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日常的に乗ることが多いスクーターは、通勤通学になくてはならない存在。酷使されるうち自然と各部が劣化したり摩耗してくるけれど、毎日のように乗っていると変化に気が付きにくいもの。気がつかないうちに性能は落ちているし、思ったように走ってくれなくなる。普通なら「買い替え時かな」と次なるスクーターを物色するところだが、ちょっと待ってほしい。スクーターはエンジン出力をスプロケットとチェーンでダイレクトに後輪へ伝達するバイクと異なり、ベルトがプーリーと当たる位置を変えることで加速する。ここがポイントで、エンジンの性能より駆動系の性能が落ちてくることが多く、メンテナンスすることで見違えるように甦る場合もある。そこで今回はモトチャンプが無料配信しているユーチューブプログラム「モトチャンプTV」で公開している動画「シグナスX駆動系リフレッシュ」から、どのように駆動系を見直すのかダイジェストに紹介してみたい。
試乗とパワーチェックで性能を確認!
素材として取り上げたのは2万キロ以上を走ったシグナスXで、パワーチェックの前にMCシモが試乗して性能を確認している。そのうえで埼玉県越谷市にあるエムファクトリーでパワーチェックを行うのだ。Mファクトリーではスクーターチューンについてさまざまなノウハウを蓄えていることで有名。さらにチューニングしたスクーターをパワーチェックできる設備を整えているので、実際にチューニングしたスクーターの性能向上を数値で確認できるのだ。
MファクトリーにあるDYNOSTARで走行2万キロのシグナスXをパワーチェックする。この個体はエンジンがチューニングされていたため、目立った性能劣化やパワーに谷がなく比較的良好な状態であることが確認された。試乗したMCシモが気になったのはゼロ発進からしばらくしてクラッチが繋がった時の回転落ち。スタート時は回転数が上がるものの、特定の速度域でエンジン回転数が下がるという症状。これはスタート直後はクラッチを滑らせて加速をスムーズにさせ、ある程度の速度に達するとクラッチが完全につながり、その後は回転数とともに速度が上がる。スクーターの駆動系として一般的な特性だが、エンジンチューンしてあることで顕著になったのだろう。この領域はDYNOSTARでの計測結果にも反映され、エムファクトリーの三保田さんが指差す辺りで回転数が落ちていることがわかる。
駆動系をメンテナンスする!
シグナスXの現状をしっかり把握したところで、駆動系の分解を始める。まず駆動系カバーを外して内部を確認すると、エンジンとともに駆動系にも社外パーツが組み込まれていることが発覚。つまり過去に一度、内部を分解していることになる。続いてクラッチやVベルト、プーリーなどを外して各部品の状態を確認する。過去の分解交換作業を物語るように、目立った摩耗や損傷は見当たらなかった。ただしクランクケースカバーのフィルターは限界まで劣化していたり、Vベルトの下側がカバーと干渉したためかパッキンが切れていた。分解してみないとわからないことなので、距離を走ったらぜひ確認したいところだ。
大きな摩耗・損傷はなかったものの、やはりクラッチアウターにはサビが発生して部分的に摩耗している箇所も確認された。プーリーのフェイスやスライドピースなどは十分に再利用可能な状態だったが、ウエイトローラーには若干の段付き摩耗が確認された。いずれも軽傷なので、さらに分解を進めて十分な清掃と磨きで再利用できる。
またクラッチのトルクカムの溝には古くなって汚れを吸い込み固くなったグリスが付着している。装着されているオイルシールやOリングをすべて取り外してから、しっかりと汚れを除去してパーツクリーナーなどで清掃しよう。クラッチやプーリーがスムーズに動くことで本来の性能を取り戻すことに繋がるのだ。
クラッチの分解と組み立て
古いオイルシールやOリングを外したクラッチに、新品のオイルシールとOリングを装着する。Oリングはグリスを塗りながらクラッチへはめ込み、オイルシールは摩耗に強いメタルシールに交換する。メタルシールは嵌合させるため、必要なら温めてからクラッチへ組み付ける。手では嵌合させることができないので、まずハンマーで軽く周囲を均等に叩きながらはめ込み、最後に特殊工具をかぶせてハンマーで嵌合させる。
分解して清掃したクラッチを元に戻す。この時もすべてのパーツにグリスを塗布してから組み直すことが大事だ。清掃して古いグリスが無くなったトルクカムの溝へスライドピンを入れていく。
スライドピンを入れたトルクカムの溝にはたっぷりとグリスを注入すること。ここが動くことでクラッチが繋がるため、スムーズに動かすためにグリスアップは不可欠なのだ。グリスを入れたら上から部品を被せる。
クラッチを完全に組み直さず、この状態で一度車体側へ戻す。戻したらシャフト上でクラッチを何度かスライドさせる。すると先ほど注入したグリスがシャフト内へ潤滑される。そこで一度シャフトからクラッチを抜いてみると、トルクカムの溝から先ほど注入したグリスが無くなっていることが確認できるはずだ。再度トルクカムの溝へグリスを注入してクラッチを組み直すことになる。今回は前編のためここまで。次回は続きの工程を紹介する後編をお届けする。