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太田哲也とマツダ ロードスターとの浅からぬ縁
マツダ ロードスターのモータースポーツ・ベースグレードである「ロードスター NR-A(ND型)」を昨年末に注文した。ボディカラーはポリメタルグレーメタリックだ。
僕は30年ぐらい前にもロードスター(初代NA型)を愛車にしていたことがある。マツダのワークスドライバーとして契約したことで、日常の足としてマツダ車が提供されることになったからだ。
30年前の愛車は深緑のユーノス ロードスター Vスペシャル
当時はまだ20代で、モータージャーナリストもやってなくてレースドライバー専業だったからレーサー思考で物事を考え、ハイソカー(当時の高級車の呼び名)に憧れる気持ちがあった。それでマツダのフラッグシップであるユーノス コスモを希望した。新型の3ローターエンジンを搭載し、スタイルもとても美しかった。
先輩ドライバーもコスモだったが、マツダ本社の担当の人から「太田くんには若さを感じられるクルマに乗ってほしい」と言われ、「ファミリア4WDターボがいいんじゃない?」と提案された。
仕事がレースで、プライベートもラリー競技車ぽいのに乗るのは気持ちとしてしんどいなと思い、それで発売されて間もないロードスターを希望したんだ。
トランクの上にキャリアを装着し、荷物を括り付けてサーキットへ
グレードは追加設定モデルのVスペシャルで、英国車を連想させる深緑の専用ボディカラーはネオグリーンと呼ばれ、上質で落ち着いた雰囲気だった。本革シート、ドアトリム、シートベルトなどはタンカラーでまとめられ、さらにナルディ製のウッド・ステアリングホイールとシフトノブを装備し、パーキング・ブレーキグリップにもウッドが使われ、豪華装備と大人の雰囲気が両立していた。
レースバッグとヘルメットケースを積むスペースがないので、リヤトランク上にクロームのキャリアを付けて、富士でのレースやテスト走行のときはキャリアにレースバッグとヘルメットケースを括り付け、サーキットに通った。
グループCは恐怖との戦いだった
当時、マツダのドライバーとして運転していたマシンは、最新鋭の4ローターエンジンを搭載したMAZDA 767、そしてその後継車となる767B、787、787Bという4車種になる。
グループCカーというカテゴリーは、超ド級のおばけマシンで猛烈に速くF1よりもスピードが出た。富士スピードウェイのストレートで340km/h以上、ル・マンだと400km/h近く出ていたと記憶する。フォーミュラカーって軽いからコーナーでは速いけど、ストレート部分では空気抵抗が大きく、カウルで覆われているグループCカーの方が最高速は高いんだ。
ストレートエンドでもグングン加速するからコーナー直前まで我慢してフルブレーキ。ロータリーエンジンはあまりエンジンブレーキが利かないこともあって、すごい力でブレーキペダルを踏む必要があった。
当時、僕は国内のシューズメーカーと契約していたんだけど、2レース使うと底に穴が開くという具合で、イタリアのディアドラという底がカーボンになっているレーシングシューズに履き替えた。またコクピットが狭いうえに温室効果のおかげですごく暑かった。
現代ほどマシンにダウンフォースがあるわけもなく、なのにパワーはすさまじいからストレートをまっすぐ走らせるのも気を遣うジャジャ馬だった。ウイングカーだったのでスピンすれば空を飛ぶ。高額な運転報酬は危険負担だと揶揄された恐ろしい乗り物だった。
レース中は生きた心地がしなかったよ。もともと僕はスピード狂ではなかったので、「こんなに出したくないんだよ。でも仕事だから仕方ない・・・」。そんな気持ちでアクセルを踏んでいた。
「スポーツカー」は「レースカー」と似て非なるもの
そんなわけで、レースが無事に終わり、着がえて、ロードスター Vスペシャルに乗り込むと、ほっとするんだ。
