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BMW・M 1000 R……2,652,000円〜(消費税込み)
低回転からトルクのあるエンジン特性がストリートでの扱いやすさを実現
ネイキッドモデルといっても最近は、コンセプトのちがいから方向性の異なるさまざまなモデルが存在しています。そうした中、国内外の多くのメーカーから登場しているのが、いわゆるストリートファイター系のハイパフォーマンスネイキッドです。BMW M1000Rもまさしくストリートファイター系に分類されるモデルだと思います。
アッパーカウルのないスーパースポーツというのがM1000Rに対してのボクの第一印象です。事実、BMWモトラッドの最上級スーパーバイクであるM1000RRとほぼ共通のコンポーネンツで形成されています。ただアッパーカウルが装備されていないだけといった つくりをしているのです。しかもセンターカウルともいえるシュラウドには、走行時のダウンフォースを高めるウイングレットまで装着しています。今回試乗したのはMコンペティションパッケージというモデルだったのですが、カーボンパーツを随所に装備し、手作り感のあるアルミパーツも使われた外観は、レーシングマシンといっても十分に通用するほどでした。もちろん性能面でもハイスペックを実現しています。いずれにしても、街中で乗るには手ごわそうだという威圧感がありました。
足つき性(ライダー身長178cm)
210psを叩き出すハイパーロードスターに戦々恐々としながら乗車しました。フラットなハンドルに手を添えると上体はやや前傾になります。ストリートファイター系のバイクでは定番のハンドルポジションです。日本製ネイキッドスポーツバイクでは以前はあまり採用されなかったフラットハンドルですが、最近の走りを意識したネイキッドではよく見かけるようになりました。なので、M1000Rのポジションに違和感はありません。逆に、ステップ位置が前方寄りにあって足元にゆとりを感じたことが意外でした。個人的な嗜好で好き嫌いは分かれると思いますが、僕は後ろすぎない位置にステップがあるほうが好みです。
シートは前後に段差を設けたレーシーなデザイン。表皮には「M」のロゴがあしらわれていて、スペシャルなモデルであることをアピールしています。ユーザーにとってもうれしいでしょう。シート高は830㎜で、平均的な体格の日本人ライダーなら両足のつま先がちゃんと着けられます。それだけじゃありません。M1000Rの車重はなんと200㎏に収められているのです。これは600㏄クラスと同程度なので、取り回しの良さはリッターマシンとは思えません。これなら市街地をはじめとしたストリートユースに十分に使用することができます。
始動すると、暖機のためにしばらくの間高めのエンジン回転を維持します。高いといっても2000回転程度なのですが、アクラポビッチ製マフラーから排出されるサウンドは大きめで、早朝の住宅地では気が引けます。早々に通りまで出る必要がありそうです。しかしアイドリングが落ち着くと排気音量も低下してくれます。
ライディングモードをロードの位置にしてスタートします。210psを発生する高回転高出力型の並列4気筒エンジンながら、低回転でのクラッチミートにも不足のないトルクを発生し、そこから常識的なアクセル操作をすればスムーズに加速してくれます。一般道ではせいぜい3000rpmも回していれば事足りてしまうので、M1000Rの高出力エンジンにとってははなはだ役不足ですが、ポテンシャルを体現するためにはサーキットに持ち込むしかないので仕方ありません。それよりも、これほどの高性能エンジンでありながら、低速から普通に使えてしまうフレキシビリティなエンジン特性を実現しているところに、BMWの高い技術力を見る思いでした。そうした技術の中にはもちろん、電子制御も含まれているのですが、随所に導入されている電子デバイスがライダーの操作、走りを堪能させる安定した走行性をサポートしてくれています。ちなみにライディングモードに関しては、レイン、ロード、ダイナミック、レース、レースプロが選択でき、これによってトラクションコントロール、ウィリーコントロール、スロットルレスポンス、コーナリングABS、エンジンブレーキコントロール、ブレーキスライドアシスト、サスペンションダンピングなどが最適な状態に設定されます。 全体にスピードが低く、信号によるゴー&ストップが多い都心部の道路も、高性能なこのハイパーロードスターはイライラを募らせることなく走ってくれました。この事実に僕は感心しました。
