目次
VANQUISH(2012-2016)
VANQUISH S(2016-2018)
新しいカーボンファイバー製のボディ
DB9時代のプロダクション・モデルにおけるフラッグシップの重責を担ったDBSが生産を終了した2012年、アストンマーティンは5月に行われたイタリアのコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステの会場で1台の興味深いデザインスタディを発表する。
それがプロジェクトAM310だ。鮮やかなレッドに彩られたボディはDB9系をベースとしながらもマレク・ライヒマンの手によって、まったく新しいカーボンファイバー製のボディを身に纏っていた。その際、ノーズに収められた5.9リッターV12が570PSを発生すること以外、詳細は明らかにされなかったが、翌月12日に2代目「ヴァンキッシュ」として、ほぼそのままの姿で市販されることが正式に発表された。
最大のトピックは、アストンマーティンの量産車としては初採用となるフルカーボンファイバー製のボディで、DBSにくらべて56kgほどの軽量化を実現。またデザイナーのマレク・ライヒマンによってエアロダクトと呼ばれるリヤウイング、LED製テールライト、サイドストレーキなど、One-77から受け継がれたディテールがボディの随所に散りばめられているのも特徴といえた。
第4世代VHアーキテクチャーを採用
一方標準で2シーター、無償オプションで2+2が選択できるインテリアは、インパネやドアの位置などレイアウトを全面的に刷新した結果、レッグスペースなど各部のスペースが拡大。B&O製のオーディオ、ナビゲーション、ベンチレーションシステムなど、装備面も最新スペックにアップデートされているほか、荷室容量もDBS比で60%も増大している。
シャシーは2代目DB9に採用されたカーボンと接着アルミニウムのチューブ、改良されたアルマイト処理と接着などをもつ第4世代(Gen4)のVHアーキテクチャーをベースとしており、第3世代よりも30%の剛性アップを達成した。
そこに搭載されるエンジンは新設計のシリンダーヘッド、ダブル可変バルブタイミング、大径のインレットバルブとスロットルボディ、新しいマニホールドなどを採用し、大幅に刷新されたAM29型5.9リッターV12で、最高出力573PSを発生。最大トルクも620Nmへとアップしており、ZF製6速タッチトロニック2を介してその最高速度は295km/h、0-100km/h加速は4.1秒とアナウンスされている。
また歩行者の安全対策のためにDBS時代よりエンジンの搭載位置を19mm下げたことで重心も下がり、ハンドリングが向上するという副産物がもたらされたのも、ヴァンキッシュのトピックといえた。
2016年秋「ヴァンキッシュS」に進化
その後2013年にオープンの「ヴォランテ」を追加したヴァンキッシュは、2015年モデルで新しいZF製の8速タッチトロニックⅢギヤボックスを採用。併せて5.9リッターV12も新開発のボッシュ・マネジメント・システムによって、パワー、トルクはほとんど変わらないものの、燃費性能の向上と排気ガスの削減を実現。また新しいトルクチューブの採用で騒音と振動が大幅に低減されたほか、約2kgの軽量化も達成した。
このように地道な改良を施され続けたヴァンキッシュは、2016年秋に「ヴァンキッシュS」へと進化。5.9リッターV12が最高出力600PS、最大トルク630Nmへとチューンされるとともに、8速タッチトロニックⅢの変速スピードなども最適化。サスペンションでは、ダンパー、スプリング、アンチロールバー、ブッシュなどのアップデートが図られ、ハンドリング、レスポンスが向上するとともに、大きく刷新されたエアロダイナミクスにより、一目で新型とわかる迫力のあるスタイルとなった。
しかしながら、市場ではすでに次世代の「DB11」がデビューを飾っており、発表からわずか1年後には最終モデルとなる「ヴァンキッシュS アルティメイト・エディション」を発表。結局2018年で生産を終了し、後継車にそのバトンを渡すこととなった。