【eVTOL交通革命:02】海外の「eVTOL」事例を紹介

世界の「eVTOL」は今どうなっているの?「海外の事例を紹介」【eVTOL交通革命】

ジョビー・アヴィエーション S4とヴォロコプターのヴォロシティとヴォロリージョン。
ジョビー・アヴィエーション S4とヴォロコプターのヴォロシティとヴォロリージョン。
前回はeVTOLの全体像について紹介したが、まったく新しい“乗り物”だけに、その具体的なイメージを掴むのは容易ではないはず。そこで今回は、eVTOLの実例を挙げながら、それぞれの特徴や問題点などを見ていくことにしたい。

日本での型式認証を申請中

ジョビー・アヴィエーション S4(上)とヴォロコプターのヴォロシティとヴォロリージョン。

現在、eVTOLの世界でもっとも多額の投資を集め、もっとも実用化に近いとされているのがアメリカのジョビー・アヴィエーション社である。彼らは2025年に開催される大阪・関西万博で商用飛行を行う4社のうちの1社として参加予定で、すでに日本における型式認証を申請中といわれる。ジョビーが開発を進めている「S4」は、飛行状況に応じて電気モーターで駆動する6組のプロペラを装備。このプロペラを、離着陸時は上向きに、巡航時は水平近くの向きとする推力偏向方式を採用している。

なぜ、離着陸時にプロペラを上向きにするかといえば、プロペラが生み出す推力によって自重を上回る揚力(機体を浮き上がらせる力)を発生させることで垂直離着陸を実現しているから。しかし、巡航時は一般的なプロペラ機と同じように、プロペラが生み出す推力を水平方向に用い、翼によって揚力を生み出した方が効率よく飛行できる。そこでS4は、離着時と巡航時で推進装置の向きを変え、垂直離着陸と効率の高い水平飛行を両立させる推力偏向方式を採用したのだ。

一見したところいいところずくめに思える推力偏向方式だが、弱点もある。オスプレイの名で知られるV-22も推力偏向方式を採用しているが、2023年11月29日に屋久島沖で起きた事故をきっかけとして全世界で運用を一時停止する事態となったことはご存知のとおり。もっとも、推力偏向方式で高い信頼性を誇っている航空機もあるので、一概にこの方式に問題があると決めつけるわけにはいかないものの、どうしても機構が複雑になりがちなのは事実。また、水平飛行時に揚力を生み出す翼が必要となるため、機体が大型化しがちなことも、市街地での活用に期待がかかるeVTOLにとっては不利な条件といえる。

なお、S4はパイロット1名を含む5名が搭乗可能で、240kmを超える巡航距離、そして320km/h以上の最高速度が可能とされている。電気モーターを原動機としていながら、これだけの巡航距離と最高速度を達成できるのは、推力偏向方式のなによりの特徴といっていいだろう。

ジョビー・アヴィエーションに次いで実現性が高いとされているのは、ドイツのヴォロコプター社である。彼らも、大阪・関西万博での商用飛行を計画する企業の1社である。同社はヴォロシティとヴォロリージョンという2種類のeVTOLを開発しているが、このうち、大阪・関西万博で飛行することになるのはヴォロシティと呼ばれる機体。これは電気モーターで駆動される18組のプロペラを備えたもので、ジョビーのS4と違って推進装置は偏向することなく、常に上方を向いている。その意味でいえば、われわれがよく目にするドローンに近い形態といえる。ただし、推力偏向方式ではないので巡航時の性能は高くなく、航続距離は35km、最高速度は110km/hに留まる。搭乗者数がパイロット込みで2名に限られることも弱点のひとつだ。

なお、ヴォロコプター社が開発するもうひとつの製品であるヴォロリージョンは巡航飛行時の性能向上を目指したもので、大きな固定翼を装備。2基の水平推進用プロペラ、それに上向きに設けられた6基の電動プロペラにより100kmの巡航距離、そして250km/hの最高速度(巡航最高速度は180km/h)を達成する。つまり、短距離はヴォロシティ、中距離はヴォロリージョンの2モデルでeVTOL市場に対応するという戦略のようだ。

18組のプロペラを備えたドイツのeVTOL

実現性に関してはジョビー・アビエーションやヴォロコプターほどの高い評価は受けていないが、技術的に興味深いのが独リリアム社のリリアム・ジェットである。リリアム・ジェットにはプロペラやローターが見当たらない。その代わり、固定翼に設けられたフラップ上に合計で36基の電動ジェットエンジンを装備。そしてフラップごと電動ジェットエンジンの向きを変えることで水陸離着陸を可能にするとともに、優れた巡航性能を実現している。ちなみに、リリアム・ジェットはパイロット1名と乗員6名の最大7名が搭乗可能で、巡航距離は最長200km、最高速度は300km/hに達する。ジョビーのS4を搭乗員数で2名上回っていながら、同等の巡航距離と最高速度を実現している点は注目に値する。

この驚異的な性能を可能としているのが、前述の電動ジェットエンジンだ。そのポイントは、小型かつ高出力な電気モーターと、エンジン内部で流速を加速させる構造にある模様。このコンパクトな電動ジェットエンジンにより、優れたスペースユーティリティと飛行効率を実現したと見られる。なお、リリアムの電動ジェットエンジンに日本のデンソー製モーターが使われていることも大きな話題となっている。

次回は日本で開発中のeVTOLを中心に紹介することにしよう。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PICTURE/モリナガ・ヨウ(Yoh MORINAGA)
COOPERATON/東レ・カーボンマジック株式会社

今後さらに混雑が予想される都市部などにおいて、既存の自動車よりも素早く快適で、一般的な航空機よりも安く手軽に利用できるのがeVTOLの特徴とされている。

空飛ぶクルマと言われる「eVTOL」とは何か?をわかりやすく解説【eVTOL交通革命】

空飛ぶクルマとして注目を集めるeVTOL。2025年の大阪万博に向けて、実証実験や法整備が粛々と進められている。それを訝る向きもあるが、全てを否定するのではなく、そうなる可能性があると考えて、eVTOLがもたらすインパクトを検証する。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…