1970〜80年代の国産旧車が主役、TOTってどんなレース?【テイスト・オブ・ツクバ モンスター/ZERO-1を知る】

世界には数多くのクラシックバイクレースが存在する。もっとも、1970~1980年代の日本車が200台以上集まるイベントは、世界で唯一、茨城県の筑波サーキットで開催されるTOT=テイスト・オブ・ツクバだけだろう。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

1970~1980年代に多感な青春時代を過ごしたライダー、あるいは、1970~1980年代の旧車に憧れているライダーにとって、茨城県の筑波サーキットで5月と11月に開催されるTOT=テイスト・オブ・ツクバは、最高に楽しめるイベントレースだ。何と言っても会場に足を運べば、誕生から30~50年前後が経過した旧車が、現役時代以上の勢いで疾走する雄姿がじっくり堪能できるのだから。

1990年代以降の車両にも門戸は開いているけれど、TOTのそもそもの主役は1980年代以前の旧車である。中でも最も人気が高いのは1970~1980年代前半の空冷並列4気筒車、カワサキZやホンダCB、スズキGS/GSXなどが熾烈な戦いを繰り広げるモンスターで、このクラスには毎回50~60台前後が参戦。そんなモンスターで興味深いのは、タイヤサイズは18インチ以上、リアサスはツインショック、フロントフォークのインナーチューブ径は39mm以下、ケーヒンFCR/ミクニTMRキャブレターは不可などという縛りが存在することで、これは創世記のAMAスーパーバイクを意識したレギュレーションだ。とはいえ、そういった規定が存在する状況でもレベルは年々向上し、20年ほど前は1分5~7秒あたりで推移していた上位陣のタイムは、昨今では1分2~4秒台が普通になっている。

TOTは“鉄フレーム車がメイン”というイメージが強いレースである。ただしレギュレーションの見直しや新クラスの追加によって、2000年代以降はアルミフレーム車が増加。中でも注目度が高いのは3種類の2ストGP500レプリカ、ヤマハRZV500R、スズキRG500/400Γ、ホンダNS400Rがしのぎを削るZERO-1だろう。と言っても、1980年代中盤のTT-F1を意識したZERO-1には、FZ750やGPz750Rといった4ストも参戦しているのだが、昨今ではめったに見る/聞くことができない2ストマルチの競演に、心を動かされる人は少なくないようだ。

2023年のTOTは、5月13/14日、11月4/5日に開催予定である。当記事を見てこのイベントに興味を持った方は、ぜひとも会場に足を運んでいただきたい。

空冷4発が熾烈な戦いを繰り広げるモンスター

モンスターで参戦台数が一番多いのは、1972~1983年に生産されたカワサキZ。その理由としては、生産期間の長さと生産台数の多さに加えて(シリーズ全体の公式な数字は不明だが、1980年までの累計は31万台以上と言われている)、耐久性の高さ、リプロ/チューニングパーツの豊富さなどがあるようだ。なおカワサキZは、1980年型以前の前期と1981年型以降の後期に分類でき、普通なら後期のほうが有利……な気がするけれど、カスタムが前提なら戦闘力はほぼ互角で、前期のほうが優位と言う人も多い。

道岡嵩裕選手+カワサキZ2
和田晴也選手+カワサキZ1000MkⅡ
伏見宜康選手+カワサキZ1000J

マニアの間で“エフ”と呼ばれている1979~1983年のCB750/900/1100FとCB1100Rは、ホンダにとっては第2世代の空冷並列4気筒車で、当時のプロダクションレースでは、世界各国でカワサキZやスズキGSと熾烈なバトルを展開。現代の視点で考えると、耐久性やパーツの豊富さではライバル勢にやや劣るようだが、1980年代に大ヒットしたしげの秀一先生のバイクマンガ、バリバリ伝説の影響もあって、現在も根強い人気を維持している。

相馬大介選手+ホンダCB750F
吉田 隼選手+ホンダCB750F
村上正浩選手+ホンダCB1100R

1976/1978年から発売が始まったGS750/1000は、スズキ製4スト並列4気筒車の第一世代で、その後継が1979年以降のGSX-E/GSX-Sカタナシリーズ。現役時代を振り返ると、2バルブのGSが数多くのレースで活躍したのに対して、4バルブのGSXはシリンダーヘッドのトラブルが多かったものの(ちなみに、カワサキZは全車2バルブで、ホンダCB-F/Rは4バルブ)、技術の進化で問題が解消されたのか、近年のTOTでは数多くのGSXシリーズが活躍中だ。

柏瀬元康選手+スズキGS1000S
佐藤忠臣選手+スズキGSX750E
田辺伊智朗選手+スズキGSX1100S

1982年以前に生産されたスチールフレーム+ツインショックの空冷4スト3~6気筒車なら、モンスタークラスはどんな車両でも参戦することが可能。もっとも最近では、カワサキZ、ホンダCB-F、スズキGS/GSX以外を見る機会は少なくなったのだけれど、あえて非主流派の車両で挑むこだわりのライダーも依然として存在する。

及川 繁選手+ホンダCB750Four
三澤永治選手+ヤマハXJ750E

貴重な2ストGP500レプリカが走るZERO-1

前述したように、ZERO-1には1980年代の2ストGP500レプリカ、ヤマハRZV500R、スズキRG500/400Γ、ホンダNS400Rが参戦している。そしてその3車で最も戦闘力が高いのは、市販レーサーRGB500に保安部品を付けただけ……と言うべき構成のRG400/500Γだろう。逆に言うならRZV500RとNS400Rは、細部を観察するとレーサーとの相違点が意外に多かったのだが、チューニング次第でRG-Γを凌駕する戦闘力を得ることは不可能ではない。事実、RZV500Rは過去に何度もこのクラスを制しているし、2022年春にはNS400Rが初優勝を飾っている。

石神辰巳選手+スズキRG500Γ
井谷 真選手+スズキRG500Γ
小川 亨選手+ホンダNS400R
横内英明選手+ヤマハRZV500R

ZERO-1で最も戦闘力が高い4ストは、ロードゴーイングレーサーとして開発されたFZR750R/OW-01のパーツが転用できるヤマハFZ750。とはいえ、カワサキGPz750RやGPX750Rなども侮りがたい実力を備えているし、不利を承知でホンダCBX750FやカワサキGPz750Fなどで参戦するライダーに、会場では声援を送る観客が少なくない。

栗原貞夫選手+ヤマハFZ750
井上玄悟選手+カワサキGPz750R
鈴木正彦選手+カワサキGPX750R
赤嶺 正弘選手+ホンダCBX750F

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…