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横断歩道を渡ろうとする歩行者がいるのに一時停止しないと……
違反名称:横断歩道等における歩行者等の優先違反 違反点数:2点 罰金・罰則:3か月以下の懲役または5万円以下 反則金:普通車9000円/二輪車7000円
警察庁によると、2016年~2020年の5年間で、車が歩行者をはねた死亡事故は5451件発生。このうち約2割は、歩行者が横断歩道を横断中に起きた事故となっている。
道路交通法第三章第六節の二に規定されている第38条では、横断歩行者などの保護のための通行方法を定義。
もしも横断歩道を渡ろうとする歩行者がいた場合、ドライバーは横断歩道の直前で自動車やバイクを一時停止させ、その通行を妨げないようにすることが義務付けられている。
備考:道路交通法第三章第六節の二 第38条
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。 2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。 3 車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。(横断歩道のない交差点における歩行者の優先) 第三十八条の二 車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。 (横断の方法) 第十二条 歩行者は、道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道によつて道路を横断しなければならない。 2 歩行者は、交差点において道路標識等により斜めに道路を横断することができることとされている場合を除き、斜めに道路を横断してはならない。 (横断の禁止の場所) 第十三条 歩行者は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道によつて道路を横断するとき、又は信号機の表示する信号若しくは警察官等の手信号等に従つて道路を横断するときは、この限りでない。 2 歩行者は、道路標識等によりその横断が禁止されている道路の部分においては、道路を横断してはならない。
日本は交通ルールでも「グローバル・スタンダード(世界基準)」に未達?
“横断歩道等における歩行者等の優先違反”で検挙された運転者の中には、「歩行者が立っているだけで、渡るとは思わなかった」と訴える人も多いという。
日本では“歩行者優先”を謳いながらも、信号のない横断歩道では、いまだに自動車優先の風潮がある。
車両や人の往来が多い駅前などは例外として(駅前でもごくまれに横断歩道を渡る歩行者に向かってクラクションを鳴らす輩もいるが)、スピードが乗りやすく、見通しの良い市街地や郊外の直線道路などでは、自動車が行き過ぎてから歩行者が横断する、なんて光景は当たり前。
「歩行者は自動車やバイクが通り過ぎてから渡れ」と言わんばかりの、法律を無視した“ドライバーやライダー優先主義”が横行している。
筆者は2015年、取材でアメリカのカリフォルニアを訪問。現地でレンタカーを運転中、少し急いでいたこともあり、「たった一人なんだから、まあいいだろう」という軽い気持ちで信号のない横断歩道で待つ一人の老人の横をスルーした。
すると助手席に同乗していた通訳兼コーディネイターの白人男性が、「なぜ止まらなかったんですか? 非常識な行為です」と怒気を含んだ口調で筆者に意見した。
横断歩道は歩行者優先だが、なぜ日本は“ドライバーやライダー優先”の風潮が横行するのか?
筆者は日本での状況を説明した後、豪に入れば郷に従えの精神で詫びたところ、彼は「ジャパンは先進国だが、残念ながらグローバル・スタンダードではない」と呆れた表情で首を左右に振っていた(全般的にアメリカ人は日本人と違って遠慮なくはっきりと意見する人が多く、毅然とした態度をとる印象が強い。これは筆者の感想)。
当時の筆者を含め、日本ではまだまだ信号のない横断歩道で待つ歩行者をスルーするドライバーやライダーが多い。
これは「交通の流れを止めてはいけない」「後続車の時間を奪ってはいけない」「歩いている人よりも、スピーディな車両を運転している俺の方が忙しい。他のドライバーやライダーも同じ考えのはず」という変な気遣いというか、奇妙な仲間意識というか。
もしくは忖度というか、誤った協調性(同調圧力ともいう)というか……。この“面倒くささ”は、日本人独特の“他人に迷惑をかけてはいけない”という感情が裏目に出た結果、歪んだかたちでドライバーやライダー優先という風潮を生み出しているかも。
また筆者を含め、50代以上の年齢層(ひょっとしたらそれ以下も)は自動車教習所の講習で、「信号のない横断歩道での歩行者優先」という項目をあまりフィーチャーされず、その結果「小学生の登下校時や通学路は注意するべし」程度の意識でいる者が多いのではないか?
先述の検挙された運転者の「歩行者が立っているだけで、渡るとは思わなかった」という“言い訳”は、歩行者優先の意識の希薄さを明確に表しているように思う。
歩行者優先の意識を大幅に向上させた「栃木県」の取り組み
2018年、栃木県は「信号機がない横断歩道で車が歩行者を優先して一時停止する割合」が、全国でワースト1(JAF調べ)。それを受けて栃木県警は『日本一止まってくれる栃木県』を目指し、取り締まりだけでなく、ユニークな広報活動を遂行してきた。
栃木県警は2018年以降、官民を挙げて「止まってくれない栃木県からの脱却キャンペーン」を展開。サンリオキャラクターを採用したPRに取り組んだほか、横断歩行者妨害による道交法違反での摘発も強化してきた。
2022年には横断歩道での歩行者優先を訴えるテレビCMの第4弾を制作し、映画館の作品上映前にも放映(下記参照)。2018年の停止率0.9%(全国最下位)から、2019年は13.2%(全国29位)、2020年は14.2%(全国36位)、2021年は31.0%(全国22位)、2022年は44.9%(全国22位)まで向上させた。
県警交通企画課は伸び率の大きさを前向きに受け止める一方、「まだ半分が止まっていない。横断歩道手前のダイヤマークを見たら安全確認を徹底してほしい」と呼びかけている。
2022年に全国で最も停止率が高かったのは長野県で82・9%。長野県はJAFが都道府県ごとの数値を公表し始めた2018年から5年連続の1位。調査方法は2022年8月10~31日、各都道府県の2ヶ所所、計94カ所の横断歩道でJAF職員がそれぞれ50回に渡り、車が一時停止するかどうかをリサーチした。
まとめ
警察庁は2021年4月、道交法に基づく「交通の方法に関する教則」を改定。横断歩行者のマナーについて、「車が通り過ぎるまで待つ」としていた従来の表記を、「手を上げるなどして運転者に横断する意思を明確に伝える」に改めた。
最近は小学生や中学生だけでなく、大人も信号のない横断歩道前で手を挙げる姿を見るようになった。一般の歩行者にも、運転者に横断する意思を明確に伝える行為は広まりつつある。
信号の有無に関わらず、横断歩道では歩行者が優先。あおり運転も頻発する昨今だか、運転時は心に余裕を持って、誰にも優しく、模範となるようなライティングを心掛けたいものだ。