「4台のバイクを1台に」を体現したDUCATI ムルティストラーダV4s。これは良きアドベンチャーツアラーでした。【新車試乗記】

世界中に高い人気を誇るドゥカティのアドベンチャーモデルがムルティストラーダです。2003年の初登場以来、心臓部にはV型2気筒を採用していましたが、第4世代では新設計のV型4気筒を搭載しました。同時にエレクトロニクスも最新のシステムが導入され、コンセプトである4 bikes in 1をさらに進化させました。最新型ムルティストラーダV4には5タイプがあるのですが、その中からライダーアシスタンス・レーダーシステムを搭載したV4sでショートツーリングしてみました。

DUCATI ムルティストラーダV4s……3,074,000円(消費税込み)

滑らかさがプラスされたパワーフィーリングがツーリングでの快適性をアップさせる

ムルティストラーダはその名のとおり、あらゆる道を走破する性能を持ったバイクとして2003年に登場しました。エンジンは1000㏄Lツイン、後に1100㏄、620㏄モデルをラインナップしました。初代モデルはオンロードバイクとして開発されたもので、ストリートからワインディング、さらにウエットとさまざまな状況にも対応する性能が高く評価され、人気モデルとなりました。2010年にモデルチェンジし第2世代となりました。スタイルを一新するとともにエンジンは1200㏄へと拡大。さらに電子制御システムの導入でオフロード性能を高めることに成功しました。 2015年にはテスタストレッタ・エボルツィオーネ11°に可変バルブタイミング・システムを組み込んだテスタストレッタDVTへとエンジンを進化させた第3世代となりました。さらにIMUの導入によってロール、ピッチ、ヨーの変化率を読み取り、コーナリングABS、トラクションコントロール、セミアクティブ・サスペンションの各機能を調整。コーナリングライトやクルーズコントロールなどの制御も行い、走行性能だけじゃなく快適性、安全性も大幅に高めました。2018年にはエンジンを1260㏄へとアップグレードし、さらなる高性能化が図られました。また、より親しみやすいモデルとして950も新たに登場させました。こうしてムルティストラーダ2Vは着実かつ大胆に進化してきましたが、2020年、フレームを一新するとともにエンジンはデスモセディチ・ストラダーレから派生したV4グランツーリスモを搭載した第4世代へと大きく変革したのです。

躍動感を残しつつスムーズで扱いやすくなったエンジン

「ムルティストラーダだ」だとひと目でわかる個性的なスタイリングはこのV4Sにも踏襲されています。しかしながら、従来からのトレリスフレームに代わってモノコックフレームを採用したこともあって、ボディワークにも変化が見られます。印象的なのはタンク周りにボリューム感がもたらされたことで、全体に丸みのあるデザインとなっています。サイドビューに関しては、V2とV4とでは別物といった仕上がりなのです。しかしフロントビューについては、第2世代から続くムルティストラーダ独特のスタイルです。

シート高は810 / 830mmの可変式とライダーフレンドリーな装備です。この手のアドベンチャーツアラーで810㎜という数値はかなり低い部類で、小柄な日本人にはうれしいポイントです。ところが実際に跨ってみると、810㎜?と疑いたくなるほど足つき性は良くありません。シート自体はたしかに低いのですが、足を下ろそうとするとサブフレームに幅があるため足が開いてしまうのです。結果的に足を着けにくい状態にしてしまっているように思いました。  ポジションはいかにもアドベンチャーツアラーといったアップライトなもので、ハンドル幅もワイドです。従来のV2と比較してハンドルグリップの位置が低くて遠い感じはありますが、長距離走行にも疲れにくいポジションであることは容易に想像できます。

足つき性(ライダー身長:178㎝)

