スーパーカブとしての基本コンセプトはそのままに現代的なモデルへと一新

ホンダ・スーパーカブ110試乗|新型はレジャーバイクとしての魅力が大幅アップ!!

スーパーカブ110がフルモデルチェンジされました。外観デザインなど1958年から続くスーパーカブの基本スタイルに大きな変更はありません。もはや完成形ともいえるスーパーカブですが、新設計エンジンの採用をはじめ装備は現代的なものへと一新。時流を反映させているからこそ世界中でロングセラーを続けているのです。そんな新型スーパーカブ110にさっそく試乗して検証してみました

ホンダ・スーパーカブ110……302,500円

時代に合った進化を果たしていた

 スタイリングデザインの基本は65年前に初登場したC100から大きく変わっていません。ひと目でスーパーカブと認知される普遍的なボディデザインにほっとする人は多いんじゃないでしょうか。いままでに何度となくモデルチェンジされていても、その独自のフォルムに表現されたコンセプトは一貫しているのです。もちろんそれは最新型も変わりありません。
  しかし今回のモデルチェンジでは外観に変化がありました。まず大型の荷台はブラック塗装されました。荷台というより大型リアキャリアと呼んだほうがピッタリの雰囲気になってます。さらに伝統的に採用していたワイヤースポークホイールですが、これがなんとC125同様のキャストホイールになってしまいました。古いタイプのライダーにはかなり衝撃的じゃないでしょうか。そしてタイヤもついにチューブレスが装着となりました。耐パンク性でいえばうれしい変更ですね。さらにさらに、フロントブレーキがABS装備のディスクブレーキとなりました。世界的な安全基準を満たすために採用したものだと思いますが、外観性はともかく、安全性が高められたのは喜ばしいことですね。このように、今回のモデルチェンジはかなり大幅な変更が加えられたのが特徴的です。それまで日本国内では、スーパーカブは実用車という見方、使い方がされてきましたが、最新型ではレジャーバイク的な要素が強くなったと感じました。
  跨ってポジションをとったときの感覚は従来型と変わりありません。コンパクトなボディは相変わらず抜群の足つき性を実現しています。しかも180㎝近い長身のボクが乗車しても窮屈なところはありません。前後サスペンションの初期作動も柔らかくて、シートにドッカリと腰を下ろした瞬間、なんともいえない安心感に包まれます。「座る」という独特の乗車姿勢もリラックスできる要因なのかもしれません。
スリムでコンパクトなボディは、738mmという低シート高で抜群の足つき性を実現してくれます。車重も101kgと軽いので小柄な人にも安心して乗ることができるのもスーパーカブが長く支持されている理由のひとつです。跨るというより座る感じになるポジションも、だれにでもリラックスして乗ることができる要素です
 始動方式はセル、キック併用式。まあいまの時代わざわざキックで始動することはないと思いますが、キックでの始動も可能というのは、昔からのバイク乗りであるボクのような熟年ライダーにはうれしいものです。それに、万が一バッテリー電圧が落ちてきてセルが回らなくても、キックでエンジンが掛けられるというのは心強いんじゃないでしょうか。
 そんなわけで新型スーパーカブ110のエンジンをセルで始動します。相変わらず静かな排気音が放たれるので近所迷惑になりません。シーソー式のチェンジペダルを前方に踏み込んで1速に入れます。従来ではガクンと車体が挙動するほどショックがあったのですが、新型はショックが少なくなっている感じです。しかもギアの入りがとても良くなっていますし、いわゆるギア抜けも起きなくなっていました。これは進化ですね。
 走りだしてすぐに感じたのが、回転フィーリングが滑らかになっていて、レスポンスも一段とスムーズになっていたことでした。全体に上質になった印象で、高回転での頭打ち感も少なくなっています。なのでエンジンに伸びがあるように感じて、高回転まで回すことにためらわなくなりました。従来型と実際に競走したわけじゃないので明確なことはいえませんが、おそらく加速性能は良くなっていると思います。体に伝わる鼓動もいい感じになっています。
 スーパーカブ110のフィールドである市街地では、60㎞/h程度までの加速や速度が常用ですが、そうした領域で力強さを発揮してくれるようになっていたので、頼もしさがアップしました。もちろんツーリングでもこうした速度域がメインになりますから、気持ちよく走ることができるはずです。
 新型スーパーカブ110における最大の変更点は、ロングストローク化した新設計エンジンを導入したことです。従来型はボア×ストロークが50.0×55.6mmだったものが、新型では47.0×63.1mmとなりました。最高出力は変わらないものの最大トルクは8.5から8.8Nmへとアップしています。わずかな差のように思えますが、実走ではそれが数値以上に効果を発揮していることが理解できるのです。しかも燃費まで向上しているというのですからうれしい限りです。
 キャストホイールにチューブレスタイヤの採用で大きく変わった足回りですが、特段乗り心地が悪くなったわけじゃないし、走りが劇的に改善されたようなこともありません。厳密に比較すれば、スポークホイールのようにホイール自体が衝撃を吸収するわけじゃないので、若干は硬めの乗り味になるのかもしれませんが、サスペンションの設定である程度補っているんじゃないかと思います。またタイヤも異なっているので、その特性に左右される部分もあると思います。いずれにしても、攻め立てて走るようなバイクじゃないので、ちがいは大同小異といったところです。ハンドリングに関しても、わずかにバンキング操作がシャープになったかな?といった程度で、仮に従来型と峠道で競走したとしても、ほとんど差は出ないと思います。それよりもパンクへの不安が大きく減ったことのほうが効果が大きいと思います。万が一パンクした場合にも一気にタイヤがペチャンコになることはないし、補修キットで簡単に修理できるので心強いですね。
  ABS装備のシングルディスクブレーキも、レバータッチ、効きともに良好で、ドラムブレーキとはかなりフィーリングがちがいます。好みは別れるでしょうが、たしかに安全性は高まっていて、安心してブレーキレバーを握り込むことができます。
  新しくなったメーターにはデジタルディスプレイが内蔵されています。サイズ的には従来型のアナログメーターと変わりませんが、ギヤポジションが表示されるようになりました。さらにディスプレイには、燃料残量が常時表示されるほか、オド/トリップ、時計、平均燃費が切り替え表示できるようになっていて、実に便利になりました。街中での普段使いはもちろん、ツーリングでも大いに役立ってくれるはずです。
  新型エンジンを導入するとともに装備を充実させて性能アップした新型スーパーカブ110は、上級モデルにあたるC125に近づいたという印象を受けました。しかもこれだけたくさん変更して価格は22000円アップにとどめたのは立派。これでまた新たなカブ主が増えそうですね。
スーパーカブの特色でもある自動遠心クラッチ4速ミッション。ギヤのタッチが良くなった。チェンジペダルがシーソー式なので、靴の甲を痛めることがない
ロングストローク化した新設計エンジンを新たに搭載。低中速でのトルク特性が向上し常用域でパワフルに走る。鼓動感も強くなり走る楽しさもアップした
キャストホイールにチューブレスタイヤを装着。これによって耐パンク性が高まり不安が払拭された
フロントディスクブレーキは1ポットキャリパー装備。さらにABSも標準装備となりブレーキ性能が向上
折り畳み式のタンデムステップはスイングアームにマウントされる。リアキャリアに純正のピリオンシートを装備すればタンデムツーリングも可能だ
スーパーカブといえばやはりこのレッグシールドが特徴的な装備だ。風雨や寒さから下半身を保護してくれる。さらに左側にはコンビニフックが装備
リアの大型キャリアはブラック塗装となった。これによって実用車っぽさはなくなり、レジャーバイクらしさが高まった
レッグシールとと同様にフルカバードされたハンドルも継承される装備だ。フロントディスクブレーキの採用で右側にはマスターシリンダーが設置
2本ショック式のリアサスペンションはカバードタイプで汚れを防止。初期作動を含めて全体にソフトな動きを示し、常用域での快適な乗り心地に貢献してくれる
液晶ディスプレイに燃料計、ギヤポジション、時計、オド/トリップ、平均燃費を表示する機能的なメーターを新採用。ツーリングで大いに役立ってくれる。そしてビギナーにも優しくなった

