Z50年、Z1から派生したもうひとつの系譜とは
2022年はカワサキ 900 super4 通称Z1(以下Z1)が発売されて50年となる節目の年だ。Z900RS AnniversaryなどのZ50周年記念モデルの発売、WEBでの50年史展開、さらにはSNSでの歴代Zをモチーフにしたコンテンツの定期的発信などで、50年という歴史をアピールしている。日本人にとってのZといえば、Z1であり、Z1000Jベースのローソンレプリカが真っ先に思い浮かぶ。90年代に入ってゼファー、ZRX、ダエグでその血統は受け継がれ、今最新のZ900RSがカワサキZの血脈を未来につなげている。
しかし、50年に渡るZモデルはこれだけではない。実はZ1をカワサキ本社と共に生んだアメリカでは、Z1~ローソンレプリカに続くスポーツZとは違う、もうひとつのZ、「LTDシリーズ」が有名なのだ。日本では750、400、250のツインとシングル(のち125も発売されたが)でしか展開のなかったLTDシリーズだが、日本ではうかがい知れぬほどのバリエーションをもって、アメリカのZブランドの一翼を担っていたのは意外に知られていない。
北米のニーズに合わせ現地でZ1をカスタム
LTDが生まれたのは1976年のアメリカ、ネブラスカ州リンカーンのカワサキ・アメリカ現地工場だった。日本のオートバイメーカーとしていち早くアメリカに組み立て工場を設立したカワサキは、この工場でZ1と空冷2気筒エンジンを搭載したKZ400(日本名400RS)の生産を開始した。
この工場のラインを使い、現地調達したマフラー、タイヤ、ホイールを装着し、さらにアップハンドルや段付きソファシートでカスタム感を演出した「Z1」が独自に生産された。これが「Z900LTD」、のちのLTDシリーズの始祖となるモデルだ。つまりアメリカ人が、アメリカ人好みのスタイルにZ1をカスタムしたメーカーカスタムが発祥だったというわけだ。
長距離走行での快適性と当時最大級のパワーを両立したZ900LTDは北米で好評を博し、本格的な開発が始まっていく。
80年代にかけ爆発的にラインナップが拡充
プルバックハンドルやティアドロップタンク、メッキフェンダーなどといった、アメリカンクルーザースタイルを色濃く取り入れたスタイルがLTDシリーズの特長だが、専用のフレームを始めて採用したのは2気筒モデル、Z440LTD(1980)からだ。ポジションはクルーザースタイルだが、エンジンはパワフルかつエキサイティング。他社がハーレーに似せたV型二気筒エンジンを採用するなか、実にカワサキらしい異色のパワークルーザーとして、LTDは各排気量帯に派生していく。80年代のLTDラインナップを気筒順に列記すると、まず4気筒エンジン搭載モデルは1100、1000、750、650、550、400があった。1000ccモデルは時期によって、Z1ベースのものとZ1000Jベースのものの2種が存在する。750ccモデルはZ650B、いわゆるザッパーのエンジンを排気量アップしたものだ。550、400ccモデルはスポーツモデルZ500 / Z400FXのDOHCエンジンがルーツ。ハイパワーなエンジンだ。
2気筒エンジン搭載モデルは 750、440、400、305、250。750ccは当時4気筒よりもスタートダッシュは速かったといわれるZ750Tベース。
400、440ccモデルはZ1、Z2に続き登場した3番目のZ、Z400RSの並列2気筒エンジンがルーツだ。305、250ccモデルは角Zの流れを組むデザインが人気のロードスポーツ、Z250FTエンジンがベースだ。
最後に単気筒LTDだが、Z200ベースのZ250LTDがある。ちなみに2気筒250ccモデルには「TWIN」というペットネームが付いており、この単気筒モデルと差別化されていた。
実に12機種。当時のカワサキラインナップのほぼすべてにLTDが用意されていたことになるわけだ。
LTDをベースにさらなるバリエーションモデルも
さらに、LTDをベースにスポークホイールを装着し、トラディショナルなスタイルに仕上げた「CSR」というシリーズや、エアサスペンション&シャフトドライブを採用した「スペクター」シリーズという派生モデルも発売された。ちなみにスペクターは黒、金のカラーリングの750cc版が日本でも発売されたため、その名前を覚えている人も多いだろう。
現代に受け継がれるLTDの血脈
パワークルーザーのカワサキを決定づけたLTDシリーズは、80年代後半、GPZ900Rの登場に合わせそのコンセプトをエリミネーターシリーズに引き継いだ。空気の壁を力で切り裂いて進むような長く低いドラッグレーサースタイル、ハイパワーなエンジン、SEに至っては奇特なロケットカウル風バイザーが装備されるなど、当時どのメーカーにもエリミネーターと似たモデルはなかった。現在はスポーツモデル、Ninja650のツインエンジンを積むバルカン650にその片鱗を見ることができる。
2気筒、単気筒エンジン搭載モデルが主流のカテゴリに4気筒モデルを投入、パワーでエキサイトメントを追求するカワサキ・スタイルは、今、4気筒アドベンチャーモデルのVERSYS1000 SEに受け継がれている。
最近ではZのフラッグシップ、Z H2のスーパーチャージドエンジンを搭載した新型エリミネーターのうわさもちらほら耳にする。世の中電動一色で、内燃機関のエキサイトメントは追求しずらい流れだが、カワサキにはぜひとも令和の直線番長、エリミネーター1000スーパーチャージャーを復活、リリースしてもらいたいものだ。