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VALOUR(2023)/ VALIANT(2024)
単なる懐古趣味のモデルではない
2023年7月13日、アストンマーティンは創立110周年を記念して110台の限定モデル「ヴァラー」を発表した。その最大の特徴は、一時は消滅が噂されていた5.2リッターV12DOHCツインターボを搭載したことにとどまらず、V12ターボ・トランスアクスルFRモデルとして史上初めて、3ペダル6速MTを組み合わせたことにある。
アストンマーティンによると、オールカーボンファイバー製のボディは、1970年代の「V8ヴァンテージ」、そして1977年と1979年のル・マン24時間にロビン・ハミルトンが持ち込んだ「DBS V8 RHAM/1」をモチーフにデザインしたとアナウンスされているが、2020年に「One-77」のプロトタイプをベースに作られたワンオフ・モデル「ヴィクター」の影響も色濃く感じられる。
もちろん単なる懐古趣味のモデルではなく、ボンネット中央のU字型のエアベント、2つのNACAダクトが大きな熱を発するV12の吸気、冷却に貢献しているほか、フロントスプリッター、リヤボーテックスジェネレーター、大型ディフューザーなどを備えることで、十分なダウンフォースを確保するなど、最新のエアロダイナミクスを駆使してデザインされているのも特徴である。
フェルナンド・アロンソからの特別なオファー
一方シャシーは「V12ヴァンテージ」をベースとしているものの、前後フロアにシアーパネルと呼ばれる補強板、そしてリヤサスペンションのストラットタワーバー、燃料タンクの補強などを施すことでねじり剛性、横剛性を強化。加えて専用にセッティングされたアダプティブダンパー、スプリング。アンチロールバーを装着したサスペンション、精度を高めたステアリング、専用にキャリブレーションされたエレクトリックトラクション&スタビリティコントロール、機械式LSD、ミシュラン・パイロットスポーツS5を組み込んだ専用の21インチ軽量鍛造合金製ハニカムホイール、フロント6ポット、リヤ4ポットの、カーボンセラミックブレーキを備えることで、715PSの最高出力と753Nmの最大トルクを存分に味わえるロール剛性の高いスポーティなハンドリングを実現した。
そのほか他のアストンマーティンの例に漏れず、アルミやウォールナットなどの数種の素材からチョイスできるシフトノブを筆頭に、DBR1にインスパイアされたツイード生地を用いた軽量パフォーマンスシート、21色が用意されるボディカラーなど、内外装を問わず様々なカスタマイズも可能とされたヴァラーだが、話はそこで終わらなかった。
というのも、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームのエースであるフェルナンド・アロンソから「軽量で過激さを増した、レーシングカーの要素を取り入れたヴァラーが欲しい」という特別なオファーが入ったからだ。
2倍ものダウンフォースの獲得
それを受けQ by Aston Martinでは、スペシャルなヴァラーの開発を開始。まず5.2リッターV12ツインターボは、最大トルクはそのままにピークパワーを745PSまでチューンナップ。あわせて3Dプリンターによって製作したリヤサブフレーム、マグネシウム製トルクチューブ、レース用のリチウムイオンバッテリー、マグネシウムホイールなどの採用により95kgの軽量化も実現したほか、緻密で幅の広いダンピングおよびオペレーション制御が可能なマルチマティック社製アダプティブスプールバルブ(ASV)ダンパーを採用するなど、シャシーにも大きなモディファイを行った。
加えてカーボンファイバー製のボディも巨大なフロントディフューザー、リヤスポイラーをはじめ、21インチ鍛造マグネシウムホイールにエアロディスクを装着するなど、徹底的に空力を見直した結果、V12ヴァンテージの2倍ものダウンフォースの獲得に成功している。
また室内もアロンソのリクエストに応えて、アルカンターラ巻きのステアリングをスイッチを排した真円タイプに変更。Hパターンのギヤも重み、感触を吟味した球形のシフトノブが用いられた。他にもレカロ社製Podiumバケットシート、4点式ハーネス装着時にアンカーポイントとして使えるスチール製ハーフケージが装備される。こうして2024年6月に発表された「ヴァリアント」は、アロンソを含めた38人の幸せなオーナーのもとにデリバリーされることとなっている。