパーツなので、Oリングが少しでも傷んでいたらケチらず新品に交換すべし。
このひと手間が効く、チリツモで差が出る!パーツ組み付け時のポイント
駆動系を分解洗浄し、新品パーツを組み込めばOK!なんだけど、少しの手間でよりスムーズに動くようになったり、パーツの寿命を延ばしたりできるのだ。
耐水ペーパーで表面をクリーニング
摩擦力が重要なクラッチシューの表面とクラッチアウターの内壁。400~600番程度の耐水ペーパーを使って一皮むくことで食いつきが良くなるのだ。
プーリーボスには薄~くグリスを塗布
プーリーの内側と絶えず接触するパーツで、スムーズさとクリアランスが重要。薄くグリスを塗り軽くふき取ってあげると、スキマを適度に埋めてくれる効果もある。
ランププレートにマーキング
馴染ませるという意味でも効果的なのが「同じ場所に同じ向きで」パーツを組むこと。少しでも摺動抵抗が減らせれば変速がよりスムーズに行なえるようになる。
トルクカムスカート内側のピン位置をずらす
乗りっぱなしの車両に多く見られるトルクカムのピンが動く際に付く摺動痕。ずらして組むことでトルクカム移動時の引っ掛かりを防ぐことができる。
実走&シャシダイ計測
0-50m加速 | 5.51秒 (0.3秒アップ) | |
最高速 | 100km/h(10km/hアップ) |
AFTERIMPRRESION
劇的なビフォー&アフター!
分解時のガッカリはどこへやら、整備後にテスト走行に出かけた僕の表情はずっとニンマリ。まず発進直後の落ち込みが程よく解消されているので、信号からのスタートでは右手の動きに忠実なダッシュが堪能できる。そして全開走行をしてみると、70km/hを超えてもなかなか加速が鈍らず、最高速はなんと10km/hも向上。ちょっと言い過ぎかもしれないが、整備前と後の乗り味は別物だったのだ。
エムファクトリー
実走に近い負荷を掛けられる測定器(DYNOSTAR)を完備し、駆動系セッティングやエンジンの慣らしで利用するユーザーも多い。
埼玉県越谷市川柳町1-2-17
☎048-987-0940
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