ふっくらボディがちょっぴりスマートになったスズキ新型ハヤブサ。軽快感の増し、操縦性も素直と好印象。

初代モデルは、1999年に市場投入されたGSX1300Rハヤブサ。実測値で300km/hをオーバーした、当時世界最速のポテンシャルは、多くの反響を呼び、ロングセラーモデルとして確かな人気を獲得。2007年と2021年にフルモデルチェンジを受け、今回の最新モデルは第3世代である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 スズキ

スズキ・Hayabusa…….2,156,000円

ブリリアントホワイト/ マットステラブルーメタリック
グラススパークルブラック/ キャンディバーントゴールド
マットソードシルバーメタリック/ キャンディダーリングレッド…….2,167,000円

 スズキの公式Webサイト上にあるプロモーションビデオをチェックすると、テストコースを疾走するハヤブサは、6速トップギヤで速度計は299km/h 。タコメーターの針は10,100rpmを示していた。
 レッドゾーンの11,000rpmには、まだ900rpmの余裕を残している状態。つまりエンジン回転がレッドゾーンまで伸びたと仮定すれば、速度は320km/hを超える事を意味している。

 初代モデル登場したのは1999年。この時代背景を簡単に振り返っておくと、カワサキZZR1100やホンダCBR1100XXスーパーブラックバードが当時290km/hレベルの世界最速性能を誇っていた。
 超高速ツアラーとしての快適性に確かな評価と人気を集めたZZRに対してXXは軽快でスポーティなグッドハンドリングも加味したキャラクターを投入。
 一方ヤマハはワインディングロード最速を目指して見事なハンドリングを追求したYZF-R1を開発。ステディな商品戦略の訴求と共に、最高速性能で同じ土俵に立つ事は避けたのである。

 そんな中、スズキは単純明解に300km/hオーバーの性能実現を目指し、世界最速の座を奪取しようと考えた。

 ちなみにZ1、Ninjaと最速の座に輝いて来たカワサキは、開発の企画段階で最速である事を第一に目指していたわけではないのである。あくまでもコンセプトに応じた高性能車を開発する中で、結果として最強最速の座を獲得するに至っていた。少なくとも筆者はそう理解している。

 スズキが取った開発手法は、前面投影面積を小さくし、エアロダイナミクス性能を徹底的に追求。さらにライバルより大きなエンジンを搭載する事にあった。実に明快である。
 ツアラーとしての快適性をわきまえる一般的なライディングポジションを備えていたZZRやXXに対して、ハヤブサはライダーに低く身構えた姿勢を取らせる事にも踏み込み、徹底的に空気抵抗の低減を目指したのである。

 その結果、300km/hオーバーの実力を誇るハヤブサが誕生した。

 余談ながら、ハヤブサの登場がグローバル市場に与えたインパクトが非常に大きな物であった事は間違いない。社会的にも賛否両論が巻き起こり、細かい事だが、後の自主規制を呼ぶにも至る。そんな経緯から、その後はハヤブサに追従する、あるいはそれを凌ぐ高性能バイクが登場しても、最高速性能を声高にアピールする事は控える様になったのである。

第1世代(1999〜2007)
第2世代(2008〜2020)
前屈姿勢のライダーで動的な空力特性を分析したイメージ図
フェアリングを剥ぎ取ると、低く長いフォルムの成り立ちが良くわかる。

 今回の試乗車は2021年4月に新発売された白/青の標準的モデル。標準タイプのカラーリングは黒/金を加えた2機種で、少し高価な銀/赤もある。
 さらに、受注生産ながらカラーオーダープランが用意され、黒、白ベースが2,211,000円、銀ベースが2,222,000 円。外装のアクセントカラーは3色、ホイールの2色を3種の車体色と組み合わせると18パターンに及ぶ。流石スズキのフラッグシップモデルに相応しい充実のバリエーションが揃えられている。
 
 掲げられた開発コンセプトは「Ultimate Sport(究極のスポーツバイク)である。13年ぶりに刷新された第3世代新型の主な特徴はS.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)の搭載にある。
 もちろんフューエルインジェクションには新開発されたφ43mmスロットルボディを持つ電子制御式スロットルを採用。走りの多くの場面に関与する最新鋭電子制御デバイスの投入が新しい。
 ボッシュ製の6軸IMU(慣性計測装置)が搭載され、バイクの状態をリアルタイムで把握した上で、あらゆる電子制御を活用してリスクの少ない走りに貢献する。  
 スロットル開閉時のトラクションやエンジンブレーキコントロール。パワーモードやアンチリフト等を統合制御。またモーショントラックブレーキシステムも採用され、前後連動ブレーキシステムとABSも巧みに連携作動する。
 その他、坂道発進に役立つヒルホールドコントロールシステムや任意に速度設定できるアクティブスピードリミッター、クルーズコントロールも標準搭載。効率の良い発進加速をサポートするローンチコントロールシステムも採用されている。
 つまり超高性能な高級モデルに相応しく、最新の電子デバイスをフルに活用。様々な状況下において、失敗の少ない扱いやすさと快適性が加味されたのである。
 その他アシスト&スリッパークラッチを採用。アップ/ダウン双方向に対応するクィックシフターは、シフトタッチを2段階に切り換える事ができる。

ツイン噴射、ツインバルブ方式。前モデルのスロットル。
新開発されたS-SFIスロットルボディ。

 ダイヤモンドタイプのアルミツインスパーフレームに搭載されたエンジンは、ボア・ストロークが81×65mmのショートストロークタイプ1,339cc 。右サイドカムチェーン方式・水冷DOHC4バルブの直列4気筒。
 フレームもエンジンも基本的には前モデルと同じだが、その内容は細部に渡り、丁寧に進化熟成が図られている。TSCCとして知られたツインスワールのシリンダーヘッドも設計変更され、燃焼ガスの充填効率を向上。

