【ベネリTNT249S試乗】流れるようなボディラインを持つスポーツ・ネイキッド!

株式会社プロトが輸入・販売するベネリとは、1911年にイタリアで産声を上げた歴史あるブランド。数々の名車を生み出してきたブランドは現在、中国メーカーの傘下となり多くのニューモデルを発表している。その中のスポーツ・ネイキッド「TNT294S」をレポート。

REPORT●横田和彦(YOKOTA Kazuhiko)
PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)

ベネリ・TNT249S …63万6,900円(特別色Green…64万7,900円)

イタリア生まれアジア育ちのニーゴースポーツ!

予備知識がないライダーであっても「ヨーロッパ生まれじゃないか」と想像できるスタイリッシュなフォルムを持つTNT249S。その思い通り、ベネリはイタリアに生まれた歴史あるメーカーである。数々のモデルを生み出しモータースポーツでも記録を残してきたが、80年代に経営危機に直面しブランドの存続が危ぶまれた。その後、経営権が何度か移り現在は中国メーカーの傘下となり、ニューモデルを続々と発表している。

TNT249Sはベネリのラインナップの中では“スポーツ・ネイキッド”という位置付けにあたる。流れるようなフォルムや水冷並列2気筒エンジン、倒立フォークなどからもスポーティに走りそうな雰囲気が感じられる。ところが試乗するとその印象は少し違ったものになるのだが、それは後ほど。

ボディサイズはやや大柄でボリューム感がありひとクラス上の感覚。しかしガソリンタンク後方やシートなどライダーが接する部分は絞り込まれているため、またがってみると腰の収まり具合やヒザまわりのフィット感は良好だ。

シート高はネイキッドとしては一般的なレベルでポジションも余裕がある。そして車体を起こすときにちょっと重さを感じた。おやっと思ってスペックを調べると整備重量が204kgと記載されているではないか。それを見て少し驚いた。確かに250クラスとしてはウェイトがある部類だと感じたが、体感的にはそこまで重いと感じなかったからだ。バランスが良いからだろうか。バイクは数値より大きく、または小さく感じることも珍しくない。TNT249Sはスペックよりまとまりが良いように感じた。

水冷並列2気筒エンジンの滑らかさが個性的なフィーリングを生む

セルボタンを押すと水冷並列2気筒エンジンはすぐに目を覚ます。振動は少なくスムーズに回っている。アクセルを軽くあおるとレスポンスは意外とおだやか。国内の250cc2気筒モデルに比べるとずいぶんと大人しい印象だ。

手応えのあるクラッチを握って1速にギヤを入れスタート。回転の上昇がなめらかなこともあり発進加速はマイルドに押し出してくれる感じだ。そしてハンドリングも安定指向で落ち着いた挙動。コーナーではライダーの動きに対してバイクが少し後から追いかけてくるような感じだが、動きが素直なのでリズムは取りやすい。そのルックスからスポーティな動きをするのかなと思っていただけにやや肩透かしを食らった感じ。といってもそれはこちらの勝手な思い込みなのだが。

ところがアクセルを開け続けていると状況が変わった。タコメーターが8000回転を超えると急に吹け上がりが軽くなり車速が伸びていくのだ。1万1000回転でも頭打ち感がない。そしてその状態でも車体の挙動は安定している。高剛性のトレリスフレームや高負荷に対応するゴージャスな足回り、そして重めの車重が安定感を生み出しているのではないかと推測できた。

前後サスペンションの動きはスムーズ。ブレーキをかけたときのノーズダイブも自然なので寝かし込みのキッカケもつかみやすい。またバンク中の姿勢も安定しているので速度が乗る高速コーナーやS字の切り返しなどでも不安は感じない。TNT249Sは低〜中回転域と高回転域では走りのイメージが大きく変わるバイクだったのである。

ダブルディスクの制動力はタッチ感に違和感?

しばらく走っていると、気になるところも見えてきた。それはフロントブレーキだ。TNT249Sはペタルローターと対向4ポットキャリパーという組み合わせをダブルで備えている。スーパースポーツ顔負けの装備なのだが、握りはじめのタッチが少し硬め。

個人的には初期の段階でもう少し効いて欲しいと感じたのだ。ダブルディスクなので容量は十分だろうと思われるのでブレーキパッドの選択で対処できるような気もするが、他が良いだけにちょっと惜しいと思ったポイントとなってしまった。

また海外製のバイクは消耗品や万一の転倒の際のパーツ供給が気になるものだが、そのあたりは輸入販売元であるプロトの強力なバックアップがあると考えれば不安も減る。

 

