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パッケージレイアウトとデザイン
南氏:車ってご存じの通りレイアウトってすごく大事なんです。エンジンをここに置いて…とか、人をどう座らせて、というところが。
その部署ってだいたいどこのメーカーさんと話しをしても設計部門にあるのですが、ホンダは当初の頃から、岩倉というものがダイレクターにいる時代から、車のデザインの形をやるのには、デザイン部門にパッケージレイアウトがあるべきで、それじゃないと美しい形とか独創的なものっていうのはできないということで、デザイン部門に元々レイアウトグループがあったのです。
*岩倉信弥氏 : 1964年多摩美術大学卒業、本田技研工業株式会社入社、CIVIC(1972)、 ACCORD(1976)、PRELUDE(1978)、CR-X(1983)、ODYSSEY(1994)などを手がける。株式会社本田技術研究所専務取締役、本田技研工業株式会社常務取締役(商品担当)を歴任。1999年退社後は多摩美術大学教授、立命館大学・北京中央美術学院・東京理科大学の客員教授などを務める。多摩美術大学名誉教授、経営学博士(立命館大学)
難波:元々デザイン部門にレイアウトグループがあったんですか。
南氏:元々です。だから、あんなボンネットの低いプレリュードなんかもできるわけなんです。
だから僕は入社した時は自動車会社というのはそういうものだと思ったんですけど、自分の立場が上になって、外に行けば行くほど、あれ?うちの会社やっぱおかしいと思い始めました。
でも最初はおかしいと思いましたけど、ただ、やっていく間にそれがいいところというか、自分がデザインをする時に、もうちょっとガラスのセットを立てた方がいいんじゃないか? もう寝かすのもさすがになんだから、とか考えられるわけです。
結局自分でもクルマのことを知らないと全く車を作れませんから。
だからすごく自負しているんですけど、エンジニアとしても僕は優秀ですよ。
相当クルマのことは知っています。それがないとレイアウト分からないですからね。
南氏:Honda 0 シリーズ SALOONは元々ホンダのMM思想の、その考えを進化させたような形です。
難波:そうですね、MM思想をもう1度純粋に振り返り、それが今の技術でちゃんと形で表現できている。
特にパッケージレイアウトの話が出ましたが、側面図だけで、エンジンやトランスミッション、ペダル、シートなど配置してプロポーションが決まってきますから、横から見たときにメカの部分だけ小さくしたMM思想表現ではなく、Honda 0 シリーズ SALOONは3次元でMM思想を表現してるなと感じていました。
南氏:あの記事拝見したんですけど、ダウンビューを描かれていただいていて、我々のやっている意味を理解してる人がいてくれたと感激しました。
南氏:最初にサイドウインドウが起きている1枚の絵を僕が選んで、これをやり切ろうということで始まりました。
でも低い車でサイドウィンドウを寝かしたら、簡単にかっこよくなるじゃないですか。そこをやっちゃいかんのです。スポーツカーじゃないので。
特にこのガラスルーフにはこだわってて、昨今のその技術ではガラスとかは成形性も良くなってますし軽量化にも優れています。偏光で暗くもできますし。
やっぱりそういうのって時代の技術の進化ですね。普通のルーフにもなるんです。
低くなれば投与面積減るから、空力もいいから、変なエネルギー使わなくていいんですよ。
難波:でもそうするとヘッドクリアランスはすごい少なくなる。通常の鋼板でのルーフの構造では限界もある。だから工夫したなと思いましたよ。
南氏:だから、そういうのもやっぱり車知らないと何のためにやってるかわからないんですよ。
でもお客さんはそこまで知らなくていいんです。お客さんに知らせたいのは「なんかこれ凄いぞ」なんです。「なんだか他の会社のクルマには感じないけど、これは広いぞ。」とか「なんでこんな低いのにホンダのだけは広くできてるんだろう」とか。
お客様にはわかりやすいような、広さとか、開放感とか、視界の良さとか、気持ちよさ、乗り心地の良さ。などが大事だと思うのです。
放っておくとどうしても走りという方向に行きがちです。
いや僕は走り大好きですけどね。
難波:以前南さんとHonda 0シリーズ SALOONのお話をした時に、このカタチに行き着くまでに、これまでの延長線上の絵しか出てこなかったと仰ってましたね。その辺って明らかにはできない?
