フル電動バス「フォルクスワーゲン ID.Buzz」のLWB版をドイツで試乗

名車「フォルクスワーゲン タイプ2」を彷彿させるフル電動ミニバン「ID.Buzz」LWB版をドイツで試乗

従来モデル(NWB=ノーマルホイールベース)のホイールベースを250mm延長して3239mmとした「ID. Buzz LWB」。
従来モデル(NWB=ノーマルホイールベース)のホイールベースを250mm延長して3239mmとした「ID. Buzz LWB」。
フォルクスワーゲンの往年の名車「タイプ2」を現代的にフル電動化した「ID.Buzz」。バスの愛称でビートルと並びイメージリーダーとなったタイプ2をオマージュして、2022年に登場したフル電動ミニバンである。今回、新たにラインナップに加わったLWBモデルにドイツで試乗した。

Volkswagen ID.Buzz

しっかり座れる3列目

2017年に初めて「ID.Buzz」のコンセプトが明らかにされたとき、私の頭のなかにクエスチョンマークが並んだ。この頃からフォルクスワーゲンはEV路線を突き進もうとしていたが、往年の人気モデル“タイプ2”のイメージを持ちだしたところで、いとも簡単にEVが売れるとはとても思えなかったからだ。

そんな私が初めてID.Buzzに触れたのは今年7月のこと。GTIフェスタが開催中のウォルフスブルグを訪れた折り、新たに設定されたロングホイールベース(LWB)モデルの「Pro LWB」、それに「GTX LWB」の2台に試乗するチャンスが得られたのである。

2台のスペックを簡単にご説明すると、従来モデル(NWB=ノーマルホイールベース)のホイールベースを250mm延長して3239mmとした結果、室内スペースが拡大したと同時にスライディングドアが長くなり、その開口部も広がった。いっぽうで3列シート仕様はNWBにも設定されていたが、2列目シートのスライド量はLWBのほうが大きいおかげで、たとえ3列目シートに腰掛けてもゴルフの後席並みのレッグルームを確保できる。ワンボックスゆえに頭上スペースも余裕があるほか、シート自体の作りもしっかりしているので、長距離ドライブでも不満を感じないだろうというのが、LWBの3列目シートをチェックした私の印象である。

航続距離とパワーが向上

「ID.Buzz Pro LWB」と筆者。
「ID.Buzz Pro LWB」と筆者。

同じProでもNWBとLWBではバッテリー容量に違いがあることも注目に値する。今回はPro NWBにもアップデートがあったのであわせて紹介すると、Pro NWBの79kWhに対してPro LWBは86kWhとより大容量のバッテリーを搭載。航続距離はNWBの423〜461kmに対して、LWBは453〜487kmとなる。

新しいProはモーターもパワーアップしていて、最高出力は従来の204PSから286PSに向上(NWBとLWBで共通)。Pro NWB同士で比較すると、0-100km/h加速は従来の10.2秒から7.6秒へと大幅に短縮されている。なお、NWBかLWBかを問わず、Proがリヤにモーター1基を搭載する後輪駆動となる点は従来どおりだ。

いっぽうのGTXは高性能版との位置づけで、前後に計2基のモーターを積む4WD。最高出力は340PSを発揮する。なお、GTXにもNWBとLWBが用意されるほか、バッテリー容量がそれぞれ79kWhと86kWhとなる点はProに準じる。

開放感溢れるキャビンのPro

先に試乗したのはPro LWB。まず、印象に残ったのが、タイヤが路面に当たったときの優しさで、荒れた路面でもゴツゴツとした感触を伝えない。大きなうねりを乗り越えたときのストローク感も良好で優れたロードホールディング性を発揮するいっぽう、高速走行でもフラットな姿勢を崩さないあたりは、重心が低いEVらしい長所といえる。

これだけソフトな足まわりでも、荷重移動を心がけてターンインすれば何の不自由もなくコーナリングしてくれる点もEVならでは。発進時から十分なトルクを発揮してくれたり、車速を問わず静粛性が高いのもEVならではのメリットといえる。

そうしたクルマとしての基本性能がしっかりと作り込まれているうえに、明るくカラフルなインテリアが楽しめるのがPro LWBの魅力である。こんなに静かで、こんなに開放感溢れるキャビンだったら、家族や友人との会話も自然と弾むだろうなんてことを想像させる力を、Pro LWBは備えていたのだ。

シャープにターンインするGTX

もう1台のGTX LWBは、Pro LWBに比べれば一段と力強い動力性能と、一段とソリッドな足まわりが与えられていた。このスポーティなサスペンションと4WDのおかげで、コーナリングでは荷重移動のことなんて意識しなくてもシャープにターンインしていく。それでも乗り心地は決して硬いとはいえないし、車内の静けさもPro LWBと同等。クルマの動的評価でいえば、Pro LWBとの差は決して大きくない。

でも、なぜかPro LWBに乗っていたときほどのワクワク感を覚えなかった。その理由を考え始めてすぐに気づいたのが、こちらはインテリアカラーがブラックで統一されていたこと。しかも、Pro LWBと違って、こちらには巨大なグラスルーフがなく、そのせいで暗い室内が一層、暗く沈み込んでいるように思えたのだ。

まあ、GTX LWBでも別のインテリアカラーが用意されているかもしれないし、グラスルーフを装着できないとも限らないだろう。いずれにしても、インテリアデザインや装備の有無で、これほど印象が大きく変わるクルマも珍しいような気がする。

フル電動かどうかは関係ない

みんなで楽しめるドライブこそミニバンの真骨頂。フル電動ではなくても魅力がある。

というわけで、私がもしもID.Buzzを買うなら、Pro LWBを選んで明るいインテリアカラーに仕上げ、グラスルーフを装着するだろう。前述したとおり、このクルマだったら家族や友人とにぎやかに会話しながらドライブを楽しめそうなことが、その最大の理由である。航続距離はカタログ値で400km台だけれど、1泊2日で往復300kmくらいの温泉旅行にみんなで出かけるとか、考えるだけでもウキウキしてくる。これこそ、みんなでドライブを楽しめるミニバンの真骨頂ではないか。

こう考えてくると、EVかどうかなんて、あまり関係ないような気がしてくる。いやいや、車内が静かで、乗り心地がよくて、しかもフラットなフロアが広く広がっているのはEVだからこそだけれど、EVであること自体は手段でこそあれ目的ではない。つまり、EVかどうかよりも、楽しいひとときを過ごせそうなクルマであることがID.Buzzにとっては重要なのだ。

巷ではEVの販売が伸び悩んでいるとのニュースが溢れていえるが、それは、EVにすること自体が目的になっていて、クルマとしてどんな価値観、どんなライフスタイルを享受できるかがわかりにくいからではないか。ID.BuzzはEVであるかどうか以前に、そこでどんな時間を過ごせるかが見えるという点において、1台のクルマとして優れていると感じた。

SPECIFICATIONS

フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro LWB 〈GTX LWB〉

ボディサイズ:全長4962 全幅1985 全高1927mm
ホイールベース:3239mm
モーター最高出力:210〈250〉kW(286〈340〉PS)
モーター最大トルク:560Nm
トランスミッション:1速固定
バッテリー電力量:86kWh
駆動方式:FWD〈AWD〉
0-100km/加速:7.9〈6.5〉秒
最高速度:160km/h

フォルクスワーゲン・ジャパンは、「Volkswagen New Model Press Presentation2024」において、2026年までの導入計画を明らかにした。

フォルクスワーゲンが2026年までのニューモデル日本導入計画発表「ID.Buzzは来年導入」

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…