トリシティ125試乗|荒れた路面で頼もしい。全幅750mmは意外と狭い。だから市街地も楽に走れる。結論、万能型コミューターでした!

フロント2輪リヤ1輪の3輪モデルであるヤマハ・トリシティ。2020年に発売された300ccモデルは超弩級の迫力ボディが話題になったけれど、改めて本家とも言える125ccモデルが気になった。以前に試乗して感銘を受けた記憶があるものの、その印象はすでにうろ覚え。ということで、今回はトリシティ125に再見することにした。

REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
トリシティ125に試乗してみた。

またまたモトチャンプTVがらみではあるが、年末にヤマハ・トリシティ300を紹介する動画の記事をアップした。その名も「【新型車研究所】ヤマハ トリシティ300をケニー佐川が斬る」というもので、記事を書くため動画を確認して驚いた。これだけの超弩級ボディなら目立つこと間違いなし!というスタイルに度肝を抜かれたのだ。ただ、これだけデカくてゴツイ乗り物だと、ライダーの体格を選ぶし小柄な筆者には無理、というか不要な印象も持った。第一似合わないだろう……。でもトリシティといえば125の方がポピュラーだよな、と改めて確認すればマイナーチェンジした直後の2018年に試乗していた。確か「倒れる気がしないからガンガン攻められる」なんて書いていたような記憶がある。でもすでに記憶はうろ覚え。だったらもう一度乗ってみようじゃないか!と編集部の山田とともに盛り上がったのだった。

ヤマハ・トリシティ125 ABS 46万2000円(税込)

パールがかったライトリーフグリーンソリッド6は新色。
125でも大迫力の3輪スタイル。

フロント2輪リヤ1輪の3輪モデルをヤマハではリーニングマルチホイール(LMW)と呼び、トリシティ125と155、さらには300のバリエーションをそろえた。300ではスタンディングアシストシステム、つまり停車時にコケないようマシン側で自立する機構を装備していた。ということでお察しのように、排気量問わずトリシティはコケる。いくら3輪とはいえ転ぶときは転ぶのだ。ただ、タイヤが一輪多い→設置面積が広く、グリップ力が高い→スリップダウンしずらい→安心! というのが、トリシティシリーズの大きなメリットである。

163cm・短足おじさんの足つきチェック

両足の足指付け根付近まで着地する。
片足なら踵までしっかり着地する。
短足ながら不安感はない。

何度もお伝えしているように筆者は163cmの純和風短足体型。足つき性が良いモデルでも両足がベッタリ着地することはまれなので、足指の付け根付近まで着地してくれれば問題なく感じるカラダになってしまった。トリシティ125のシート高は765mmと非常に低く設定されているが、短足だからステップで足が開いてしまい両足だと踵まで接地してくれないのだ。とはいえ159kgの車両重量だから恐怖感は微塵もない。

使い勝手はどうだ?

全幅750mmでハンドル幅は程よく感じられた。
左スイッチのウインカーキャンセラーが使いやすかった。
デジタルメーターは視認性に優れる。
左ポケットにシガーソケットを装備。
ストッパー形状のシートはフィッティング性良好。
フルフェイスも収納可能なシート下に給油口も位置する。

トリシティ125の車体寸法は全長1980mm/全幅750mm/全高1210mm/ホイールベース1350mm。この数値はトリシティと前後して試乗したヤマハNMAXと偏差しかない。だから使い勝手、特に積載性についても同様な容量が確保されているのかと思うが、フロントカウル内側のポケットはNMAXが2つあることに対してトリシティには1つしかない。またステップスルーを採用するため燃料タンクがシート下に配置されることとなり、シート下の収納能力もNMAXほどではない。とはいえ、これだけ積載できれば十分だろう。シートのロックを解除するにはメインキーを差してイグニッションとは反対方向へ回す。キーレスではないものの不便というほどでもない。また左スイッチにあるボタン式のウインカーキャンセラーは非常に使いやすかった。

運動性能はどうだ?

