スズキ・Vストローム800DEのイイトコロ|ミドルクラスながら、その存在感は大きく立派。しかもエンジンがイイ!

昨年11月に開催されたEICMA 2022で初公開された新型V-STROM(ブイストローム)800 DEは、360台の年間販売目標を掲げ3月24日に国内発売された。従来のVストローム650 XTと同1050 DE(新型)の間に追加された形だが、今回は並列ツインエンジンを新開発しての投入に驚かされる。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 スズキ

スズキ・Vストローム800DE…….1,320,000円(消費税10%を含む)

チャンピオンイエローNo.2(YU1)
グラスマットメカニカルグレー(QT7)
グラススパークルブラック(YVB)

幅広いユーザーをターゲットに開発されたVストローム800 DEは、毎日の移動からツーリングまでの利便性を両立した新機種。ちなみにDEとはデュアル・エクスプローラーから由来したネーミングだそう。

そのスタイリングからわかる通り、アドベンチャーツアラーに属すが、ストリートネイキッドスポーツのGSX-8Sと同時開発されている点も興味深い。この点は、既報のホンダ・XL750トランザルプがCB750ホーネットと同時開発されたことや、前モデルに対して排気量が約150ccアップされたこと、そして270度位相クランクを採用した直(並)列2気筒エンジンをスチール製ダイヤモンドフレームに搭載していることなど、共通項が多く見出せる。
余談ながらCB750ホーネットは輸出専用車で、今のところ国内発売の予定はないが、GSX-8Sは年間260台の販売目標でVストローム800 DEと共に同時発売された。

さて今回の800 DEは、スズキのバリエーションへ新規に追加投入されたモデル。Vストローム650と同XTは現在も発売されており今回の800 DE は650XTの兄貴分的存在。同シリーズは、250から1050まで全6機種を揃える充実ぶりである。キャラクターの違いについて簡単に触れておくと、XT及びDEはよりオフロード色が強められているのが特徴。前後輪にはアルミリム+スポークホイールを採用。さらにDEではフロントに21インチの大径ホイールとチューブタイプのタイヤ(ダンロップ製TRAILMAX MIXTOUR)が組み合わされた。
フロントフォークも特別装備が奢られた印象が強く、DEにはゴールドの倒立式を採用。220mmのストロークを稼ぎだすリーディングアクスルタイプで、フォークトップの突き出し部分には伸び側の減衰調節を、ボトムエンドには圧側の減衰調節が、左右そぞれぞれに装備されている。
アルミスイングアームにボトムリンク機構付きモノショックを採用したリアサスペンションには、車体右側のリモコンダイアルでプリロード調節ができる他、ショック・ボトム部の左側で伸び側の減衰調節ができる。ちなみにリアは212mmのホイールトラベルを誇っている。
その他20L大容量の燃料タンクを備え、ナックルカバーや樹脂製アンダーカバーも標準装備。コンパクトなウインドスクリーンは3段階に高さ調節できる仕組み。
またアクセサリー用品には、標準比で20mm差のローシートや30mm差のハイシートが用意され、トップケースやサイドケースセットにはアルミ製と樹脂製が用意されるなど、ツアラーに相応しい豊富で充実した品揃えも見逃せないところである。

 
注目の新開発エンジンは、左サイドカムチェーン方式の水冷DOHC。気筒当たり4バルブの直(並)列ツイン。バルブ駆動メカはロッカーアームを持たない直打方式が採用され、当然吸排それぞれのカムシャフトには4個ずつ合計8個のカムプロフィールが並んでいる。
クランクは今や常識的となっている270度位相タイプが採用されている。今回は量産二輪車で初採用となる、「スズキクロスバランサー」の装備が新しい。
写真にある通り、クランク軸に対して90度配列となる、前方と下方に位置する2軸の1次バランサーシャフトを備えることで、両ピストンの1次振動と、偶力振動も抑制すると言う。つまり振動の少ないスムーズな回転特性が徹底追求されているのである。
燃焼や点火制御は最新のSIRS(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)を搭載。路面状況や乗車時の荷重などに応じて最適な設定を可能としている。
燃料噴射を制御するスロットルは電子制御式。またSDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)を備え、ライダーの好みや使用状況に合わせて3モードの中から選択可能。さらにSTCS(スズキ・トラクション・コントロール・システム)とも協調制御される。
オフロードライディングも考慮され、G(グラベル)モードを選択することで、システムの介入を少なくすることもできる。
同様にABS(アンチロック・ブレーキ・システム)も制御介入レベルは2モードから選択可能、さらにダート走行用に後輪のみABSを任意にOFFすることもできる。
エンジンの始動性に関しては、セルスターターボタンをワンプッシュするだけの簡単操作でOKのスズキイージースタートシステムを装備。
また発進時にはエンジン回転を微妙に高めてくれるローRPMアシストも備えている。そして6速ミッションのシフトワークを助けてくれるクイックシフトシステムは、アップ/ダウンともにカバーする双方向タイプが標準装備されたのである。


