国産ビッグスクーターより車体は小ぶり。やっぱり300ccの走りは強烈だ! レーシングベスパの血統を受け継ぐGTV300

スチールモノコックボディや片持ちリンクアームフロントサスペンションなど独自のシステムを構築したベスパは、スクーターのトップブランドとしてその名を広めています。スクーターというとコミューター的な乗り物との認識がありますが、ベスパはかつてパリ=ダカールラリーに参戦するなどレース活動にも積極的でした。そんなレーシングベスパの流れを汲むモデルがGTV300です。スポーティなカラーデザインが目を引くGTV300で、都市部の道を駆けてみました。

PHOTO:徳永 茂
協力:ピアジオグループジャパン https://www.piaggio.co.jp/

VESPA・GTV300……913,000円

300ccHPEエンジンがパワフルな走りを実現

操作が簡単で便利な移動手段。これがスクーターの最大の特徴だと認識しています。なのでスクーターにスポーツ性を求めるのはいかがなものか、と思っていました。しかし、国内外のさまざまなスポーツスクーターを乗るうちに「こういうジャンルもありかも」と考えを改めるようになりました。ベスパのスポーツスクーターであるGTV300もそうしたジャンルに属すモデルです。
ただし、多くのスポーツスクーターが先鋭的なスタイリングとしているのに対し、GTV300はベスパならではのクラシカルなデザインを堅持していて、そうした独自性に魅力を感じるライダーは多いんじゃないでしょうか。さらに、フロントフェンダー上に設置されたローヘッドライトやパイプハンドルなどの装備もユニークです。
スポーツモデルというとカラーデザインも派手なものが多いのですが、GTV300はベージュとグレーの2タイプが設定。カラーだけでいえば地味な部類です。しかしながらオレンジ色のストライプをあしらい、シングルシーター風のシートやフロントカウルの装備でレーシングベスパを彷彿させるものとしています。上質感があってさりげなくスポーティさをアピールしている点が、なんとも憎らしい演出だと感じます。
日本国内では小型二輪となるGTV300ですが、そのカテゴリーで見るとボディは小ぶりのほうだと思いました。事実、GTS150とほぼ同じボディサイズとなっています。ちなみに試乗したモデルにはアクセサリーパーツのオレンジフライスクリーンとサドルカバーが装備されていました。
シングルシーターに仕立てられたボディに乗車すると、両足のつま先が着く程度の足つき性です。平均的な体格の日本人には車高が高めです。ブラックアウトされたパイプハンドルに手を添えるとアップライトな上体となり、高めの車高と相まってかなり目線は高いです。スポーツモデルというと低い姿勢を強いられるのが一般的ですが、スクーターに限っていえばそれは当てはまらないようです。足置きの自由度が大きい広いフロアやワイドなシート、そしてアップハンドルによってもたらされるポジションは、運転操作がしやすく快適な走行ができるものです。難をいえば、やはり足つき性をもう少しよくしてもらいたかったというのが本音です。
小型二輪クラスのスクーターとしては比較的コンパクトなボディ。しかしポジションには十分なゆとりがあり、フロア、シートともに自由度が大きい。パイプハンドルによりもたらされる上体はアップライトで、視界の広い快適な走行が可能。シート高は790㎜となっているが、シートがワイドなこともあって足つき性はあまり良くない
足を下ろすと膝が伸びてしまう。それだけシートが高いということ
身長178㎝のテスターだが、ご覧のようにつま先着地となる
新型GTV300にはキーレスシステムが採用されているので、リモコンキーを携帯した状態でイグニッションノブを操作すればオン、オフができます。ブレーキレバーを握り、スタータースイッチを軽く押すと瞬時にエンジンが始動。冬の時期にもかかわらずすぐにアイドリングが安定しました。
スタートすると力強く加速していきます。搭載するHPE4ストローク水冷単気筒278㏄エンジンは、5250回転で最大トルクを発生する特性なので、低中速でとくに扱いやすくパワーあふれる走りを見せてくれます。さらに最大出力もおよそ24psを発揮するもっともパワフルなエンジンなので、高速走行もラクラクこなします。それでいてアクセル操作に過敏な反応は見せず、トルクフルでスムーズなパワーフィーリングを実現しているので、低速走行を強いられる市街地でもストレスなく走ることができます。
伝統ともいえるスチールモノコックボディは、車体を重たくなってしまいますが頑丈です。大きなレッグシールドもあるので走っていて安心感が持てます。タイヤは前後12インチなので路面のちょっとした段差などにも影響を受けてしまうのが難点ですが、直進安定性は高く低速走行でもフラツクことはありません。また、片持ちリンクアーム式フロントサスペンション、ツインショック式リアサスともに作動性は良好で、一般道を走行している限り吸収性に不足は感じませんでした。
一方ハンドリングに関しては、低速でフロントが内向するフィーリングに当初は少し戸惑いました。キャスターが立ったようなスポーツ志向の操縦性にしているようです。ある程度スピードが出ている状態でコーナーにアプローチすると、ピタリと安定してニュートラルな特性となります。GTV300はエンジン特性もそうですが、やはりスポーツモデルなのだということがハンドリングにも明確に表現されていると感じました。
スクーターとしての利便性は当然、日常の市街地走行にも発揮してくれます。そのうえで高速道路を利用したロングツーリングやワインディング走行を楽しめるという付加価値がこのGTV300にはあると思いました。そして普遍的なスタイリングデザインは、10年、20年と乗り続けても色褪せることはありません。