南氏:いやいや、できますよ。
難波:例えば「こんな感じだったんですよ。当初の絵は」というようなスケッチとか。
南さんが車のこととかにあまり興味のない人が振り返って「あれっ?なんか変なのが来たよ。」「いつもと違うのが通った」と思わせなきゃダメなくらいの絵を描いてくれ。「そうじゃなかったら俺に見せるな」ぐらいのことをデザイナーに伝えて、それから出してくるアウトプットが変わってきた。と仰っていましたよね。
南氏:あともう1つ言って面白かったのが、「フラッグシップと言ったらうちでいうとレジェンドというクラスになるよね。例えばこの車がホンダで1番高い車だとしたら、社長が後ろ乗ることになる。うちの親分にどんな車乗ってもらったらお前らかっこいいと思うんだ?」と言ったら、そしたら本当に三部さんが乗ってるスケッチが出てきた。
難波:ぜひ見せてもらいたいですね。
南氏:だから、そういうきっかけになるようなキーワードを投げかけるだけで全然変わってくる。みんな優秀なデザイナーなんです。
でも集団というか、会社っていうのは、これはやっちゃいけない。ここまではできないと自ら壁を作っちゃうんですよね。
難波:経験のある人ほどそうなりがちですね。提案したってどうせダメだよって閉じ込めちゃいますね。
難波:今回のこのコンセプトカーは今後のホンダの電動車のデザインの方向性を丁寧に表したモデルであり、改めてBEVにおけるMM思想の空間提案と、その新たなアーキテクチャーで可能にした外観スタイリングの提案になっていますね。
かなり真剣に量産を踏まえて検討されているようにも見え、打ち上げ花火的なスタイリングコンセプトカーとは違うな、という印象を持ちました。ですからエクステリアもインテリアもしっかりとシンクロしていてバランスの取れた一体としての完成度が高く見えます。
でも一般の方も含めて、どうせまた量産になったらこうはならないんでしょう?と思っている方も多くいらっしゃると思いますが。
南氏:そう思われないように先に進めています。しかしこれを実現化するのは本当に大変です。投資も必要になりますし、生産のところまで含めて社内で頭を下げて回っています。
そして外観だけでなくHMIの見せ方なども海外のサプライヤーさんにも協力をしていただき、デザイナーには世界一美しいHMIを作ってほしいと言っています。
ですから内外共に提案したものはほぼこのまま実現できると思っています。
難波:本当ですか!それは凄いことです。小手先の新しさの表現ではなく骨格から車のデザインを計画した本質的な新しさの提案車になりますね。これぞまさに「デザイン」だと思います。ぜひ期待をしてお待ちしたいと思います。
ありがとうございました。
[ My Opinion ]
Honda 0 シリーズSALOONはBEVだからこその新たなプラットフォームを計画するにあたって考察された新しいアーキテクチャーを持つクルマである。ボンネットの下のエンジンが無くなっただけのようなBEV作りを第1世代とするならば、待ちに待った第2世代の先頭を走るクルマとなるのか、ホンダには是非このトライを量産まで繋げてもらいたいと願う。それこそが「ホンダらしいか」という問いへの答えになるのではないだろうか。独創的でオリジナリティのある提案の強いクルマが昨今の日本車には出てきていないので余計に期待は膨らむ。
しかし量産へ向けてのハードルは決して低くはない。収益性まで考えると尚更尻込みをしたくなるものかもしれないが、是非中途半端な妥協をせずに前に進んでいただけることを切に願う。どこかで一歩先へ歩みを進めなければ企業としての飛躍も考えることができない。
ホンダのデザイン部門は世界中で見ても稀な位置付けであるように見える。世界中がマーケティング主体の商品作りばかりで、スタイリングもセオリーの範疇内でのデザイン開発が多く、本質的な差異の小さな商品が溢れる中で、こうした根本骨格からの提案ができるところにホンダという企業の価値があるように私は感じるし期待するものである。
編集長:難波 治