日本の過酷な夏に耐えられるか?【ポルシェ911カレラ('95/Type993) 長期リポートVol.5】

真夏の渋滞で993型911の耐久性チェック! 【ポルシェ 911(タイプ993)ロングタームレポート:第5回ニッポンの夏、油冷・大敵!】

勢いに任せて買った割には調子の良い95年式993カレラ。しかし師匠のアイコード代表・鶴田御大は「夏には乗らん方がエエがな」と言う・・・なぜ!? エアコンだってバッチリ効くというのに! その理由は、もはやニッポンの風物詩となった“渋滞”。これが空冷フラット・シックスから、オイルをジャジャ漏れにさせるのだ!?(※この記事はGENROQ 2018年7月号「ロングターム・レポート」に加筆・修正したものです)

空冷911は夏に乗ったらアカン!?

「夏に乗るのは、なるべくやめた方がいい。日本の渋滞は、空冷に厳しいぞ」

えッ!? それは納車時ヘッド周りからのオイル漏れを直してもらったときに、アイコード鶴田御大のクチから出た言葉。ちなみにマイ993は、エアコンばっちり効きます! 温度調節がとっても苦手らしく、寒いくらいに効いてくれます。そんな状況をして筆者はニマニマと、「これなら夏もイケるじゃん!」なんて思っていたので、この言葉を聞いたときはとても驚きました。

筆者が993を選んだ理由は、「最後の空冷」という以上に、日常のアシになる! と踏んだから。色々な人に話を聞いても964以前の空冷はさすがに古いからアチコチ問題はあるけれど、「993が壊れるって話は聞かないね」という意見ばかりだったからです。

油圧タペットだから2年に1回といわれるバルブクリアランスの調整をする必要もないですし、「突然エンジンが逝った!」なんて話も聞いたことない(だけ?)。いや~、マイッた。空冷初心者の自分がこういう話を聞くと、気が気じゃなくなっちゃいます。

「バーチャル渋滞」で993の油温を試す

鶴田御大いわく空冷エンジンが夏に弱い理由は、ずばりオイル漏れ。渋滞中は走行風が当たらないため、いくらファンを回しているとはいえ熱でシリンダーが膨張・収縮を繰り返しやすく、シールが傷んでしまうらしいのです。そしてその隙間から、最悪ジャーッ!とお漏らしすることもある!? ひえぇ・・・!!

964が新車で出たとき日本側がこの事実をポルシェに伝えると、本国は「そんなことはない!」とプンプン怒りながら確かめに来日して、「ありゃ、ホントにダメだこりゃ!」となったとかならかったとか(笑)。つまり996の水冷化は、パワーや環境性能の追求と同時に、高温多湿なアジアでのポルシェの常用化にも役だったワケですね。

この話を聞いてショックが隠せないボクを見た御大は、「それなら一度、自分でバーチャル渋滞してみるといいよ」とアドバイスをくれました。

バーチャル渋滞? なにそれ。つまり暑い日に駐車場でエンジンをかけ、走行風が当たらない状態で油温が上がっていく様子を確認してみなさい、というのです。なるほど。御大、伊達に歳とってません。

見る見る間に油温が上昇していく・・・

しかしそんな親心に応える間もなく、ピンチは勝手に訪れました。そう、スーパーGTの取材に行くために、さっそくGW渋滞に巻き込まれてしまったのです。

渋滞その1は、往路の御殿場詣(もうで)でした。取材スタッフと合流して横浜横須賀道路から保土ヶ谷バイパスを通り、東名高速道路で御殿場へ。金曜日の早朝だというのに高速ではノロノロ運転が始まっており、気温こそ20度と普通でしたが、連なるクルマを見ているだけで心臓はバックバクです。

993の油温計はざっくり三分割されていて、御大によれば下から1目盛り目(線の本数でいうと3本目)は約90度。目盛りのない中央付近で100度くらい、赤い部分に入ると150度を超えるから危険! とのこと(※1)。サーキットで国産車(もち水冷)を走らせたときの油温なんて、オイルクーラーがないと150度くらいすぐなんですけど? あ、993には純正でオイルクーラーがついているんですよね。オイル量も10リットル近いから、油温上昇はやはり大敵なのでしょう。
(※1):アイコード鶴田氏いわく、油温は通常真ん中から少し下がベスト。ポルシェ自体はこの油温計に正確な数字を公表していないため、文中の温度もあくまで目安。とにかく針は「水平から下」が基本とのこと。そして油温がこれ以上になったときは、オイルクーラーのファンが作動して温度を下げる。逆に温度が下がらなかったら電動ファンをチェック。

993だけですべてを賄うのは・・・?

