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YZF-R15とYZF-R25のプロフィール
YZF-R15は、元々、欧州やインド、アセアンを中心に人気を誇る海外向けのロングセラーモデルだ。今回の新型は、それをベースに日本向けに開発された仕様で、主にバイク免許を取得したばかりの若い層のなかでも、スポーツライディングの醍醐味を思う存分味わいたいライダー向けにリリースされた。
ヤマハのYZF-Rといえば、前述した1000ccのフラッグシップモデルであるYZF-R1を頂点に、700ccの「YZF-R7」、320ccの「YZF-R3」、250ccの「YZF-R25」といった豊富なラインアップを誇るシリーズ。YZF-R15は、それらのDNAを継承したスタイルや装備を持つ軽量・コンパクトな155ccモデルだ。
ちなみに、今回ヤマハでは、YZF-R15と同時に、125ccの新型「YZF-R125」も発売。車体や装備などを共通とする原付二種モデルで、こちらも若い層をターゲットとしたヤマハの新戦略モデルだといえる。
一方のYZF-R25は、初代モデルが2014年に登場。同年7月にインドネシア市場へ投入、国内では同じ年の12月に発売された250ccモデルだ。「毎日乗れるスーパーバイク」をコンセプトに開発され、高次元な走行性能とスタイリング、さらに日常での扱いやすさも兼ね備えていることが特徴だ。
2018年のマイナーチェンジでは、ヤマハのMotoGPマシン「YZR-M1」風の外装や、倒立フロントフォークなどを採用。車体などを共用する兄弟車のYZF-R3と共に、ロングセラーの軽二輪モデルとして根強い人気を誇っている。
車体サイズや装備の違いは?
そんなYZF-R15とYZF-R25だが、まずは、車体サイズや外観、装備などを比較してみよう。
●YZF-R15
・全長1990mm×全幅725mm×全高1135mm、ホイールベース1325mm ・シート高815mm ・車両重量141kg
●YZF-R25
・全長2090mm×全幅730mm×全高1140mm、ホイールベース1380mm ・シート高780mm ・車両重量169kg
こうしてスペックを比較してみると、全体的にYZF-R25の方がやや大柄なのが分かる。車両重量でもYZF-R15の方が軽いため、細い路地でのUターンや、駐車場での取り回しなどをやる場合、YZF-R25より扱いやすそうなイメージだ。
ただし、シート高は、意外にもYZF-R15の方が高い。だが、筆者は実際に、両モデルに乗ったことがあるが、カタログ上の数値では35mmの差があるものの、YZF-R15はまたがってみると、リヤサスペンションが適度に沈むことで、それほどYZF-R25より足着き性が悪いイメージはなかった。筆者の体格は身長165cm、体重59kgだが、両モデルともに、足着き性や取り回しは良好で、初心者でも扱いやすいバイクだといえる。
外観デザインは、両モデルともに、フロントフェイスが特徴的だ。いずれも、フロントカウル中央に、YZF-R1の特徴ともいえるM字ダクトを採用している。ただし、ヘッドライトの形式は異なる。両モデルともにLEDタイプを装備している点は同じだが、YZF-R15は、M字ダクト内に、ひとつのLEDでハイ/ローを切り替えられるバイ・ファンクションタイプのヘッドランプを採用。左右2眼タイプのYZF-R25と比べ、より最新の装備を搭載する。
また、YZF-R15はテールカウルのデザインもより最新だ。現行モデルのYZF-R1やYZF-R7に採用されている立体的なデザインを踏襲しており、次世代YZF-Rシリーズのフォルムを投入しているといえる。
ほかにも、肉抜き加工が施されたハンドルクラウンや、マルチファンクションLCDメーターなどを採用する点も、両モデル共通。YZF-R15は、排気量こそ小さいものの、より新型であることもあり、YZF-R25と同等か、それ以上の充実した装備を持つことも注目点だ。
エンジン・足まわりの比較
次に、エンジンの型式や性能などを比較してみよう。
●YZF-R15
・エンジン:155cc・水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒 ・最高出力:14kW(19PS)/10000rpm ・最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/7500rpm ・ミッション:6速 ・燃料タンク容量:11L ・燃費:WMTCモード値50.2km/L
●YZF-R25
・エンジン:249cc・水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒 ・最高出力:26kW(35PS)/12000rpm ・最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/10000rpm ・ミッション:6速 ・燃料タンク容量:14L ・燃費:WMTCモード値25.8km/L
排気量が大きい分、はやりパワーはYZF-R25の方が圧倒的に上だ。高速道路を使ったロングツーリングなどでは、より余裕の走りが楽しめるだろう。
ただし、燃費では、YZF-R15はかなりいいといえる。YZF-R25の方が燃料タンク容量はやや多いのだが、1回の満タンで航続距離できる距離はYZF-R15の方が長くなる可能性もある。ちなみに、カタログ数値上でみた1回の満タンで走れる航続距離は、いずれもWMTCモード値でYZF-R15が552.2km、YZF-R25は361.2kmとなる。このあたりは、2モデルを同条件で走らせてみないと分からないが、YZF-R15は、かなりツーリングにも向いていそうなことがうかがえる。
また、YZF-R15は、YZF-R25と同様にクイックシフターをアクセサリー設定している。クラッチレバーやアクセルの操作なしで、シフトアップが可能なことで、市街地から高速道路、ワインディングなど、幅広いシーンでライダーの疲労軽減に貢献する。
さらに、YZF-R15には、滑りやすい路面でも安定した走りをもたらす「トラクションコントロールシステム」や、クラッチの操作感を軽くし、急激なシフトダウン時に後輪のホッピングなどを防ぐ「アシスト&スリッパークラッチ」も装備する。これらはYZF-R25に設定がなく、より新型だけに、装備面ではYZF-R15の方がやや上回るといえるだろう。
乗り比べた印象は?
