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ヤマハFJR1300AS ……1,870,000円
FJR1300A・・・1,540,000円
ハイテク装備は十分! 熟成を遂げつつある一台
1984~1997年に販売されたFJ1100/1200の後継車として、2001年にデビューしたFJR1300は、いろいろな意味で異例のモデルだった。まず当時の日本車では、スポーツアラー/スポーツGTと呼ばれる車両を、ゼロから新規開発することが異例だったし、同時代のリッタースーパースポーツに匹敵する143.4psの最高出力も、2000年代初頭の2輪業界の基準では異例。そして初代から現行モデルに至るまで、並列4気筒エンジン+アルミ製ダイヤモンドフレームの基本構成が変わっていないことも、近年の常識で考えれば異例と言っていいだろう。
約20年に及んだ生産期間の中で、FJR1300は数限りない改良を行ったものの、大雑把に分類するなら、2016年から発売が始まった現行モデルは第4世代になる。
もっとも第4世代の主な特徴は、ミッションの5→6速化、灯火類のフルLED化、バンク角に応じて照射方向が変わるコーナリングランプの採用(上級仕様のASのみ)などで、クラッチ操作が不要となるYCC-Sを導入した第2世代(2006~2012年)や、ライドバイワイヤやライディングモード、トラコン、電子調整式サス(ASのみ)など、イッキにハイテク化を図った第3世代(2013~2015年)ほどのインパクトはない。もっともその事実は、すでにFJR1300が熟成の極みに達していることの証明なのだろう。
アグレッシブなルックスとは裏腹に、意外に従順?
こんなに重くて大きかったっけ……。それが、数年ぶりに対面したFJR1300ASで、市街地を走り始めた僕の第一印象だ。装備重量296kg、軸間距離1545mmという数値を考えれば、そう感じるのは当然かもしれない。でもこのバイクは、さらに巨体なクルーザーやアドベンチャーツアラーより、手強そうなのである。
おそらくその印象の原因は、クルーザーほど車高が低くなく、アドベンチャーツアラーほどハンドルが高くないことだが、もちろん車高を下げて大アップハンドルを採用したら、FJRではなくなってしまう。何だか微妙なひっかかりを抱えたまま、今回の試乗はスタートすることになった。
もっとも、高速道路に乗り入れて10分ほど経過した段階で、微妙なひっかかりはどこかに消え失せ、そうそうそう!……という気分に僕はなっていた。改めて言うのも気が引ける話だが、このバイクは高速巡航が素晴らしく快適なのだ。
もちろん、今どきの大排気量クルーザーやアドベンチャーツアラーでは、快適な高速巡航はごく普通になっているけれど、並列4気筒では珍しい2軸バランサーを採用したエンジンのジェントルなフィーリング、空気を切り裂きながら矢のように突き進んでいく直進安定性は、やっぱりFJRならでは。逆に言うならこのバイクで高速道路を走っても、特に気分は高揚しないのだが、そういう特性だからこそ、心身の疲労をほとんど感じることなく、長距離を淡々と走り続けられるのだろう。
実はコントロールしやすいジェントルマン!
そして次に向かったワインディングロードで、僕はまたしても、そうそうそう……とつぶやきながら、ニンマリすることとなった。さまざまなカーブが続く道をFJRで走って、何とも嬉しくなったのは、コーナリング中の安定&安心感だ。具体的な話をするなら、まずコーナー進入時のフロントの舵角の付き方とバンクの仕方は、早すぎず遅すぎずの絶妙な設定で、その気になれば任意の角度で止めることも容易。
もちろん旋回中の車体に不安な気配は一切ないし、適度な車高の高さが功を奏しているようで、向き替えは至ってスムーズ。しかも立ち上がりでアクセルを開ければ、狙ったラインにきちんと乗りながら、滑らかにして豪快な加速が堪能できるのだ。
ただしYZF-RシリーズやMTシリーズ、あるいは、トレーサー900やテネレ700など、近年のヤマハ車に慣れ親しんだライダーの中には、刺激が少ないFJRのハンドリングに、物足りなさを感じる人がいるかもしれない。とはいえ僕自身は、他のモデルとは一線を画する穏やかで優しいFJRの乗り味に、ヤマハの懐の深さを感じた。
さぁ旅に出ようか! 長距離走行で威力を発揮!
さて、基本的な素性の話がメインになってしまったが、第3世代から追加されたライディングモードやトラコン、ASの特徴であるYCC-Sや電子調整式サスなども、現代のFJRを語るうえでは欠かせない要素で、いずれもロングツーリングでは有効な武器になる。そのあたりを認識した僕は、前述したように、FJRが熟成の極みに達していることを実感したのだが、一方で車体の重さと大きさを考えると、このバイクの本当の魅力は、年に数回以上のペースで、1000km以上の長旅に出かける人じゃないと、理解できないのかもしれない……感じたのだった。