直打式DOHC8バルブの水冷2気筒エンジン。
スズキクロスバランサーと呼ばれる2軸の1次バランサー機構を備えている。クランクは270度位相式。

パラレルの新開発エンジンを搭載。

試乗車を目の当たりにすると、先ずは1Lクラスに見間違うばかりの大きく立派なフォルムが印象深い。クチバシの様なノーズから連続する燃料タンクは20Lの容量が確保されている。
650から1050までその容量は共通ながら、ホンダ・CRF1100アフリカツインのアドベンチャースポーツ(24L)を除くと、どのライバル車よりも大きな容量が確保されており、ツアラーとしての高機能(航続距離に対する余裕)に安心感を覚える。
それにしてもミドルクラスのバイクとしては大きく重い印象がぬぐえない。実際その全長は同1050より80mm長く、1050DEに45mm差まで迫っている。
ロードクリアランスは同シリーズ中一番大きな220mm。シート高も1050より5mm高い855mm。そして何よりも全幅がどれよりもワイドな975mmもあるのだから、大柄に見えるのは無理もない話なのである。
しかも車両重量は230kg。650に対して15kg増し。1050によりは12kg、1050DEよりは22kg軽いものの、例えばホンダのトランザルプよりは22kg、ヤマハのテネレより25kg重く、ホンダのアフリカツインとほぼ同レベルにあるのだ。
足着き性については写真を参照して欲しいが、普段使いのバイク、あるいは路面状況が怪しい林道へ分け入るようなケースでは、少々勇気がいる感じだった。
もちろんフロントに21インチホイールを履き、前後共に200mmを超えるサスペンション・ストロークを稼ぎだす足の長さが確保されたポテンシャルの高さは魅力的ながら、大きく重いバイクをダートで振り回そう(自在に振り回せる)とは思えなかったのが正直な第一印象である。
 
しかしツアラーとして見たとき、そんな大きさや重さは俄然プラスに作用してくれた点は好印象。高速道路を含め右へ左へコーナーが連続する峠道でも先ずは快適な直進安定性が楽しめる。車線変更、あるいはコーナーの旋回時でも車体の反応には常にゆったりとした落ち着きがあり、穏やかな挙動に終始する。しかも操舵フィーリングはとても軽快。
ワイドハンドル故、大きく操舵する時は、ライダーの肩も同様に大きなアクションを強いられるが、扱いう感覚はとても優しい。操舵角も40度あり、大きなバイクの割に小回りUターンも楽に決められ、意外なほどの親しみやすさを覚えたのが好印象。
エンジンのパンチ力はそれほど強烈ではないが低回転域から十分に良く粘る高トルクが発揮されており、回転のスムーズさと相まって、発進直後から高速域までとても扱いやすく頼り甲斐がある。エンジンが車体にリジッドマウントされている剛性感も確かで前後サスペンションの作動性も優秀。荒れた路面でも衝撃をソフトにいなしてくれるフットワークも良い。
未舗装の林道を行く時も乗り心地の良さはなかなかのハイレベルを披露してくれた。今回試す機会は無かったが、ある程度腕のたつライダーがダートを疾走(スポーツライディング)するような走りをする上でも、期待に応えてくれるだけのポテンシャルは十分にあるだろう。

ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは42km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,200rpmほど。650と比較すると高めのギヤリングにも関わらず、余裕のある走りを披露してくれるポテンシャルの高さは十分に強力。ミドルクラスとしての程良さが感じられる。
クイックシフターの操作フィーリングもなかなか小気味よいし、タンデムライディングなどで使い分けたいモード切り替えの存在もありがたい。ABSも2モード切り替えできる上、リアの制御をカットできる点も見逃せないポイントだ。
高速ロングクルージングでも、不快な振動が感じられないスムーズさと、小さいながら十分なウインドプロテクション効果を発揮するスクリーンの機能性も優秀。大きく立派な乗り味は、ツアラーとしての機能に侮れない魅力があると感じられたのである。

SDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)は3種の走行モードから選択できる。Aはアクティブ、Bはベーシック、Cはコンフォート。それぞれスロットル操作に対するレスポンスが変えられる。
STCS(スズキ・ラクション・コントロール・システム)はリアタイヤのスピンに応じてエンジンパワーを抑え滑りを制御してくれる。制御の介入具合は3種+グラベル、さらに任意OFFも可能となっている。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は855mm。ご覧の通り、筆者にとってはギリギリのレベル。両爪先が接地しているが、しっかりと踏ん張ることは叶わず、停止時にバイクを支えるのに、かなり気をつかう。舗装路の平地なら問題なく扱えるものの、足場の悪い場所や凸凹のダートへ行くには勇気がいる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…