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VULCAN(2015)
アストンマーティン初の市販サーキット専用車
2008年発表の「One-77」で少数限定のスペシャライズド・モデルという新たなジャンルの開拓に成功したアストンマーティンが、2015年のジュネーブ・ショーでの正式発表を前に、短いティザービデオでその存在を明らかにしたのが「ヴァルカン」である。その最大の特徴は、レース参戦や、公道使用を前提としないアストンマーティン初の市販サーキット専用車であるということだった。
シャシーにはOne-77をベースとした前後にアルミ製サブフレームを装着するカーボンファイバー製モノコックを使用。排気量は7.0リッターのままながら、7.3リッターのOne-77を遥かに上回る最高出力831PS、最大トルク780Nmを発生するV12自然吸気ユニットをフロントミッドに搭載したFRレイアウトを採用している。またXtrac社製6速シーケンシャルギアボックスが、カーボンファイバー製プロペラシャフトを備えたマグネシウム製トルクチューブを介してリアアクスルにマウントされるなど、その基本構成もOne-77に準じたものとなっている。
サーキットでドライビングプログラム
サスペンションは前後ともアンチダイブジオメトリーを採用したプッシュロッド式のダブルウィッシュボーンで、開発を担当したマルチマティック製のダイナミックサスペンションスプールバルブ(DSSV:前後のダンパーとアンチロールバーが調整可能なシステム)、可変トラクションコントロールを搭載。さらにブレーキがフロント380mm径、リヤ360mm径のカーボンセラミックディスクとなるなど、サーキットで831PSのV12パワーに耐えられるよう設計されているだけでなく、ロールケージや燃料タンクなどのセーフティーデバイスもFIAの安全規則に準じたものとなっていた。
ボディデザインはマレク・ライヒマンによるものだが、フロントスポイラー、リヤウイング、ディフューザーといったエアロダイナミクスは彼らのGTレース活動などからフィードバックを受けたもの。なおヴァルカンという名前は、アストンマーティンの本拠地であるゲイドンが空軍基地だった時代に配備されていた3Vボマーと呼ばれた爆撃機、アヴロ・ヴァルカンに由来するものだ。
またル・マン24時間にちなんで24台限定生産となったヴァルカンのオーナーには、ワークスドライバーであるダレン・ターナーらによる各地のグランプリサーキットを舞台としたドライビングプログラムのほか、ドライビングシミュレーターによるバーチャルトレーニングも用意されていた。
AMRによるアップデートバージョンも
2017年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでは、ボディ全体のエアロダイナミクスを見直すことで、100mph時のダウンフォースの発生量を3150Nmから4000Nmへ増大。さらにダウンフォースの発生ポイントを車体後方から中央寄りへと最適化したほか、エンジンカバーの軽量化も図ったことでハンドリング、グリップ、トラクションのさらなる向上を実現。加えてギヤ比を変えたことで加速性能も向上させた、AMRによるアップデートバージョンとなる「ヴァルカン AMR Pro」を発表。Q by アストンマーティンによる既存のヴァルカンオーナーからのアップデートを受け付けた。
そのほかロードユースを求める声に応えて、アストンマーティンは関係の深いRML(レイ・マロック・リミテッド)社に依頼したプログラムも用意。国ごとに法規が異なるため、すべてに対応できるわけでないものの、実際に数台のヴァルカンがコンバージョンを受けている。