ディテール解説

ヘッドライトはフロントフェンダー上に設置。ウインカー、ポジションランプともども照明はすべてLEDだ。またネクタイ部分のスリットにもオレンジ色があしらわれている
ボディにビルトインされたテールランプ、ウインカーランプが現代的なスタイルを構築。照明はもちろんLEDだ
スタイルにマッチした丸型ディスプレイ。フルデジタルで多彩な表示機能を持つ。またモード切り替えで表示内容を変更することも可能
左スイッチには上からヘッドライト切り替え、ウインカー、ホーンの各スイッチが並ぶ
右スイッチには上からキルスイッチ、モードボタン、スターターボタン
容量は小さいがグローブなどの小物が収納できるグローブボックス
グローブボックス内にはスマホの充電などに重宝するUSBソケットが装備
インナーパネルの中央に格納式のラゲッジフックが取り付けてある
シート下の前方に2つのヘルメットホルダーが位置している
タックロールがデザインされたシートは、スポーティなシングルシーター風のデザインが施されている
シート下のトランクは照明付き。ヘルメットの収納は難しいが、荷物の収納性は抜群で、普段使いからツーリングまで大活躍してくれる
心臓部には278㏄の排気量を持つHPE4ストローク水冷単気筒SOHC4バルブエンジンを採用。現行ベスパでもっともパワフルなエンジンで、スポーティな走りにも十分に応えてくれる
キーレスシステムを採用。リモコンキーの携行でイグニッションノブの操作が可能になる。上部のボタンは右がシートロック解錠、左がモードボタン
リモコンキーを携行し車体から半径1.5m以内に近づくとイグニッションと連携できる
ベスパ独自の片持ちリンクアーム油圧フロントサスペンション。ブラックアウトしスポーティさを強調している。シングルディスクブレーキにはABSが装備
リアサスはツインショック式で、4段階にプリロード調整が可能。リアディスクブレーキもABS装備。またトラコンのASRも装備する
雨の日も足が滑りにくいように加工されたフロアステップ。足置きの自由度が大きいので体格に関係なく良好なポジションがとれる
タンデム時に使用するリアステップは豪華な格納式。必要に応じて出し入れできるので外観性も良い
アクサセリーパーツも豊富に用意されている。カラーデザインにマッチしたオレンジフライスクリーン装備でスポーティに変身
シート後部に装着するサドルカバーは、一段とレーシーさをアピールできるアイテム

主要諸元

エンジン形式:HPE 4 ストローク水冷単気筒 SOHC 4 バルブ


 


ボア X ストローク:75 mm x 63 mm
総排気量:278cc
最高出力:17.5 kW (23.8 HP) at 8,250 rpm
最大トルク:26 Nm a 5,250 rpm
燃料システム:電子制御式燃料噴射システム (Port Fuel Injection) 
始動方式:セルフ式
トランスミッション:無段階オートマチック
クラッチ:CVT 自動遠心乾式クラッチ
フレーム:スチール製モノコック
フロントサスペンション:片持ちリンクアーム油圧式サスペンション
リアサスペンション:4 段階スプリングプリロード調整機構付き ツインショックアブソーバー
フロントタイヤ:120/70 - 12”
リアタイヤ:130/70 - 12”
フロントブレーキ:油圧式 220 mm ステンレススチール製ディスク
リアブレーキ:油圧式 220 mm ステンレススチール製ディスク
全長/全幅/ホイールベース:1,980 / 765 / 1,380 mm
シート高:790 mm
燃料タンク容量:8.5 liters (including 2 liters reserve)

キーワードで検索する

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…