コンパクトにまとめられたテール周り。テールランプの大きさもボディサイズによくマッチしている
丸型のヘッドライトは従来型同様にLEDを採用。青白い光はいかにも現代的だ

シート下はキーロック式のキャップを持つ4.1L燃料タンクになっている。計算上は満タンで約250km走ることができる
シートは大型で肉厚のサドルタイプ。跨るというより座るスタイルになるのでお尻への負担も少ない

主要諸元

車名・型式 ホンダ・8BJ-JA59 
全長(mm) 1,860 
全幅(mm) 705 
全高(mm) 1,040 
軸距(mm) 1,205 
最低地上高(mm) 138 
シート高(mm) 738 
車両重量(kg) 101 
乗車定員(人) 2 
燃料消費率(km/L) 
 国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) 68.0(60)〈2名乗車時〉 
 WMTCモード値 67.9(クラス 1)〈1名乗車時〉 
最小回転半径(m) 1.9 
エンジン型式 JA59E 
エンジン種類 空冷4ストロークOHC単気筒 
総排気量(cm³) 109 
内径×行程(mm) 47.0×63.1 
圧縮比 10.0 
最高出力(kW[PS]/rpm) 5.9[8.0]/7,500 
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 8.8[0.90]/5,500 
燃料供給装置形式 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 
始動方式 セルフ式(キック式併設) 
点火装置形式 フルトランジスタ式バッテリー点火 
潤滑方式 圧送飛沫併用式 
燃料タンク容量(L) 4.1 
クラッチ形式 湿式多板ダイヤフラムスプリング式 
変速機形式 常時噛合式4段リターン 
変速比 
 1速 3.142 
 2速 1.833 
 3速 1.333 
 4速 1.071 
減速比(1次/2次) 3.421/2.500 
キャスター角(度) 26°30´ 
トレール量(mm) 73 
タイヤ 
 前 70/90-17M/C 38P 
 後 80/90-17M/C 50P 
ブレーキ形式 
 前 油圧式ディスク(ABS) 
 後 機械式リーディング・トレーリング 
懸架方式 
 前 テレスコピック式 
 後 スイングアーム式 
フレーム形式 バックボーン

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…