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Volkswagen Golf GTI
ホットハッチというジャンルを切り拓いた初代



いよいよ日本でも2月より本格的に「フォルクスワーゲン ゴルフ」の8.5世代のデリバリーが始まった。中でも気になるのは、専用のパワートレインとスポーツシャシーを与えられ、ハッチバックにしてピュア・スポーツの系譜を受け継ぐ「ゴルフ GTI」だろう。
そもそも横置きFFのコンパクトなパッケージングをスポーティな走りに活かした先達としては、BMC時代のオリジナル・ミニが挙げられるものの、リヤハッチゲート開閉の荷室を備えたより現代的かつ実用的なハッチバックボディをまとい、“ホットハッチ”というジャンルを切り拓いたのは初代ゴルフGTIだ。
そんな元祖ホットハッチは今回、マイナーチェンジとはいえ全方位的にブラッシュアップされた。MIB4という最新世代のインフォテイメントを採り入れ、12.9インチの大型タッチスクリーンに収め、IDA(アイダ)というボイスコマンドをも備えた点では、ゴルフ8.5の通常ラインナップと軌を同じくする。
だがセンターコンソールがピアノブラック風の艶アリになり、ステアリングホイール上のボタンはタッチ式から押し込んだ感触のある物理式に改められた。見た目の艶&マットのバランスは小変化しただけだが、触覚インターフェイスの改善が著しい。伝統のチェック柄シートにも変化はないようだが、前期型よりシートクッション自体の張り感が増し、赤いラインやステッチがより鮮やかに、つまり赤い差し色アクセントの彩度が上がったように感じる。ひと言でいって静的質感が、よりメリハリが効いてシャキッとしたのだ。
第5世代ゴルフを意識したアルミホイール


外観で目立つ点は、ヘッドライトとキャラクターラインを一直線をつなげるようにボディサイドのエンブレムが配され、代わりにドアミラーとキャラクターラインの下に「GTI」のレタリングが入るようになったこと。フロント側では、アンダーグリルの両端にボディ同色のカナード状のパーツが加わった。IQ.ライトの採用で、4灯から2灯のスッキリした目つきとなり、「VW」エンブレムがバックライト・イルミネーション化された点はゴルフ8.5の通常モデルに準ずる変更点といえる。
よりGTIならではのオーナー心をくすぐるディテールとしては、オプション装備ながら、第5世代ゴルフを意識したというちょっとイタリアンデザイン風の、5スポークのアルミホイールを挙げておきたい。ヤングタイマーや80年代がひと回りした今や、90年代~Y2Kスタイルが次なるトレンドでもある。プジョーやルノー・スポールといったライバルが不在の今、ホットハッチ界の独立峰になりつつあるとはいえ、ゴルフGTIは昔から押しも押されもせぬトレンドセッターなのだ。ちなみに装着のタイヤ銘柄はブリヂストン・ポテンザS005で235/35R19だ。
実直にして素直なエンジン特性


肝心の走りについてだが、2.0リッター直噴ターボは、耳を澄ませばノーマル・ガソリンエンジンの1.5リッターとは明らかに異質の、低くくぐもったエキゾースト音を2本出しの太いマフラーエンドから放つ。トルクデリバリーの素早さ、トラクションの盤石さは、街乗り程度の速度域でも確かに伝わってくる。ひとたびアクセルを踏み込めば、弾けるような加速が始まり、豪快なバブリング音と7速DSG(DCT)の瞬発的なシフトを挟んで、さらなる加速が続く。
370NmというTDIディーゼル以上の最大トルクもダテではないが、1600rpmの早々から4500rpmという直噴エンジンには高回転域の入口まで、リニアに息継ぎすることもなくトルクを吐き出す。前期型より+20PSのアップで265PSとなったパワーは、都内ではすべて解き放つべくもないが、実直にして素直なエンジン特性こそが、GTIの美点だ。
乗り心地は、低中速域では少しツンツンとした上下動はあるものの、強い突き上げは感じさせない。路面の情報量が多い点は同時に試乗した「TDI」のスポーツサスにも通じるが、GTIはDCCによる可変アダプティブのシャシーを装備していて、より減衰の伝え方に緻密さと高級感がある。コンフォートモードでも、やはりアウトバーン的な、平滑な高速道路の方が足まわりの焦点が合ってくる感じだが、乗り心地優先で走らせていたら免許が何枚あっても足りない。
ドライバーが過程を楽しめるホットハッチ


とはいえスポーツモードが街中で楽しめない訳でもない。シフトの選択が1~2段低めになり操作系の入力ゲインが敏感化するが、足まわりもこれ見よがしに硬くなるというより車体の姿勢変化を抑える方向で、大きな段差を越えた時など、懐の深い吸い込み動作と素早い伸びに舌を巻く。ブレーキのタッチも、踏み込みストロークはあるがリリース時のコントロールがしやすいタイプだ。
いってみればゴルフGTIは、ただ漫然と走らせて速いといった、安易なアウトプットを急ぐ車ではない。ドライバーが過程を楽しむため、いわば緻密に走らせることを楽しみながら、ホットでエキサイティングな領域にまで到達するための1台といえる。乗り手の熱量に、忠実に応えてくれるところが、独流の正しいホットハッチなのだ。
REPORT/南陽一浩(Kazuhiro NANYO)
PHOTO/南陽一浩(Kazuhiro NANYO)、GENROQ
SPECIFICATIONS
フォルクスワーゲン ゴルフ GTI
ボディサイズ:全長4295 全幅1790 全高1465mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1430kg
エンジン:直列4気筒ターボ
総排気量:1984cc
エンジン最高出力:195kW(265PS)/5250〜6500rpm
エンジン最大トルク:370Nm/1600〜4500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/35R19(DCCパッケージ装着)
車両本体価格:549万8000円