モーターのようになめらかに回る水冷並列2気筒エンジンによる走りは、低〜中回転域ではゆったりとしていて、高回転域では胸のすくようなフィーリングが味わえる。そのギャップ感はほかのバイクではなかなか味わえないもの。個性的な車体デザインと安定した走りの組み合わせは、日常使いから週末のツーリングまで幅広く使えると感じた。

ベネリTNT249Sは、車体デザインやエンジンフィーリングに確固たるオリジナリティを求めるライダーや、ほかの人と同じバイクに乗りたくないというライダー、クラスを超えた存在感を求めるライダーなどにとっては新たな選択肢となる存在。機会があればぜひ一度試乗してもらいたい。国産モデルとは異なる世界を感じることができるだろう。

 

ディテール解説

ヘッドライトは近年のネイキッドモデルらしくスラントした異型デザインを採用。LEDデイライトとプロジェクターライトの組み合わせが個性的だ。ウインカーもLED。

絞り込まれたテールカウルに小振りなLEDテールランプを内蔵。緊急停車時などに便利なハザードを標準装備しているのは嬉しい。

メーターはフルカラーTFT液晶ディスプレイ。円形のタコメーターの中にギヤポジションインジケーターやスピードメーター、距離計、時計などを表示。各種ワーニングランプは左右に配置されていて視認しやすい。

水冷並列2気筒エンジンは振動が少なくスムーズに回る。パワーの出方もマイルドなので長時間のライディングでも疲労を感じにくい。

低く伸びるサイレンサーはバンク角を稼ぐため形状が独特で質感も高い。やや下向きの排気口からは低く絞られた2気筒サウンドが響く。

丸みを帯びた柔らかい形状のガソリンタンクはボリュームがあり、16リットルの容量を誇る。ライダー側はギュッと絞り込まれているのでフィット感は良好だ。

前後がなめらかにつながるダブルシートを採用。スポンジが厚めで座り心地は良好だ。シート表皮のBenelliのロゴと赤いステッチがしゃれている。後方にはしっかりと掴めるグラブバーを備える。

ステップバーはスポーティなアルミ製。ブレーキペダルとシフトペダルの先端には偏心式の調整機能が付く。このクラスのバイクにとっては豪華な装備だ。


シルバーのブレーキレバーには4段階の調整機能がついている。手が小さい人にとってはありがたい装備だといえる。

倒立サスペンションに260mm径のペタルローターと対向4ポットキャリパーをダブルで装備。見た目はもちろん、剛性感もクラスを超えている印象だ。17インチホイールのスポークデザインは細くてシャープ。

リヤは240mm径のペタルローターディスクを採用し、ABSも標準装備。パイプを使ったスイングアームはサイレンサーを避けるため右側が大きく湾曲。チェーンスライダー部も剛性が確保されている。


赤くペイントされたトレリスフレームは径が異なるパイプが組み合わされたもので、溶接跡もきれいだ。剛性は高く、市街地から高速道路まで走行中に不安を感じるようなシーンはなかった。

SPECIFICATION

TNT 249S (P10)
全長×全幅×全高 2130mm×800mm×1120mm
軸間距離 1410mm
最低地上高 140mm
シート高 795mm
車両重量 204kg
エンジン 水冷4ストローク250ccDOHC2気筒
内径×行程/圧縮比 Φ61.0×42.7/12.0:1
最高出力 22kw/11000rpm
最大トルク 21.0Nm/9000rpm
始動方式 セルフスターター
点火方式 トランジスタ(TLI)
潤滑方式 圧送飛沫併用型
燃料供給方式 フューエルインジェクション
トランスミッション形式 常時噛合6速リターン
クラッチ形式 湿式多板
2次減速方式 チェーン式
フレーム形式 トリレス(格子)フレーム
懸架方式 (前)倒立テレスコピック(後)スイングアーム
ホイールトラベル (前)135mm(後)45mm
タイヤサイズ (前)120/70ZR17(後)160/60ZR17
ブレーキ形式/径 (前)油圧デュアルデイスク/260mmABS(後)油圧デイスク/240mmABS
燃料タンク容量 16.0L
燃費(WMTCモード) 30.3km/L
乗車定員 2名

ライダープロフィール


横田和彦
1968年6月生まれ。16歳で原付免許を取得して以来、50ccからリッターオーバーまで数多くのバイクを乗り継ぐ。普段から移動手段にバイクを使うことが多く、プライベートでもツーリングやサーキット走行、草レース参戦などを楽しむスポーツライディング好き。現在は雑誌やWebなど、さまざまな媒体で執筆活動をしている。


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著者プロフィール

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佐藤恭央