予想外にエンジンが扱いやすかったことに気を良くしたが、エンジン同様に素直で追従性に優れたハンドリングを見せてくれました。リッターマシンでありながらミドルクラス並みの軽さを実現した車体は、走らせていてコンパクトに感じるほどで、交差点を曲がる、カーブをコーナリングするといった動作が非常に軽快なのが印象的です。前後タイヤの接地感もしっかりと伝わってくるので、コーナリングラインの修正やコントロールもしやすく、年甲斐もなく攻めたくなってしまう衝動にかられました。今回は市街地だけでの試乗だったのですが、ワインディングにも持ち込んで走ってみたいと思いました。高い安定性を保ちつつ軽快に身を翻してくれる、そんな運動性はスーパースポーツに匹敵するパフォーマンスを発揮してくれるはずです。ダウンフォースを高めるウイングレットの効果については、市街地走行では実感することができませんでした。
フロントにニッシン製、リアにブレンボ製のディスクブレーキを装備していますが、とにかく制動力が高く、コントロール性が良かったのも印象的です。タイヤのグリップ性の良さももちろんありますが、パッドがローターに接した瞬間から制動が始まっているんじゃないだろうかというくらい、指1本でのレバー操作でもググっとブレーキが効いてきます。周囲の交通状況から安全を確認したうえでわざと力強くレバーを握ったりペダルを踏み込んだりしてみたのですが、ABSが作動してもちろんタイヤがロックすることはなく、しかもABSの作動フィーリングがナチュラルでした。
前傾ポジションとなるものの、ネイキッドモデルらしく普段使いにも柔軟に対応し、状況に応じてスポーティな走りも堪能できる。これにツーリング装備を加えればマルチパーパスロードスポーツとしての魅力も出てくるんじゃないかと思いました。
ディテール解説
主要諸元
●エンジン タイプ油冷/水冷4気筒4 ストローク並列エンジン、1気筒あたり4バルブ ボア×ストローク80 mm x 49.7 mm 排気量999 cc 最高出力154 kW (210 PS) / 13,750 rpm 最大トルク113 Nm / 11,000 rpm 圧縮比13.3 : 1 点火 / 噴射制御電子制御インジェクション、可変インテークマニホールド長 エミッション制御制御式3元触媒コンバーター 排ガス基準EURO 5 ●走行性能・燃費 最高速度200 km/h 以上 (280 km/h) WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時)15.62km/L WMTCに準拠したCO2排出量149 g/km 燃料種類無鉛プレミアムガソリン(ハイオク) ( 最大5%エタノール、E5) 98 ROZ/RON 93 AKI ●電装関係 オルタネーター450 W バッテリー12 V / 5 Ah、リチウムイオン、メンテナンスフリー ●パワートランスミッション クラッチ湿式多板クラッチ(アンチホッピング)、自己倍力機能付き ミッション常時噛み合い式6 速トランスミッションをエンジンブロックに内蔵 駆動方式チェーンドライブ トラクションコントロールBMW Motorrad DTC ●車体・ブレーキ フレームアルミニウム製ブリッジタイプフレーム、エンジンをフレームの一部として使用 フロントサスペンション倒立式テレスコピックフォーク(45 mm 径)、電子制御式ダイナミックダンピングコントロール(DDC)、調整式スプリングプリロード、ダンピング範囲を電子式に個別設定可能 リアサスペンションアルミニウム製ダブルスイングアーム、コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、手動調整式スプリングプリロード、電動調整式リバウンド/コンプレッションダンピング サスペンションストローク(フロント / リア)120 mm / 117 mm 軸距1,455 mm キャスター97.6 mm ステアリングヘッド角度65.8° ホイールアルミニウム鍛造ホイール (M カーボンホイール OE 装備:カーボンホイール) リム(フロント)3.50" x 17" リム(リア)6.0" x 17" タイヤ(フロント)120/70 ZR 17 タイヤ(リア)200/55 ZR 17 ブレーキ(フロント)ダブルディスクブレーキ、直径320 mm、4 ピストンブレーキキャリパー ブレーキ(リア)シングルディスクブレーキ、直径220 mm、1 ピストンフローティングキャリパー ABSBMW Motorrad ABS Pro ●寸法、重量 シート高、空車時830 mm (M スポーツローシートOE 装備:810 mm、M スポーツハイシートOE 装備:850 mm) インナーレッグ曲線、空車時1,835 mm (M スポーツローシートOE 装備:1,815 mm、M スポーツハイシートOE 装備:1,858 mm) 燃料タンク容量16.5 L リザーブ容量約4L 全長2,085 mm 全高1,110 mm 全幅850 mm 車両重量(ドイツ工業規格DIN)199 kg 1) 車両重量(日本国内国土交通省届出値)200 kg 2) 許容総重量407 kg 最大積載荷重(標準装備の場合)210 kg 1) ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備 2) 日本国内国土交通省届出値、燃料100%時