 クランク周りのオイルラインが変更されて潤滑性能をアップ、耐久信頼性が高められている。

 ツインインジェクションを持つスロットルボディも新設計され、吸気ファンネル内にあるプレートに側面から噴霧するS-SFI(スズキ・サイド・フィード・インジェクター)を採用。
 その他吸排バルブのオーバーラップを縮小。4into2-1-2マフラーも新設計されて#2#3と#1#4のエキゾーストパイプを連結管で接続。集合部と左右マフラーそれぞれにキャタライザーを配置し環境性能も向上。

 エンジン性能曲線図に示された通り、初代モデルと比較するとピークパワーを欲張らず、中低速域の出力特性を向上している。
 もちろん内部使用部品の多くが一新されて軽量化やフリクションロスの低減化、強度剛性の最適化も徹底して見直された。

 ミッションもギヤレシオに変更は無いが、メインシャフトを支持するニードルローラーベアリングは、ローラー長が11mmから13mmに延長されたのも見逃せない。

 タイヤ・ホイールも新作された他、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティングが施されたフロントフォークの採用。外観デザインやインナーエアロも含めてリファインされた部分は多岐に渡っている。

ハヤブサの心臓部。排気量は2代目モデルから変わりない。
赤いラインが最新モデル。実用域のトルクが太い。
新設計された4into2-1-2マフラー。深いバンク角も確保。
パワーモードセレクターで、3種の出力特性が選べる。

重量感伴う安定性を発揮。

   

 試乗車を目の当たりにすると、低く長いボリューム感のある佇まいはいかにもハヤブサらしい。ただ、ふっくらと丸みのあったエアロデザインが少し緩和されている。フロントマスク&バックミラーやアンダーカウル、マフラー等にエッジの効いた直線的ラインがあしらわれ、いくらかスマートに変身しているのが新鮮な特徴だ。
 車体関係の諸元値は前モデルとほとんど同じ。フレームもエンジンも基本的部分は共通だが、全長は10mm、燃料タンク容量は1L、車両重量は2kg減少の262kgである。
 跨がると両足共にほぼべったりと地面を捉える事ができ、バイクを支える上での不安感は無い。ただ、車体を引き起こすと、やはりズッシリと重い。
 低く身構えるライディングポジションも相変わらずだが、ハンドルグリップ位置が若干(12mm後方へ移動)近づけられた印象で、上体の前傾具合が楽になっている様にも感じられた。
 バイクを押し歩く時も、ハンドル位置は低く、幅も広くはない。いかにも1.3Lのビッグバイクらしい十分な手応えを覚え、自然と直立安定を保つための扱い方が慎重になった。
 ステアリングダンパーの効きもあって、操舵フィーリングもゆったりとした動きが印象深い。全ての挙動に伴うしっとりとした落ち着きは、重量級超高性能モデルに相応しい、不可欠な乗り味とも思えたのである。

 エンジンはセルボタンを一押しすると簡単に始動する。エキゾーストノートは4気筒の大排気量らしい図太い排気音を轟かせ、やはり迫力がある。
 発進するまでは車体の重さをしっかりと認識させられていたが、クラッチの操作は軽く扱い易い上、タイヤが転がり始めると、スーッとそれまでの重さが消えて、なんとも軽く気楽に走れるのが印象深い。一方でしっとりと穏やか、常に落ち着いた挙動に終始する乗り味も見逃せないのである。
 スロットルレスポンスは豪快そのもの。右手のグリップを回した時のパンチからは、大排気量エンジンならではの極太の底力が溢れてくる。重量級の車体を軽々とダッシュさせる一級のポテンシャルが感じられた。
 アウトバーンを走れる環境に住んでいるなら、この有り余るハイパフォーマンスが十分に価値ある存在となる事は間違いないと思える一方で、それを活かせる使い方ができにくい日本で乗るには「もったいない」と思えたのも正直な感想である。

 ただ、日本で使用してもハンドリングや乗り心地はなかなか快適。前モデルよりも軽快感の増した素直な操縦性は、交差点を曲がるだけで、親しみ易くなっている事がわかる。

 前後サスペンションも初期の作動特性にすぐれ、凸凹路から峠道まで、姿勢安定にすぐれ、ブレーキング時も含めて常に落ち着いた乗り味は優秀である。
 無理なく身を屈めることができる低いライディングポジションで、巨体に身を預けられる感覚にも安心感を覚える。
 スクリーン越しに前方を見通していると、ハヤブサのポテンシャルを発揮して疾走するシーンが頭の中に浮かんできた。もちろん、長距離を高速移動できる快適性も侮れない魅力なのである。


 ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードはメーター読みで60km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,300rpmだった。
 試乗中気になったのは、足元から立ち込めるエンジンの熱気が暑い事。その一方で、排気量に物を言わせる怒濤の加速力には魅了されてしまった。
 今回の試乗距離は市街地から郊外、高速も含めて約180km。満タン法計測による実測燃料消費率は16km/Lという結果だった。これはカタログデータにあるモード燃費率の15.4km/Lを凌ぐ値である。

足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)

ほんの少し踵が浮く感じもあるが、ほぼほぼベッタリと両足で地面を踏ん張ることができる。シート高は800mm。車重は268kgあってずっしりと重いが、バイクを支える上での不安は少なかった。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…