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V12 ZAGATO(2012-2013)
V12ヴァンテージをベースとして
1960年に「DB4GTザガート」で始まったアストンマーティンとイタリアのカロッツェリア、ザガートとのコラボレーションは、1986年の「V8ヴァンテージ ザガート」「V8ザガート ヴォランテ」、1997年の「DB7ザガート」「DB AR1」と散発的ながらも続けられてきた。
そして2011年5月にイタリア・コモ湖畔で開催されたヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァで、両社はDB4GTザガートの誕生50周年を祝い「V12ヴァンテージ」をベースとしたスタディモデルである「V12ザガート」を披露。伝統のダブルバブルルーフをもつ丸みを帯びたアグレッシブなデザインは、コンセプトとプロトタイプのデザイン賞を受賞した。
面白いのは、その翌月に行われた第39回ADACニュルブルクリンク24時間レースに、レース仕様に仕立てられたZigと名付けられた緑の5号車、Zagと名付けられた赤い3号車が出場。ウルリッヒ・ベッツCEO自らがドライバーを務めた3号車が総合89位、SP8クラス5位でフィニッシュ。もう1台の3号車も総合111位、クラス6位でフィニッシュしたことだ。
その後、同年のフランクフルト・ショーを前に彼らは、V12ザガートを2012年から発売することを発表。当初その生産台数は150台以下とされたが、まもなく101台に修正された。
オールハンドメイドで仕上げられた内外装
2012年2月のクウェート・コンクール、そして3月のジュネーブ・ショーでお披露目された生産型のV12ザガートは、V12ヴァンテージをベースに、コヴェントリー・プロトタイプ・パネルズ製のアルミボディをゲイドン工場で架装したもので、5.9リッターV12などの基本スペックは同じ。ギヤボックスも6速MTが組み合わされた。
インテリアはデザインこそV12ヴァンテージと変わらないが、シートやトリムは7枚のブリッジ・オブ・ウィアー・セミアニリンハイドを用いて手縫いで仕上げられ、ヘッドレストなどには「Z」の刺繍が施されていた。
このように内外装ともに、オールハンドメイドで仕上げられたV12ザガートの1台あたりの製造時間はおよそ2000時間。その価格は39万6000ポンドに設定された。しかしながらV12ヴァンテージの倍近い価格と、認証の問題で北米への正式な輸出が見送られたことが災いしてか販売は低迷。結局、レース仕様2台、プリプロダクション2台を含む合計65台と、当初の予定を大幅に下回る台数で製造を終えている。
2台セットの限定車「ヘリテージ・ツインズ」も
そのおかげで皮肉にもコレクター市場では希少車として扱われることになったV12ザガートだが、2019年にザガートは創業100周年を記念して、その復刻モデルである「V12ザガート・ヘリテージ・ツインズ」の製造を発表する。
その最大の特徴は、クーペに加えて新たにデザインされたオープントップのスピードスターが用意されたことだ。また復刻版とはいえ、中身もまったく同じというわけではなく、5.9リッターV12エンジンは最高出力609PSへとパワーアップ。ボディは収納式の電動リヤウイングを備えるほか、APP Techによってデザインされたセンターロック式19インチ特注ホイールが装着されていた。
ツインズの名の通り、それぞれ19台製造されたクーペとスピードスターは、両車をセットにして175万ポンドで販売。オーダーすると、オーナーの元に特別なギフトボックスが贈られた後、スイスにあるアストンマーティンのデザイン施設に招かれてすべての仕様を相談のうえで決定するというプロセスが採られた。
ちなみにその製造はゲイドンではなく、アストンマーティンとの関係が深いAFレーシングが新たに立ち上げた、「R-Reforged」というブランドの工場で生産が行われている。