グループC誕生40周年に向けて走行可能状態にレストアされた962C

ポルシェのPDKの祖先「962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックが35年ぶりにドライブ 【動画】

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」の走行シーン。
かつてハンス=ヨアヒム・スタック(Hans-Joachim Stuck)が、ADACスーパーカップでドライブしたポルシェ 962Cと対面した。ヴァイザッハの研究開発センターにおいて慎重なレストアが進められ、今回35年ぶりにアンベールされることになった。

Porsche 962C

35年ぶりにオリジナルカラーに再現

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
1987年シーズン、ドイツ国内で開催されていたADACスーパーカップで、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブした、962Cが実走状態にレストアされることになった。

今回、ポルシェ・ヘリテージ&ミュージアム部門が保有していたポルシェ 962Cが、1年半をかけて1987年当時のオリジナルの状態にレストアされた。「まるで、実家に帰ってきたような気分ですね。レーシングナンバー『17』を付けて優勝したこのクルマには、楽しい思い出しかありません」と、スタックは左フェンダーを撫でながら笑顔を見せた。

「30年以上の時を経ての再会は、スタック氏を驚かせただけでなく、ちょっとしたタイムスリップの旅でもありました。962Cに関するモータースポーツの歴史は、他に類を見ないものです」と、ポルシェ ヘリテージ&ミュージアムの責任者のアキム・ステイスカルは付け加えた。

962Cは、ヴァイザッハにおいて、このレーシングカーが製造された当時のオリジナルカラーリングに戻された。さらにスタックは、今回の“同窓会”において、当時レースエンジニア務めていたノルベルト・シンガーや、鮮やかなブラック・レッド・イエローの「Shell」カラーを担当したデザイナーのロブ・パウエルと再会することもできた。

1987年のADACスーパーカップでタイトルを獲得

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
シェル・カラーの962Cは、スタックのドライブで1987年のADACウルト・スーパーカップでタイトルを獲得した。

1987年シーズンの ADACウルト・スーパーカップ(当時ドイツで開催されていたグループCのスプリント選手権)において、スタックがタイトルを獲得してから、35年の月日が経った。当時、このシリーズを舞台に、新たに開発されたギヤボックス「ポルシェ・デュアル・クラッチ・トランスミッション(PDK)」をレーシングスピードでテストしていたのだ。

このシーズン、第2戦ノリスリング200マイルを前に、石油会社のシェルがスポンサーとして加わったことで、カラーリングが大きく変わることになった。ポルシェは翌1988年もイエローとレッドのカラーリングでADACスーパーカップに参戦。この962Cはその後、ヴァイザッハのエアロダイナミクス部門のテストカーとして第2の人生を歩み始め、その任を解かれたあとはミュージアムに所蔵されている。

当時のエンジニアやデザイナーからの貴重な証言

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
レストアに際しては当時のレースエンジニアを務めていたノルベルト・シンガーやカラーリングを担当したロブ・パウエルから貴重な情報がもたらされた。

962Cのレストアは、ヒストリック・モータースポーツ部門のアルミン・バーガー(Armin Burger)とトラウゴット・ブレヒト(Traugott Brecht)が共同で担当。「私たちは、この車両を倉庫で何度も見かけていました。そして1年半ほど前、倉庫から出してヴァイザッハへと移し作業を始めることにしたのです」とバーガーは振り返る。

長い間使われていなかった多くのパーツがあったため、レストアチームはあらためて作り直す必要があったという。「ポルシェの他の部署との協力関係は素晴らしいものでした。必要なものは半径30m以内でほとんどすべて見つかりましたから」とバーガー。そして、レストア作業の初期段階において、彼はパウエルとシンガーをヒストリック・モータースポーツ部門のワークショップに招待している。

「実際にこのレーシングカーに携わってきた人たちから話を聞くと、すべてが明らかになります。当時その現場にいたノルベルト・シンガーとロブ・パウエルという、ふたりの目撃者からは本当にたくさんのことを学びました」