LMW(リーニングマルチホイール)のフロントサスペンション。
水冷124ccBLUE COREエンジンは可変バルブ機構を採用。
消音性に優れるマフラーとリヤディスクとなるユニファイドブレーキシステム。

2018年に試乗した時はどこまで倒してもコケる気がしないので、コーナリングマシンだかと感じたもの。ところが今回改めて試乗してみたところ確かにコーナリングが楽しいのだが、それ以上に直進安定性の高さに舌を巻いた。というのも今回走った行程には狭くて凹凸だらけのシチュエーションが点在していた。見るからに危なそうという印象を抱くほどで気を引き締めて走り出したのだが、こちらの思惑など関係なしにトリシティは淡々と悪路を走破していく。これこそLMWの真骨頂で、フロントの左右輪が独立してストロークするため段差や凹凸に対する処理能力が非常に高い。例えばこれは幹線道路にありがちな、トラックがつけた轍などにも有効。落ち込んだ路面にタイヤを落としても、ひたすら車体は前へ前へと突き進む。例えばこれがサスペンションの硬いスポーツモデルだと、その都度減速したりと緊張の連続になるものだが、トリシティはスロットルを開けたまま、減速せずともそれぞれのサスペンションが十分にストロークしてくれる。ある程度の道ならばラフに走れて頼もしい。

前後連動のユニファイドブレーキシステム(UBS)を備え、さらにフロント2輪それぞれにブレーキを備えるため制動性能の高さも特筆モノ。いざとなればABSも作動するので思い切ったブレーキングができるのだが、ちょっとやそっと頑張ったくらいではビクともしない安定感を維持してしっかり止まってくれる。荒れた路面でも同様の印象で、LMWの利点を痛感することになった。

エンジンは高効率燃焼やロス低減、さらには冷却性にフォーカスしたBLUE COREエンジン。アルミ鍛造ピストンやオールアルミ製ダイキャストシリンダーなどを採用しつつ可変バルブ機構も備える。最高出力は12ps(9.0kW)で仕様としてはNMAXとほぼ同じと考えていい。ところが車両重量は159kgあり、NMAXの131kgより28kgも重い。大きなハンデと思うのだが、NMAXと同じように一定速で流れてる状況からフルスロットルを与えてみたところ、加速性能にそれほど大きな差は感じなかった。おそらく信号ダッシュでよ〜いドンすれば負けてしまうと思われるが、中間加速で不利になることはないようだ。これは意外なポイントだった。

もちろんコーナリング性能の高さは最初に試乗した時と変わらない。NMAX同様に砂の浮いた路面でコーナリングを試みたのだが、安定感の高さは一般的な2輪車とは別物。もちろんスリップすることもあるのだろうが、心理的にも性能的にも高い速度を維持したままクルンと向きを変えてくれる。この時の操縦性は2輪車と変わらないもので、バイクに乗り慣れた人なら違和感なく操作できるはずだ。

スタイルはどうだ?

鋭く尖ったフロントマスクが印象的。
立体感あるLEDテールランプ。

ここ数年、街で見かけることが多くなったトリシティなので、その度に「オオッ」と思うことは減ったものの、やはりフロント2輪のスタイルは独自の存在感に溢れている。フロントタイヤには左右それぞれにフェンダーが装備されているので、自然とフロントカウルは左右が抉られた形状になる。これが個人的には鳥のクチバシみたいな鋭さを感じる部分で、スタイル上の特徴だろう。フロントに比べるとリヤは割とまともなスクーターに感じられる。もう少しトリシティ「らしさ」のようなものがあっても良いように思っているのだが、いかがなものだろう。

トリシティ125 ABS 主要諸元

全長/全幅/全高 1,980mm/750mm/1,210mm
シート高 765mm
軸間距離 1,350mm
最低地上高 165mm
車両重量 159kg
エンジン形式 水冷4サイクル単気筒SOHC4バルブ
総排気量 124cc
最高出力 9.0kW(12PS)/7,500rmin
最大トルク 12Nm(1.2kgm)/7,250rmin
燃料タンク容量 7.2L(無鉛レギュラーガソリン)
燃料供給方式 フューエルインジェクション
タイヤサイズ(前/後) 90/80-14M/C (43P)/ 130/70-13M/C (57P)
制動装置形式(前/後)  油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後)     テレスコピック/ユニットスイング

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…