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DBS(2007-2012)
市販化の正式発表は映画の公開後
これまで「DB5」「V8」と、実車がボンドカーに変身することで世の中に話題を振り撒いてきたが、史上初めて先にボンドカーとして登場し、後に実車として発売されたのが、今回紹介する2代目となる「DBS」である。
そもそもは2006年1月に映画『007/カジノ・ロワイヤル』の公開に先駆け、公開されたデザインスケッチが最初だった。ただ、その際には「ジェームズ・ボンドがドライブする」(=ボンドカー)ということ以外、詳細は発表されず11月の映画公開で初めてその姿が明らかになった。
映画に使用されたボンドカーは「DB9」のMT仕様をベースに2台製作され、スリットの開いたボンネットフードや、新デザインのトランクリッド、ディフューザー。サイドスカートなど外装パネルが変更されアグレッシブなスタイリングになったほか、インテリアにはアルカンターラが奢られていた。そして映画の公開後に正式に市販化を発表。ボンドカーとほぼ同じスタイルのまま、2007年8月のペブルビーチ・コンクール・デレガンスで初めて実車が公開され、9月のフランクフルト・ショーで正式に発表された。
最高出力は517PSにアップ
ベースになったのはDB9だが、トランクリッド、フロントウイング、ボンネット、ドア周辺などにサーフェシング・ヴェイルという特許取得済みの処理を施すことで、滑らかで繊維の織り目が見えない表面をもつカーボンファイバーパネルを多用。アルミを使用するDB9と比べて約30kgの軽量化に成功しただけでなく、完全2シーターとすることで、全体では65kgほど軽く仕上がっている。またオプションでカーボンケブラー製のバケットシートを選択すると、そこからさらに20kg軽量化することも可能だった。
インテリアのデザインも基本的にDB9を踏襲しているが、レザーやカーペットが軽量化のために薄手のものに変えられたほか、イグニッションキーがスターターボタンのスロットに差し込むポリッシュ仕上げのサファイア製ECUに変わるなどの変更を受けている。
一方、ノーズに収まるV12エンジンは排気量こそ5935ccのままながら、各部にチューニングを施すことで最高出力が456PSから517PSにアップ。ギヤボックスはクロスレシオの6速MTで、その最高速度は307km/h、0-60マイル加速は4.3秒を誇った。
そのほかフロントに398mm径の6ポットキャリパー、リヤに360mm径の4ポットキャリパーを持つベント式カーボンセラミックブレーキがアストンマーティンのロードカーとして初めて採用されたこと、高級時計メーカーのジャガー・ルクルトとのコラボレーションで、ドアのリモートロック機構を仕込んだ18Kピンクゴールドの機械式クロノグラフウォッチ「AMVOX2 DBSトランスポンダー」を発売したこともトピックといえた。
2009年後半に「DBSヴォランテ」も登場
その後2009年モデルでマイナーチェンジを行い、6速MTに加えてパドルシフト付きの6速AT“タッチトロニック2”を設定し、標準装備のオーディオをバング&オルフセン製に変更。さらに2+2となる軽量リヤシート、1本あたり2kg軽い10スポーク20インチホイールも新たにオプションとして設定されている。
そして2009年の後半には、強化されたVHシャシーをもつ待望の「DBS ヴォランテ」もラインナップされた。エンジンはクーペと同じ517PSのV12で、ギヤボックスは6速MTもしくはタッチトロニックで、電動式のソフトトップは、時速30マイル以下なら走行中でも14秒で開閉できるようになっていた。
2012年にはクーペ、ヴォランテともに最後の限定車となるアルティメット・エディションを発売し、その年をもって生産が終了した。最終的に6年間に生産されたクーペは2533台、4年間に生産されたヴォランテは846台にのぼっている。