タンク周りにボリューム感を持たせたニューデザインのボディ。大型アドベンチャーツアラーらしくアップライトなポジションにはゆとりがあり、下半身に窮屈さはない。オフロード走行を想定してハンドル幅はワイド。通常走行では腕が開きすぎかな?という印象を受けるが、まあ慣れてしまえば違和感なく操作できる。シート高は810/830mmと2段階に調整が可能で、低い位置にセットすれば平均的な体格のライダーでも両足つま先が着けられる。ただし足が開き気味となるため数値から想像するより足つき性は良くない。ロングツーリングやオフロード走行を考えているライダーなら、標準タイプのシートのほうが扱いやすいかもしれない。逆により低くしたいと願うライダーには、最大790mmまでシート高を低くできるローシート&ロー・サスペンションキットがアクセサリーで用意されている。いずれにしても、用途に応じたチョイスができるようになっているのはうれしい
始動すると、ドゥカティらしいバルス感のあるサウンドがマフラーから吐き出されます。といっても従来のVツインとは明らかにちがったサウンドで、どこかまろやかさがあると感じました。このあたりはやはりV4エンジンということが主張されている部分でもあります。ボク自身はこれまで、第1世代からすべてのモデルに乗ってきて、V2の進化に関しては肌で直接感じてきました。しかしドゥカティのV4に関しては今回が初めての経験でした。なので果たしてどんなパワーフィーリングなのかワクワクしながらスタートしました。
ツインパルスと呼ばれる点火順序とMotoGPマシンのテクノロジーから派生したカウンター・ローテーティング・クランクシャフト、そしてデスモドロミックではなくスプリング駆動式のバルブ開閉システムを導入したV4グランツーリスモエンジンは、従来のVツインエンジンに対して1.2㎏の軽量化を実現しています。しかもコンパクト化にも成功しているというのですから、単に2気筒から4気筒に変更したということではなさそうです。もちろん最新の電子制御システムも惜しみなく導入していて、新たにメーターパネルに表示できるナビゲーション・システムと革新的なライダーアシスタンス・レーダーシステムも採用しています。文字どおり「4台のバイクを1台に」というコンセプトを昇華させているのです。

まずはツーリングモードでスタートしたのですが、170psのハイスペックを誇るエンジンながら、街中で多用する低回転域でも不足のないトルクを発生し、218㎏のボディを意のままに加速させます。V4でありながらパルス感を伝えてくるエンジンも走りにメリハリを与えてくれます。それでいてアクセルオンオフでの挙動は穏やかで、多少ラフなアクセル操作をしてもギクシャクしません。ピッチングモーションが大きいと疲労する度合いが強いものですが、ムルティストラーダV4Sはパワーフィーリングも含めてスムーズさが主張されているので、ゴー&ストップを繰り返す街中から長距離を移動するツーリングまで高い快適性を発揮してくれるはずです。

今回は市街地から高速道路、そして海岸線のワインディングを走ってみたのですが、どのシチュエーションでもエンジンは使いやすい特性を見せてくれました。オフロード走行はしなかったのですが、おそらくダート走破性も高まっていると感じました。

ハンドリングに関してもっとも強く感じたのは、非常に素直な操縦性を実現しているということです。まずは市街地を走りだしたのですが、初めて乗るバイクの場合、慣れるのにしばらくかかるものです。ところがこのムルティストラーダV4Sは、走りだしてひとつ目の交差点を曲がった時点で違和感なく溶け込んでいました。まるで何ヶ月も前から付き合ってきたかのように親しみやすいと実感したのです。基本的にはフロント19インチタイヤらしいしっかりとした安定性があって、低速でもフラツクことはありません。電子制御されている前後サスペンションも、スピードに応じて最適な減衰特性を発生してくれているので、快適な乗り心地を提供してくれるだけじゃなく、優れたロードホールディング性を発揮してくれます。
交差点を曲がるときのバンク操作、高速道路ランプの出入口カーブに進入する際のバンク操作、そしてワインディングでの切り返し操作など、すべてが思いのままに狙ったラインをトレースできます。もちろんハンドリングは素直な軽快性を実現しています。

V4エンジンになったということで、走りが重くなったりしないのだろうか?と懸念していたのですが、そんなことは一切なくて、むしろ走りが上質になったとさえ感じました。先述したとおり、初代から歴代のモデルにすべて乗ってきて、進化を実感してきましたが、V4になってさらにワンランクもツーランクもレベルが上がったと思いました。電子制御によるライダーサポートもより充実したものになり、安全性も高められています。どんな道も臆せず進入でき、そして走破してくれる。ムルティストラーダV4Sはユーザーの要求にすべて最適な答えを出してくれる、そんなアドベンチャーツアラーなのです。

