チャンピオンに輝く実力派、アプリリア・トゥオーノ660ファクトリー試乗記

ミドルサイズのホットなネイキッドスポーツとして知られるTUONO 660。これをベースに追加投入された上位機種がこのFactoryである。果たして両車の違いは何処にあるのか!?

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ピアッジオグループジャパン株式会社/日本自動車輸入組合(JAIA)

アプリリア・トゥオーノ660ファクトリー…….1,562,000円(消費税10%を含む)

FACTORY DARK

カラーバリエーションは2タイプ

TOOFAST

イタリア語で「雷鳴」を意味する“TUONO”と命名されたモデルの生産は、2023年10月で20周年を迎え、その記念イベントが「箱根ガラスの森美術館」で開催されたのはまだ記憶に新しい。
既報の通り、トゥオーノ660はRS660に負けないホットなネイキッドスポーツ。普段使いの扱いやすさも加味されたライディングポジションを持ち、それでいてアッパーとアンダーにセパレート式のカウルを装備した新世代デザインが個性的魅力を放っている。
余談ながらピュアなスーパースポーツモデルのRS660は、アメリカのナショナル選手権レース、“Moto America”のミドルクラスで争われるTwins Cupに参戦。2021年にデビューし、見事チャンピオンに輝いた。
今回のトゥオーノ ファクトリーは、アジャスト機能を充実させた前後サスペンションを始め、クイックシフターやマルチマップコーナリングABSなど、従来はオプションとされていた上級機能を標準搭載。さらに水冷DOHC4バルブ、270度クランクを持つ直(並)列2気筒エンジンもRSと同レベルにチューニングされて、その最高出力は70kW(95HP)から73.5kW(100HP)へパワーアップ。一方車両重量では装備で183kgから181kgへ軽量化も施されたのである。

車両の本体価格は税抜きで1,420,000円。ベースモデルは1,290,000円なので、130,000円高価だが、前述の通りエンジンの高出力化を始め、電子制御系の熟成と前後サスペンションの換装を考慮するとむしろお得感のあるモデルに仕上がっていると言えるだろう。
6速ミッションに搭載されたAQS(アプリリア・クィック・シフト)はアップ&ダウン共に対応する。前後ブレーキもディスクローターにブレンボ製の対向ピストン式油圧キャリパーやメタルメッシュホースの採用は共通ながら、ABSはシンプルな2チャンネル制御式から、マルチマップコーナリングABSに進化。6軸慣性センサー他の車両情報を基にして、バイクの走行状況を把握し旋回中でもブレーキングできる安心感の高い制御が成されているのである。
φ41mmのKYB製フロントフォークは、プリロードと伸び側の減衰調節式から、伸び圧共に減衰調節が可能になっている。一方リアのザックス製モノショックも同様にフルアジャスタブル+リザーバータンク付きが奢られた。

強化されたホットなパフォーマンス

今回は時間の限られたプチ試乗。以前に試乗した標準モデル「トゥオーノ660」のインプレッションも交えてお届けします。
ファクトリーDARKカラーの試乗車は黒を基調とする中にスポット的に色鮮やかな赤があしらわれている。他のTOOFASTカラーも黒が基本。前後のキャストホイールも黒色仕上げ。標準トゥオーノに見られる赤やゴールドの明るい印象と比較すると、どこか内に秘めた凄味を漂わせてくれている様に感じられた。
跨がると少し腰高で両足の踵が浮く。もちろんこれは標準のトゥオーノと同様。ミドルクラスなりのボリューム感を覚えるが、足つき性やバイクの支えやすさは悪くない。車体全体はギュッと凝縮された塊感がある。一文字に近い少しアップしたバーハンドルのおかげで上体の前傾具合は辛くない。
ごく自然と前方視界も良いのでスーパースポーツとしてレーシーなキャラクターを誇るRS660の前傾姿勢とは異なり、トゥオーノは気軽に普段使いしやすく、その点が親しみやすいわけだ。
同クラスのライバルモデルとして、4気筒エンジンを搭載するホンダ・CB650Rとヤマハ・MT-07が思い浮かぶが、寸法比較するとトゥオーノはCB650Rより全長で125mm、ホイールベースでは80mmも短かい。同様なツインエンジンを搭載するヤマハ・MT-07との比較でも全長で90mm、ホイールベースでは30mm短く、トゥオーノ660のコンパクトな仕上がりからは、よりスポーティな印象が醸し出されている。

早速スタートすると、ハッキリとそのポテンシャルの高さを主張してくるエンジンパワーが実に元気良い。タタタッと逞しいトルクを発揮して力強いダッシュが決められる。さらにその吹き上がりで披露されるパンチの効いた出力特性はまさにRS660譲り。否むしろそれ以上に鋭いレスポンスが感じられるのである。
正直言って、諸元値に見られるパワーアップ分の差は感じられない。おそらく同時期に標準車とファクトリーを比較試乗すれば、あるいは高速域での伸び感に僅かな違いが感じられるかもしれないと予想できるが、いずれにせよそれは大差ない。
むしろ一般道で乗る限り、RS660よりも俊敏で元気良く走る活発な乗り味の方が印象的。このクラスのネイキッドスポーツとしては、一級のハイパフォーマンスを発揮できる実力の持ち主であることは間違いないだろう。

今回ファクトリーならではの優位性が感じられたのは、フットワークの良さにある。型式やホイールトラベルに変更はないが、綺麗な一般舗装路でもたまに遭遇する大きめな凹凸を通過した時、明らかに上質な衝撃吸収性を披露してくれた。
かなりしっかりした減衰力を伴う硬めのサスペンションながら、初期の作動特性に優れ、スッと遅滞なくスムーズに動き乗り心地が快適になっていた点が魅力的。ハンドル操舵も軽快かつ抑えが効くので、扱いやすく安心感も高かった。
直進安定性もしっかりしているが、鋭いブレーキをかけながらタイトなコーナーに突っ込んでいく様なシーンでも、先ずバイクを倒しやすい。その時ハンドルは若干の切れ込みを伴うが、ショートホイールベースも相まって、それら全ての バランスが旋回力を高めるように作用するグッドハンドリングに貢献。
10,000rpmも難なく回せるエキサイティングな走りを許容しつつ、自由自在に操れる楽しさと街中での快適性も併せ持つというキャラクターが印象深い。
コーナー脱出時にグイグイと前へ出られる逞しい駆動力特性も含め、峠道やサーキットでも不足のない高性能を発揮できる。まさにホットな走りが楽しめるミドルスポーツネイキッドなのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は標準モデルと同じ820mm。
両足着きでも片足着きでも踵は浮いた状態になる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…