果たして油温計の針は、ノロノロ運転だと中央よりちょっと下。そして前が開けて走り出すと、スーッと2目盛り目より下まで下がっていきます(蒸し暑かったのでエアコンは付けっぱなし)。しかしこの渋滞は完全停止状態まではいかず、海老名サービスエリアを過ぎた頃から流れ出して、結局マイ993は無事に御殿場まで到着してしまいました。

・・・なんだかツマラナイな。というわけで今度こそ!? バーチャル渋滞を富士スピードウェイの駐車場で敢行。すると、ものの5分も経たないうちに、油温計がグイグイ上がっていくではありませんかッ!

そして10分くらい経った頃に、993ではなくボクが根を上げてしまいました。油温計が今朝の最高値よりほんの少し上、温度にして120度くらいになったときでしょうか。ボクは耐えきれなくなってバーチャル渋滞を中断。ひとっ走りしてとっとと温度を下げてから、エンジンを止めちゃいました。

過保護と言われても、いーんです。やっぱり、愛車をいじめるなんてできない! ただその感触からすると、30度以上の気温になったらレッドゾーンには入らなくても、間違いなく120度以上は行きそうです。当初は「993だけで暮らすぞ!」なんて息巻いていましたが、アシ車は必要かなぁ。やっぱりハチロク、手放せないかなぁ。

あと御大に注意されたのは、長く乗らないオーナーがやる「暖気だけ運転」。これも実は、クルマには良くないそうです。エンジンの熱で発生した水蒸気がオイルに含まれ、これを繰り返すとオイルが乳化してしまう。できれば30分くらいバシッとエンジンを回しながら走って、水分を飛ばしてあげるのがベスト。できないなら「エンジンをかけない方がまだマシ」とのことでした。ボクの場合、それはなさそうですが、とにかく今年の夏が・・・とってもとっても心配デス。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)

2022年 筆者追記:いやー、空冷ビギナー丸出しのビビリ具合ですね(笑)。結論から言うと2022年8月現在、993はエンジン絶好調! 油温計のレッドゾーン突入も、1回しか起きていません。大切なのは、オイル漏れの修理とオイルクーラーの管理。その模様も今後のレポートに出てきますので、お楽しみに!

「キレイになってから、やることもある!? 室内クリーニングで23年分のアカ落とし」

SPECIFICATIONS

Porsche911 Carrera(’95/Type993)
ボディサイズ:全長4245 全幅1735 全高1300mm
ホイールベース:2270mm
車両重量:1370kg
燃料タンク容量:73.5リットル
エンジンタイプ:M64/05
形式:空冷水平対向6気筒SOHC
総排気量:3600cc
圧縮比:11.3
最高出力:272ps/6100rpm
最大トルク:330Nm/5000rpm
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ホイール:前7J×16 後9J×16(※)
タイヤ:前205/55ZR16 後245/45ZR16(※)
※ レポート車は社外品の18インチが装着されていた。

【COOPERATION】
アイコード
TEL 0565-46-0727

【関連リンク】
・アイコード 公式サイト
http://icode.jp/

993ロングタームレポート第4回

ポルシェ 911(タイプ993)ロングタームレポート:第4回「もう、ピッカピカやで!」

23年落ちのヤングタイマーとの愛を深めるために選んだ手段は、内外装のクリーニング。ポリッシャーでギュイーン! と磨いてピッカピカ♪ なんて思っていたら、いやいやこれがとっても奥が深いのであった。というわけで今回の「外装編」では、塗装から純正パーツの話まで、空冷予備軍には“耳ダンボ”なお話を交えながら徹底解説してみよう。(※この記事はGENROQ 2018年6月号の「ロングターム・レポート」を加筆・修正し再収録したものです)

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…