ディテール解説

ムルティストラーダ独自の低中速重視型V4エンジンは、4気筒ならではの滑らかでスムーズなパワーフィーリングを特色としながらも、ツインパルスと呼ばれる点火順序などにより、パルス感のあるフィーリングとサウンドを放つ
デスモドロミックではなく新たなバルブ開閉システムを採用したV4エンジン。これらにより従来のV2と比較して高さ95㎜、前後長85㎜、幅20㎜ものコンパクト化を達成。さらに重量でも1.2㎏の軽量化を実現
ツインヘッドライトを採用した精悍なマスクは、第2世代から踏襲されたデザインが基本。V4SではフルLEDライトを採用している
シンプルなリア周りとすることでマスの集中化にも貢献。テールランプはLEDだ。またツアラーらしくサドルバッグの装着性も考慮している
オフロード走行に適したワイドなハンドルが装備。枝葉や飛び石から手を守ってくれる強靭なハンドガードが装着してある。また可動式のウインドスクリーンが効果的に風圧を抑制してくれる
V4Sでは6.5インチサイズのフルカラー液晶ディスプレイが装備される。画面切り替えを含めて多彩な表示機能を持ち、実際に視認性は良好。ドゥカティ・コネクトシステムによりスマートフォンと連携できる
さまざまな電子制御システムを搭載しているため、切り替え操作のスイッチ類が多い。スティック型で操作性はアップしているが、すべてを把握するには多少の時間が必要だ
キルスイッチとセルスタータースイッチは一体式となっている。合理的で実際に使いやすかった
セパレートタイプのシートは十分な肉厚があり自由度も大きい。アドベンチャーツアラーらしくロングツーリングにも疲労しにくい設計だ。シートの高さを変える際には、フロントシートのはめ込み位置を変える。
シート下には車載工具や電装部品が収められている
フロントホイールは19インチで、オフロード走行をサポート。コーナリングABSを採用したブレーキはブレンボ製ダブルディスクブレーキ
ユニークなデザインの新世代両持ち式スイングアームを装着。ホイールは17インチで、ブレーキはブレンボ製ディスクブレーキ
クラッチ操作なしにシフトダウン/アップが可能なクイックシフターを装備。ワインディングでのスポーツライディングにも効果を発揮してくれる
最大で400もの組み合わせが可能だというドゥカティ・スカイフック・セミアクティブ・サスペンション。4 bikes in 1コンセプトを支える

主要諸元

●Engine
Engine:V4 Granturismo, V4 - 90°, 4 valves per cylinder, counter-rotating crankshaft, Twin Pulse firing order, liquid cooled
Displacement:1,158 cc (71 cu in)
Bore×Stroke:83 mm x 53,5 mm
Compression:ratio
14.0:1
Power:170 hp (125 kW) @ 10,500 rpm
Torque:12.7 kgm (125 Nm, 92 lb ft) @ 8,750 rpm
Fuel injection:Electronic fuel injection system, Øeq 46 mm elliptical throttle bodies with Ride-by-Wire system
Exhaust
:Stainless steel muffler, double catalytic converter and 4 lambda probes

●Transmission
Gearbox:6 speed
Primary drive:
Straight cut gears, ratio 1.8:1
Ratio:1=40/13, 2=36/16, 3=34/19, 4=31/21, 5=29/23, 6=27/25
Final:drive
Chain, front sprocket z16, rear sprocket z42
Clutch:Multiplate wet clutch with hydraulic control, self-servo action on drive, slipper action on over-run
Suspension:Semi-active Skyhook
Wheel:Light alloy cast / Spoked
Front brake:2 x Ø 330 mm discs, Brembo callipers M50 Stylema
Instrumentation:6.5” colour TFT display
Dry weight:218 kg (480 lb)
Kerb weight:243 kg (535 lb)
Proiettore:Full-LED

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…