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VALKYRIE(2021)
究極のスーパーカーを夢見て
2016年からレッドブル・レーシングとパートナー契約を結んだアストンマーティンは、開幕戦オーストラリア・メルボルンで記者会見を開き、レッドブル・チーフ・テクニカル・オフィサーのエイドリアン・ニューウェイとアストンマーティン・チーフ・クリエイティブ・オフィサーであるマレク・ライヒマンが手を組み、プロジェクト「AM-RB 001」と呼ばれるハイパーカー計画をスタートしたことを発表した。
これまで長年にわたり究極のスーパーカーをデザインすることを夢見てきたニューウェイは、2010年に無規則のF1マシン「レッドブル X2010」を発表したことがあったが、AM-RB 001はその2シーター版というべき、既存の概念を覆したスーパースポーツとしてデザインされたものだった。
その開発はレッドブル・レーシング、レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ、アストンマーティン、スイスに拠点を置くAFレーシングAGの共同で進められ、2016年7月にゲイドンで最初のモックアップを公開。そこでカーボンファイバー・モノコックシャシーの背後にV12自然吸気エンジンを搭載し、そのパワーウェイトレシオは1.0であることと、シルバーストーンをF1もしくはLMP1マシンと同等のラップタイムで走行し、少なくとも99台多くても150台が製造され、その価格は200万〜300万ポンドを予定していることが発表された。
続く2017年のジュネーブ・ショーでAM-RB 001は「ヴァルキリー」として正式発表。同年10月にはLMP1ル・マン・スポーツプロトタイプに則ったサーキットバージョンである「ヴァルキリー AMR Pro」の開発も明らかにされた。
コスワース製6.5リッターV12DOHCとF1のKERSを
以降、極秘裏に開発が進められたヴァルキリーであったが、2019年になってパワーユニットが単体で最高出力1014PS、最大トルク740Nmを発生するコスワース製6.5リッターV12DOHCユニットと、インテグラル・パワートレイン製の電気モーターとリマック製のバッテリーによる、F1のKERS技術を応用したブースト&エネルギー回生機構を組み合わせたハイブリッドとなることが公表された。
また2019年にACOがル・マン24時間レースにハイパーカー規定の導入を発表すると、ヴァルキリー・ハイパーカーでのワークス参戦を表明。その年のイギリスGPで最初の実動プロトタイプ「VP1」によるデモ走行を披露している。
しかしながらローレンス・ストロールがオーナー兼会長に就任すると、F1にリソースを注ぐことになりル・マン・ハイパーカー・プログラムは中止。またヴァルキリー自体の開発もCOVID-19の影響もあり大きく遅延してしまう。
こうして一時はその消息が聞こえなくなってしまったヴァルキリーだったが、2021年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで生産型に近いプロトタイプをニューウェイ自身がドライブしてみせた。
2025年からのWECとIMSAに参戦
加えてフロントトレッドを96mm、リヤトレッドを115mm、ホイールベースを380mm拡大したシャシーに、ロードバージョンに比べて2倍のダウンフォースを発生する専用ボディを架装。さらにハイブリッドシステムを外し、1000PSを発生する6.5リッターV12を搭載するほか、前後ダブルウイッシュボーンをカーボン製にするなど徹底的な軽量化を施したヴァルキリー AMR Proを正式発表した。
さらに8月のモントレー・カーウィークでは脱着式のルーフとバタフライドアを備えた「ヴァルキリー スパイダー」も正式に発表された。
そして2021年11月に量産1号車が完成し、順次デリバリーを開始。2023年にはAMR Proをベースとした「ヴァルキリー AMR-LMH」を開発して、2025年からのWECとIMSAに参戦することも発表されるなど、再びその動向に注目が集まっている。