超ド級のおばけマシンに乗った後だから、ビックリするほどパワーが無いように感じられた。それがかえってよくて、あー、生きててよかった、という想いにつながった。サーキットから御殿場への帰り道、ゆっくりと走ると、ハンドルが軽くて独特のヒラヒラ曲がる感覚が疲れた体と気持ちを癒してくれた。
それまでスポーツカーは手ごたえがあってギンギンに走るイメージがあったけど、ロードスター Vスペシャルに乗ったことで、癒しのスポーツカーというものがあることを知った。新鮮な驚きだった。スポーツカーには、こういう楽しみ方もあるんだな、と知ったことは自分にとって偉大なる発見だったともいえる。
当時のCカーのレーサーの多くは、普段乗りのクルマは高級志向だった。でもぼくは初代ロードスターに乗ったことで、「スポーツカーの深み」に関心を持つようになり、その数年後、モータージャーナリストを目指すことになるのだが、クルマって速さだけでなく、精神性が大事だと教えてくれた一台だった気がする。
現行型の中にある初代の精神
現行型ロードスターのND型は、ボディ剛性が高くなり、タイヤもよくなって接地感も上がってたので、あのヒラヒラな挙動はないけど、サイズ感が初代ロードスターに似ているね。
レーシングカーをデチューンしたのではなく、速ければエライというわけでもない。そんな初代のライトウェイトスポーツカーとしての精神性を引き継いでいると感じるよ。
その一方で、初代ロードスターもそうだったけど、実用的なエンジンとマフラーが奏でるサウンドとかは前モデルよりもよくなり、官能性についても高めようとした気持ちは見える。とは言えまだまだかな。兄弟車であるアバルト124スパイダーのほうがずっと官能的だよね。
ただし、エンジンの排気量を小さくして1.5リッターにしたことは、一般的にはネガティブな要素として捉えられがちだと思うけど、あえて排気量を小さくすることで初代ロードスターの精神に原点回帰しようとしていることは評価したい。
ただやっぱり個人的には、もうちょっとパワーが欲しいなあ。もうグループCカーを運転することもないから、そんなに癒やされなくていいし。
初代ロードスターに現行型と同じ精神性を感じた
実は2~3ヵ月前に初代ロードスターを運転する機会に恵まれたんだけど、あの頃のことがいろいろと走馬灯のようによみがえってきて懐かしかったなあ。現行型ロードスターと精神性は同じだと思ったよ。
さて、現行型ロードスターで気に入っているのは、スタイルは新しいけど、どこかクラシックで、懐かしさを感じさせられるところかな。ポリメタルグレーメタリックというボディカラーを選んだのも、なんとも表現しづらい色なんだけど、どこかクラシックさを感じたからだ。
これまで僕が愛車にしてきたのは、赤(これが一番多い)、そして白、もしくはガンメタが多かったけど、ポリメタルグレーには昔へのオマージュを感じたんだ。今後は初代ロードスターに設定されていたネオグリーンを出して欲しいね。
ロードスターを相棒にモータースポーツを嗜む
さて購入した新型ロードスターの使い道だが、サーキット走行をメインに考えている。ギンギンに走るのではなく、カーライフを楽しむ素材として、ということだ。
よく「パーティーレースに出るんですか?」と聞かれるけど、今のところその気はない。レースに出て競争したいのではなく、気軽にサーキットに出かけてそこで同じロードスターに乗る人たちと一緒に走るんだ。一緒に走ると楽しいんだよね。同じクルマでもいろんな走り方の違いがあって「へえ~、そんな走り方もあるんだ」って。
クルマから降りてきて走り談義して・・・って楽しいよ。こういうモータースポーツの楽しみ方もあるということを僕は多くの人に伝えたいと思う。
TEXT/太田哲也(Tetsuya OTA)
PHOTO/GENROQ Web
投稿 太田哲也の「ジェントルマンレーサーのすゝめ」セカンドシーズン開始! 僕がロードスターを手に入れた理由 は GENROQ Web(ゲンロク ウェブ) に最初に表示されました。