レストアのスペシャリストたちは、アンダーボディを完全に作り直し、ラジエーターの配置を変え、その他多くのボディワークの調整を行った。その後、ヴァイザッハの開発センターで行われたジャーナリストワークショップにおいて、スーパーカップのチャンピオンマシンをヨーロッパのメディアに披露している。

レッドとイエローが斬新な「シェル」カラー

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
鮮やかなシェルカラーをデザインしたロブ・パウエルが、今回のレストアでも実際にドローイングテープを使って作業に参加している。

カラーリングのデザイナーを担当したパウエルは、さまざまなサイズのテープやステンシル、35年前に描いたデザインスケッチなどを持参してくれた。「最初に描いたデザインスケッチをスタックはすぐに気に入ってくれました」と、パウエルは懐かしそうに振り返る。パウエルがテープドローイングでフロントヘッドライトにステンシル描くと、スタックは満足気に頷いていたという。

今回のレストア作業においてもパウエル自身がテープドローイングの作業を行った。「ペインターが正確なカラーリングを施すためにも、非常に重要な作業になります。それにしてもイエローとレッドの組み合わせは今見てもモダンですよね」と、パウエルは笑顔を見せた。

当時と同じレーシングスーツでスタックがドライブ

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
ヴァイザッハのテストトラックを舞台に、当時ワークスドライバーを務めていたスタック自身が962Cのステアリングを握った。

実走状態にレストアされたことで、スタック自身が962Cのステアリングを握り、テストトラックを周回できることになった。

「私はポルシェ・デュアルクラッチ・トランスミッション、PDKの大ファンでした。当時、この最新技術を962Cでテストさせてもらったことを誇りに思っています。全開走行時にシフトチェンジする際、ステアリングホイールから手を離さずにいられるのは、素晴らしい体験でした」

そのPDKは、現在すべての市販ポルシェで選ぶことができるようになった。 テストエリアから数m離れた場所で、1980年代に着用していた赤いレーシングスーツを発見したスタックは、今でもそのスーツがピッタリ似合っていることに、あらためて喜びを感じていた。「私にとってポルシェで過ごした時代は、キャリアの中で最も成功した時期でしたから・・・」と彼は振り返る。

大胆に星が描かれたお馴染みのヘルメットをかぶって、スタックがシートへと潜り込む。

「ストゥーキ(スタックのニックネーム)は、暖かい雰囲気をポルシェにもたらしてくれました。彼は常に、センサーからのデータのように正確なフィードバックをもたらしてくれるドライバーのひとりでしたね」とシンガーは明かす。シンガーは、956とその直系の962から初めてアルミモノコックを導入し、アンダーボディにはグラウンドエフェクトを採用した人物だ。

2022年「グループC誕生40周年」に参加予定

1987年ADACスーパーカップ優勝マシン「ポルシェ 962C」を、ハンス=ヨアヒム・スタックがドライブ
1982年の導入以来、2022年に40周年を迎えるグループC。今回レストアが完了した962Cも、様々なイベントで走行シーンを披露する予定だ。

スタックがヴァイザッハの2.5kmのテストコースで最初のラップを開始すると、見守っていた人々は思わず息を呑んだ。「962Cがこうやって再び走行している姿を見ると、過去へと意識が飛んでたくさんの思い出が蘇ってきますね。あのサーキットの雰囲気は忘れられません」と、シンガーは微笑む。

この962Cは、数週間前にポルシェミュージアムにおいて開催されたデジタルサウンドナイトで初めて一般公開された。ポルシェは2022年の「グループC誕生40周年」に向けて走行イベントや展示イベントを計画しており、今後も多くの走行機会が設けられる予定となっている。

「962Cは、自分の思い通りのセットアップでドライブすることが許された、数少ないレーシングカーのひとつでした。そんな最高のクルマを忘れることなんてできないでしょう。2022年には、みんなでグループC40周年を盛大にお祝いしましょう!」と、スタックは再会を約束してテストドライブを締め括った。

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レストアが完了したポルシェ 962Cの走行シーンを動画でチェック!

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…