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ドゥカティ・スクランブラー ICON…….1,146,000円
ドゥカティ・スクランブラー ICON Dark……1,069,000円
ドゥカティ・スクランブラーとはじつに痛快なモデルである。ネイキッドスポーツと比較して上体が起き、少し大きくゆったりなライディング・ポジションで、リラックスできる乗り味が楽しめる。ダート等の悪条件に遭遇しても少しワイドなハンドルが奏功し、楽に走破できる頼もしさがある。だからむしろ、そんな過酷な場面すら歓迎したくなってしまう懐の広さに、ライダー歴がウン十年の筆者もついつい気を許してしまうのだ。
このスクランブラー シリーズに採用されているエンジンは400cc~1100ccまで3機種、全8種ものバリエーション展開を誇る。その中の標準的モデルが803cc エンジンを搭載するこのICONである。
実はマイナーチェンジされた新型が投入されたばかり。目立つ変更はそう多くないが、タンクサイドのアルミパネルをリファイン。ウインカーもLED化された他、ボッシュ製コーナリングABSの搭載も新しい。
800ccエンジンのカテゴリーには ICONの中にも2種のカラーバリエーションの他、ブラックのICON Darkや、ダートトラック風のFull Throttle、オフロード色を強めたDesert Sled、スポーティなCafe Recerと揃えられユーザーにとって多彩な好みに対応している点も見逃せない所である。
開発のキーワードは「Land of Joy」。 同1100の記事でも書いた通り、道路(舗装路)以外でも楽しめる自由な使い勝手を象徴しているのが特徴である。
フロントにはやや細めの110/80R-18、リヤは180/55R-17インチのピレリ製のMT60RSを採用。鋼管トレリスフレームには同社ではかつて主力として君臨してきた空冷のOHCデスモドロミック。つまり吸排気バルブの強制開閉機構を持つ2バルブLツインを搭載。基本的にモンスター797と共通でφ50mmのスロットルボディを持つ電子制御燃料噴射が採用されている。
1100と比較すると右出しシングルのショートマフラーや、少し細身のフロントタイヤ等、シンプルな装備も含めて全体的に少し細っそりと軽快な印象を受ける。果たしてその乗り味はどうフィードバックされているのだろう。
散歩気分で気楽に乗れる心地良さ!
試乗車を手にとり跨がってみると、直感的に人気が出た理由がわかる気がした。ミドルクラスの中でも車体はスマートで、ハンドルに触れて取り回す感覚も気楽。車重も乾燥で173kgに過ぎず、1100(乾燥重量189kg)よりも明らかに軽快に扱える。その親しみやすさには素直に好感が持てたのである。
大きく高出力なバイクへ憧れる気持ちは良く理解できるし、迫力を伴うパンチの効いた加速力も魅力的ではあるが、何かと制約のある一般道を走る限り、その高性能は宝の持ち腐れになる事が多い。欲張らずにかつ不足のないパフォーマンスを求めるならミドルクラスの出力特性は絶妙と言える程良さがある。
ショートストロークタイプのLツインエンジンは、クランクマスも適度に軽くスロットルを開けると実に心地良い噴き上がりを発揮する。特別にトルクがズ太いとか伸びが凄く良いというフィーリングではないが、市街地や郊外を走る時はもちろん、峠道をちょっとスポーティーに走らせる時にも、Lツインらしい軽やかな鼓動感が心地よく感じられた。その動力性能にも不足はないのである。
ギヤの選択がそれほどシビヤではない柔軟な出力特性もあって、日常的に使う普段の走りに対して、そのパフォーマンスと扱いやすさは絶妙。ちなみにローギヤでエンジンを5000rpm 回した時のスピードは44km/h。トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は4100rpmほどだった。
フロント18インチサイズのタイヤも適度な直進安定性がある。切り返し等の操縦性も思い通りになり、落ち着きを伴う程良さを覚えた。それこそ足代わりからツーリングまで気分良い。上体の起きた姿勢で乗る感覚は、ネイキッドスポーツの中でも開放的な気分を自由自在に満喫するに相応しいものだ。
唯一気になったのは、ハンドル切れ角が35度と小さめで、Uターン等の小回りは得意ではない。ただし、操縦性はとても素直で扱いやすかった。
特筆すべきハイテク装備や細かな調節機構も無い。全体的にスッキリとシンプルなデザインにも好感がもてる。気取らず、肩肘張らず、気楽に楽しめるICONの乗り味は多くのライダーが魅力的と感じられることだろう。