各モデルのエンジンは、YZF-R15が単気筒、YZF-R25は2気筒を採用するが、いずれも、高回転まで一気に吹け上がるスポーツバイクらしい味付けだ。前述の通り、筆者は両モデル共に試乗したことがあるが、特に、より小排気量のYZF-R15では、意外にも低中回転域でも、ある程度のトルク感を味わえることが驚きだった。
この点は、YZF-R15のエンジンに「VVA」という可変バルブ機構が採用されていることが大きいだろう。VVAは、エンジン内で燃焼する混合気を採り入れる吸気側バルブを動かすカムに低速向けと中高速向けを装備し、7000〜7400rpmの回転数で切り替えるといったシステムだ。
これにより、低回転域と中高回転域のそれぞれで最適なトルク特性が発生。ゆっくり走りたいときや、ちょっとハイペースで走りたいときなど、ライダーの気分や状況などに応じて、様々な走り方を楽しめるという。
もちろん、どんな回転域でも、よりパワフルなのは排気量が大きいYZF-R25だが、スムーズな吹け上がりを感じられるという点では、どちらも同じ。いずれも、スポーティで爽快な走りを楽しめるといえる。
足まわりの比較では、インナーチューブ径37mmの倒立フロントフォーク、140/70-17のワイドなリヤタイヤなど、ほぼ同等の装備を誇る。いずれも、タイトなコーナーから高速コーナーまで、ナチュラルなハンドリングを楽しめるし、S字コーナーなどの切り返しでの軽快感も抜群だ。
また、減速時も、前後ブレーキがとてもコントローラブル。特にフロントは、レバーの入力に対しリニアに制動力が発揮され、「止まれない」なんて冷や汗をかくようなシーンは皆無。逆に、思ったより効き過ぎるようなこともないため、前輪がロックして転倒する、いわゆる「握りゴケ」などの心配も無用だ。
ただし、アシスト&スリッパークラッチを装備するYZF-R15の方が、初心者などにはより安心感が高いかもしれない。減速でシフトダウンをする時などに、過度なエンジンブレーキがかかりにくくなるためだ。
たとえば、直線を4速で走っていて、タイトなコーナーの手前で一気に1速までギアを落とすようなシーン。こんな時、もしシフトダウン後にパッとクラッチレバーを離しても、後輪が横滑りしたり、浮き上がるようなことが起きにくい。その意味で、幅広いスキルのライダーにとって、より安心感が高いのはYZF-R15の方かもしれない。
155ccのYZF-R15を設定した理由とは?
最後に、価格(税込)の比較だが、YZF-R15の55万円に対し、YZF-R25は69万800円。YZF-R15の方が14万800円安い設定だ。
これほどの価格差があれば、バイク購入費用があまりない若いライダーなどにとっては、YZF-R15の方がより手が届きやすいといえる。また、バイクに乗り慣れていない初心者には、より車体が軽くてコンパクトなYZF-R15の方が、特に、市街地やワインディングなどで扱いやすいことが予想できる。
実際に、ヤマハは、YZF-R15や兄弟車のYZF-R125を設定した理由について、「近年、250ccバイクの本体価格が高騰している」ことを挙げている。原材料費なども上がっているため、このあたりは仕方がない面もある。だが、少し前であれば、エントリーバイクであったはずの250ccクラスのバイクが、ヤマハ以外の国産メーカーのモデルを見ても、60万円以上、へたすれば100万円近い機種もざらとなっている。
そこで、投入されたのが、YZF-R15やYZF-R125だ。また、ヤマハでは、ほかにも、125ccの原付二種クラスに、ストリートファイターの「MT-125」や、ネオレトロモデルの「XSR125」も投入し、いずれも40万円後半〜50万円中盤の価格帯に設定している。
バイクに乗り始める際には、本体価格のほかに、ヘルメットやウェア、グローブなど、ほかの装備も必要だ。ヤマハでは、よりリーズナブルな価格帯のモデルを出すことで、若いライダーが、そうした周辺装備にもお金を使えるようにしたのだという。
そう考えると、YZF-R15は、リーズナブルな価格と扱いやすさを持つことで、より初心者向けのエントリーモデル的な位置付けだといえよう。
また、例えば、リターンライダーにも最適ではないだろうか。長年バイクに触れていなかったが、再びバイクに乗りはじめるようなライダーが、まず復帰の1台目として選ぶバイク。YZF-R15は、価格が比較的安いことで手が出しやすいし、扱いやすい乗り味はバイクに乗る感覚を思い出す手助けとなるだろう。また、ひとクラス上の充実した装備により、安全・安心に走ることができるはずだ。
一方のYZF-R25は、初心者はもちろん、リターンライダーからベテランまで、より幅広いライダーに対応する懐の深いモデルといった感じだろう。こちらも、扱いやすさは抜群だし、なんといっても、YZF-R15より走りのグレードや快適性は上だ。
ともあれ、両モデルのどちらを選ぶにしても、多くのライダーにとって、バイクライフがより豊かになる選択肢のひとつであることは間違いない。