【ル・マン24時間2024】ドラマチックな展開を演出したのは何か?

ドラマチックな展開となった「ル・マン24時間」改めてその激戦となった理由を考察する

今年101年目を迎えたル・マン24時間レースのスタートシーン。
今年101年目を迎えたル・マン24時間レースのスタートシーン。
フェラーリが歴史的接戦を制した第92回ル・マン24時間レース。ゴール時点で同一周回が9台という、あまりにもドラマチックな展開を様々な視点から2024年のレースを俯瞰し、過去最高の激戦を演出したのは何かを検証する。(GENROQ 2024年8月号より転載・再構成)

THE 92ND 24 HOURS OF LE MANS 2024

史上最大の活況を見た最高峰カテゴリー

もはやマシンを見ることができないほどに混雑したグリッドウォーク。これから24時間を戦うマシンを間近に見られるチャンスだ。
もはやマシンを見ることができないほどに混雑したグリッドウォーク。これから24時間を戦うマシンを間近に見られるチャンスだ。

101年目を迎えた今年のル・マン24時間でもっとも注目を集めたのは、最高峰カテゴリーのハイパーカークラスに9メーカーから23台が参戦したことだろう。このうち、去年からの継続参戦組はキャデラック(3台)、ポルシェ(6台)、トヨタ(2台)、フェラーリ(3台)、プジョー(2台)で、新規参戦組はBMW(2台)、ランボルギーニ(2台)、アルピーヌ(2台)、イソッタフラスキーニ(1台)の4社に上った。これはグループCカーが大挙して押し寄せた1989年の8メーカーを上回るもので、史上最大の規模といっても過言ではない。

一方、去年、あれほど重大視された性能調整(BoP、バランス・オブ・パフォーマンス)は、まったくといっていいほど話題に上らなかった。その理由として、今季のWECでは1戦ごとにBoPが見直されるほか、その内容が複雑というかあまりに緻密で、どのメーカーにとって有利な状況なのかをひと言では説明できなくなったことが関係しているように思える。

上位11台が1秒以内に収まった予選

その端的な例がパワーゲインと呼ばれる性能調整。これは250km/h以上の速度域に限ってパワーを絞ったり、逆に上乗せしたりできるもので、第4戦ル・マンが初導入。その舞台となるサルト・サーキットでは、ストレートで追い抜くことがリスクの低減に直結するため、極めて重要な意味を持つ性能調整といえる。

そのほか、車重、最高出力、1スティントで使用できる総エネルギー量(燃料の搭載量に相当)などが事細かに決められており、それらが一戦ごとに変わっていくのである。

例えばル・マンにおける性能調整値(車重、最大出力、パワーゲイン、エネルギー量)をフェラーリとの比較で表記すると、キャデラック:−7kg/+1kW/+1.7%/+11MJ、ポルシェ:−1kg/+3kW/+1.7%/+15MJ、トヨタ:+10kg/0kW/+2.6%/+17MJとなり、全体的にフェラーリに厳しい内容とされていることがわかる。

こうしたきめ細やかな性能調整の成果は、公式予選の結果にはっきりと表れた。なにしろ、上位11台のタイムが1秒以内に収まる接戦となったのだ。ご存じのとおり、サルト・サーキットは全長が13.626kmと通常のサーキットの2倍以上もあるから、これは実質的にコンマ5秒以内に11台が並んだといってもいいくらいの激戦だったことになる。

残り2時間でも6台が1分差の接戦

公式予選に続いて行われたハイパーポール(上位8台のスターティンググリッドを決めるセッション)ではポルシェ6号車がポールポジションを獲得。これに2台のキャデラックが続いたが、うち1台は前戦のペナルティにより降格。キャデラック2号車がフロントロウからスタートすることが決まる。続く2列目グリッドを手に入れたのはフェラーリの51号車と50号車。さらに3列目にはアルピーヌ35号車、BMW15号車とニューカマーが並んだ。

スターティンググリッドの顔ぶれでもっとも意外だったのは、トヨタの8号車が11番手、もう1台の7号車にいたってはハイパーカークラス最下位の23番手と、いずれも不振に終わったことにある。これは、8号車はトラフィックにはばまれたため予選で思うようなタイムを残せず、7号車は予選中のクラッシュで赤旗中断を招いた責任を問われて最後尾グリッドとされた結果だった。このため、フェラーリ50号車を操るミゲル・モリーナが「トヨタは本来の実力を出し切っていない。ル・マンは長いレースなので、最後尾からでもきっと追い上げてくるだろう」と語るなど、ライバルはいずれも警戒感を緩めていなかった。

土曜日の午後4時にスタートした決勝レースは、気温が低いうえに雨が降ったり止んだりの生憎のコンディション。しかも夜間には雨のため合計で6時間近くもセーフティカーが出動する異例の展開となった。レースが残り2時間となっても、フェラーリとトヨタの各2台、そしてポルシェ6号車とキャデラック2号車の計6台が1分差で走行する超接近戦となったのは、こうしたセーフティカーランの影響もあったはずだが、絶妙な性能調整が一部チームの独走を阻んだ結果ともいえるだろう。

フェラーリが昨年に続く2連覇

最終的には天候の変化に的確に対応し続けたフェラーリ50号車とトヨタ7号車の一騎打ちとなったが、最後のピットストップを早めに行う戦略が効を奏した50号車が7号車を振り切って優勝。フェラーリは昨年に続く2連覇を果たした。

昨年からハイパーカークラスに挑んでいる4メーカーが上位争いを繰り広げたのとは対照的に、アルピーヌは早々とリタイア、ランボルギーニは10位と13位、BMWの2台も完走できなかったのは、経験がなによりものをいうル・マン24時間らしい結末だった。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/益田和久(Kazuhisa MASUDA)、FERRARI S.p.A.、PORSCHE A.G.

残念ながらル・マンでは、2台とも5時間半でほぼ同時にリタイアした。

「すべては成果に?」ル・マン24時間で敗退したアルピーヌの恐るべき長期的視野

今年も激戦が繰り広げられ、大いに盛り上がったル・マン24時間レース。ゴール時点で9台ものマシンが同一周回となる、過去最高の白熱したレースだったが、そんな中で早々にリタイヤしたのが、地元として期待されていたアルピーヌだ。その悲喜交々と、短期的な結果を求めないアルピーヌの展望を密着取材したジャーナリストがルポを寄せた。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…