空油冷、水平対向。エンジンだけでも個性を主張できる、ネオクラシカルなネイキッドスポーツ|BMW・R nine T試乗

現在BMWのラインナップは、6つのカテゴリーに分類されている。その中のヘリテージはアドベンチャーと共に豊富なバリエーションを誇る8機種をリリース。「ヘリテージ」とは遺産や伝統を意味するが、具体的には同社が誇る古くから象徴的なパワーユニットである縦置き水平対向ツインエンジンを搭載。R nineT はその基本を着実に受け継いできたピュアな存在として知られているのである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー 株式会社

BMW・R nine T…….2,270,000円〜 、

ブラック・ストーム・メタリック…….2,270,000円(プレミアムライン)

Option 719ナイト・ブラック・マット/アルミニウム・マット…….2,404,000円(プレミアムライン)
Option 719ミネラル・ホワイト・メタリック/アルム…….2,391,000円(プレミアムライン)
Option 719アルミニウム…….2,385,000円(プレミアムライン)

 BMWのヘリテージを象徴するのは、ボクサーツインエンジンの搭載にある。クランク軸を縦置きする水平対向2気筒は、シリンダーが左右に突き出たレイアウトが特徴的。
 両ピストンが往復する時の慣性力は真逆の動きとなる関係で、基本的に一次振動が打ち消されてスムーズな回転が得られる。またその形から低重心設計や、左右に分かれたシリンダーレイアウトにより、それぞれに独立安定した冷却性を確保できる等のメリットがある。
 逆に欠点としては、エンジン幅がワイドになること。クランク軸の回転方向が車輪の回転方向と90度異なるので、シャフトドライブの採用が必然となることやトルクリアクションを感じられる点が挙げられるだろう。チェーンドライブと比較するとメカニズムが少々複雑になり、駆動抵抗も重くなるが、これには一長一短があり、シャフト駆動には走行時の静粛性やメンテナンスフリー化のメリットが見逃せない。
 古くはツアラーとして快適性に優れるバイク造りに徹していたBMWブランドにとって、このボクサーツインエンジンの採用は、欠くことのできない“ヘリテージ”そのものなのである。

 R nineTに搭載されたのは、時代と共に革新を重ねられた空油冷方式DOHC8バルブの水平対向2気筒。ボア・ストロークは101×73mmというショートストロークの1,169ccで、12対1の高圧縮比が与えられ、最高出力は109ps/7,250rpm、最大トルクは116Nm/6,000rpmを発揮する。
 油圧作動のクラッチは伝統的な乾式単版タイプ。ミッションは常時噛み合い式の6速リターン。パワーはクランクケース右側から取り出され、途中にユニバーサルジョイント(自在継ぎ手)を介したシャフトドライブ+ベベルギア(傘歯車)で後輪が駆動される。
 ちなみにドライブシャフトは、リヤの片支持パラレバーサスペンションのスイングアーム内を通されており、とてもスッキリとシンプルな外観に仕上げられ、リヤのハブ部は大きな中空構造が採用されている。
 バリエーションも豊富で、R nineTを筆頭に同スクランブラー、ピュア、アーバンG/S の4機種が揃えられている他、改造を楽しむ個性的なオプションパーツも豊富に用意されている。

カチッと剛性感の高い乗り味に感覚が馴染んでくる

 試乗車に股がると、ズッシリとそれなりに重い手応えを覚える。タンクからボクサーエンジンにかけて一塊のボリューム感があり、やはり全体的にはオーバー1Lバイクらしく、なかなか立派な存在感がある。
 ただ足つき性チェックに示す通りシート高は低く、バイクを支える上で不安感はない。押し引きした時の取り回しも、全体にガッチリした剛性感の高さが伝わってきて、不安感はなく、意外と軽く扱えたのも好印象。
 外観デザインは至ってオーソドックスな手法で仕上げられ、丸形ヘッドランプや同ツインメーターは懐かしい雰囲気。今ではかえって新鮮で貴重なフォルムに見えてくるから不思議である。ひとつひとつ選りすぐりのパーツを生かして組み立てられたプレミアムな製品としての風格も魅力的だ。

 ややワイドなハンドルに手を添えて乗車姿勢をとってみると、ごく普通の感覚で、市街地からロングランまで柔軟に対応するに相応しいライディングポジション。ただ、微妙にエキサイティングなハートが残されている感じも見逃せない。ライダーの上体は僅かに前傾姿勢となり、前方からの風圧に立ち向かうのが楽、絞りの少ない広めなハンドルも操舵が軽快で、積極的にバイクをコントロールしてスポーツ走行するのに適していた。
 エンジンを始動すると、縦置きクランク独特のトルクリアクションが感じられる。文章で端的に表現すると右手のスロットルを開けるとバイクは右へ、閉じると左へグラッと傾くのである。
 ただR nineTのそんな挙動は、決して気になる様なレベルではない。クランクマスも適度な軽さでスムーズ。柔軟で歯切れの良いトルクを発揮する出力特性が素晴らしく、とても扱いやすい。
 高回転高出力タイプでは無いが、全回転域にわたって、穏やかに太いトルクが発揮されて、強力なスロットルレスポンスを発揮させても実に扱いやすい。
 どの速度域でも十分過ぎるトルクに裏打ちされた余裕のある走りが快適なのである。
 ちなみに諸元表で公表されている最高速度は217km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,500rpm。ローギアで5,000rpm回した時のスピードは53km/hだった。
 日本の高速道路を流れに任せて走る時も、風を満喫できる穏やかな気分が心地よい。市街地から郊外の峠道まで、馴染むにつれて、まるでミドルクラスのバイクに乗るような親しみやすさを覚える程なのである。

 操舵まわりの剛性感は非常に高く、クィックに思い通りに扱え、峠道を駆け抜けるシーンもスイスイとグイグイ行ける。前後サスペンションはやや硬い印象だが、大きなギャップを通過しても、ボトム付近での衝撃吸収具合はなかなか良い。前後共に頼れる制動力と扱いやすさを発揮するブレーキ性能等、サーキットで遊べてしまうポテンシャルの高さも含め、守備範囲の広い高性能ぶりが魅力的。
 それこそチョイ乗りからロングツーリングまで自在に許容できる良き相棒感覚で楽しめてしまう乗り味なのである。
 ご覧の通りネイキッドスポーツだが、自分好みのバイクへカスタムを楽しむためのベース車両としてとても末永く愛用できる、贅沢なチョイスになると思えた。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

ご覧の通り、両足は踵までベッタリと地面を捉えることができる。膝の関節にも僅かながら余裕が感じられる。シート高は805mm。車重はそれなりだが、バイクを支える感覚はミドルクラスを思わせる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…