【レトロモビル2025】part.3「覆面コレクター」の終活

オークションに見る「レトロモビルと現代コレクターの選択」【レトロモビル2025】part.3

アールキュリアル社の内覧会場で。1966年「フェラーリ 275GTB アルミニウム」は円換算にして約3億4480万円で落札された。
アールキュリアル社の内覧会場で。1966年「フェラーリ 275GTB アルミニウム」は円換算にして約3億4480万円で落札された。
2025年2月5日から9日までパリ見本市会場で開催されたヒストリックカー・ショー「レトロモビル」。最終回は、期間中のクライマックスともいえる公式オークションを紹介する。

見えてくる近年の傾向

フェラーリ 275GT アルミニウムのオークション中。いずれもオークショネアのアン=クレール・マンディーヌ(右から4番目)、マチュー・ラムール(同3番目)、自動車史家ピエール・ノヴィコフ(同2番目)らによって執り行われた。(photo:Artcurial Motorcars)
フェラーリ 275GT アルミニウムのオークション中。いずれもオークショネアのアン=クレール・マンディーヌ(右から4番目)、マチュー・ラムール(同3番目)、自動車史家ピエール・ノヴィコフ(同2番目)らによって執り行われた。(photo:Artcurial Motorcars)

レトロモビル期間中のセールは、半世紀近い同イベント史上いくつかのオークションハウスが手掛けてきた。ここ14年はパリを本拠とする「アールキュリアル」社が担当している。

アールキュリアルは2002年に創設された比較的若いオークションハウスで、有名な展示会場「グラン・パレ」の隣に本拠を置いている。自動車以外にも美術品、装飾、宝飾品、時計など幅広い分野をカバーしている。2023年にはスイスのオークション会社を買収した。

今回彼らは、5日間のレトロモビル会期中3日間にわたり、アートモビリア(自動車関連美術)などを含め227点を出品した。公式発表によると、最初の2日間だけで88%が落札され、合計落札金額は2460万ユーロ(39億2700万円)に達した。

今回のスターのひとつで、冒頭写真の1966年「フェラーリ 275GTB アルミニウム」は、アルミニウム仕様で造られた93台のうちの1台で、“フェラーリ修復の魔術師”の呼び声高いパドヴァの「コニョラート」社によって1990年代に完全修復された個体だ。会場では215万9600ユーロ(約3億4480万円。以下税コミッション込み)でハンマープライスとなった。

以下は出品車両のハイライトを写真で紹介しよう。

例外はあるものの、これらからわかるように近年は「超・低走行距離」「新車から同一家族の所有」にスポットがあたる傾向がある。加えて「メーカーの歴史車両サービスによる鑑定書付き」もカタログで強調されるようになったのは、そうした部門の努力が実りつつあることを感じさせる。

大収集家が放出

ポール=エミールB氏のコレクションから。1995年「ブガッティEB110GT」。(photo:Artcurial Motorcars)
ポール=エミールB氏のコレクションから。1995年「ブガッティEB110GT」。(photo:Artcurial Motorcars)

2日目には、同一コレクターによる車両24台がセールにかけられた。カタログに名前は「ポール=エミールB.」とだけ記され、フルネームは終始伏せられていた。だが1966年、10歳のとき100フランで手に入れた中古の「シトロエン・トラクシォン・アヴァン」以来、生涯に所有した車両は400台にのぼり、ル・マン・クラシック、ミッレミリアなど数々の著名イベントに参加してきたという。

1930年「ブガッティ タイプ51グランプリ」は以前ラルフ・ローレンが所有していた車両で、158万7600ユーロ(約2億5347万円)で落札。同じくブガッティの1995年「EB110 GT」は、同モデル唯一の白いボディをもち、走行距離は2万kmメートル足らずという、いずれもレアなプロフィールが強調され、153万400ユーロ(約2億4430万円)という高値でハンマーが振り下ろされた。

カタログには、ポール=エミールB.氏の考えを反映したと思しき言葉が綴られている。それによると、彼は最も愛着あるモデルだけを手元に残し、新しい人生のステージに臨むべくコレクションの放出を決意した。同時に、その意義としてこう記されている。「他のコレクターや愛好家に、人生における新たな物語の機会を与えることができるでしょう」

同一人物のコレクション売却といえば2015年、同じレトロモビルのアールキュリアルには、悲惨なコンディションの車両が大量に出品されて話題を呼んだ。その中にはフェラーリ「250GTカリフォルニア スパイダー」や「マセラティ A6G 2000 フルア」など、かなり貴重なモデルも含まれていた。フランスの愛好家が1950〜60年代に収集したものの1978年に破産。60台が三十数年間にわたり放置されていたものだった。

良好なコンディションを維持できる財力があるうち第三者に託すか、それとも生涯手元に置き続けるか。美術品の世界でもよく起きる問題だ。仮にあなたが大コレクターだったら、どちらの道を選ぶだろうか?

Report/大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)
Photo/Akio Lorenzo OYA、Artcurial Motorcars

レトロモビル2025のルノー・ブース。左に歴史車両、右に市販モデルやコンセプトカーを展示した。

「単なる懐古趣味ではない」シトロエンDSの70周年とルノー新流星号【レトロモビル2025】part.1

ヨーロッパを代表するヒストリックカー・ショーのひとつ「レトロモビル」が2025年2月5日から9日までフランス・パリの見本市会場で開催された。第49回の今回は、前年を1万6000人も上回る約14万6000人が来場。古典車ショーの草分けとしての威信を保った。そうしたなかフランス系2ブランドは、それぞれ特色あるアプローチでビジターたちの注目を集めていた。

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著者プロフィール

大矢アキオ ロレンツォ (Akio Lorenzo OYA) 近影

大矢アキオ ロレンツォ (Akio Lorenzo OYA)

在イタリア・ジャーナリスト。国立音大ヴァイオリン専攻卒業。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院 …