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販売拡大の勢いに陰りが見えてきたEV

フォルクスワーゲン(VW)は、2019年に「ID.3」を発表して以来、BEV専用モデルのラインアップを着々と拡充してきた。現時点でグローバルには「ID.3」「ID.4」「ID.4X」(中国専用モデル)「ID.5」「ID.6」(中国専用モデル)「ID.7」(セダン/ステーションワゴン)そして商用車部門が生産する「ID.BUZZ」がリリースされている。残念ながら日本市場は、ID.4のみの導入となっているが、そろそろID.BUZZも上陸するはずだ。ちなみに北米市場もID.4とID.BUZZのみが販売されている状況で、ヨーロッパと中国がメインマーケットとなっている。
実際、2024年のVWグループ全体のグローバルでのBEV販売台数(74万4800台)に対し、ヨーロッパ市場は44万7900台、中国は20万7400台で、合計すると約88%にも達する。だがこれまで順調に伸び続けてきたグローバルBEV販売台数は、2024年には前年(77万1100台)の3.4%減と、初めて減少に転じている。これはVWグループにとって最大の市場であるヨーロッパが、前年を5.2%も下回ったことに加え、中国も8.1%増と、前年の23.2%から急激に鈍化した事が大きく影響している。VWブランド単体で見ても、2024年はグローバルで38万3100台と、前年比で2.7%減少。BEV販売拡大の勢いに陰りが見えてきた。
中国でEV販売台数が伸び悩む深刻な理由

最大の理由は、ヨーロッパ各国がBEVの購入補助金を、2023年12月以降に終了・縮小としたことだ。2022年10月、EUは2035年に欧州域内でCO2を排出する乗用車および小型商用車の販売を禁止することで合意した。2023年3月にはe-Fuelを使用するICE車は認めると方針転換したものの、現時点ではCO2を全く排出しないクルマはBEVまたはFCEVのみだ。FCEVはまだインフラが少ないため、現実的にはBEV一択となるが、やはりBEVは車両価格がガソリン車やディーゼル車より高く、補助金なしでは普及拡大は厳しい。
また、充電時間や航続距離の問題は年々改善されているとはいえ、日々都市化が進む社会状況では、自宅駐車場に充電設備を備えている住宅はなかなか増えない。結果、販売が頭打ちとなった。というのがヨーロッパの現状と言えるだろう。
一方、中国は状況が異なる。中国は景気減速が叫ばれる中でも、BEV市場はNEV下取り補助金などもあって、2024年も成長し続けた。しかしBYDを筆頭に現地の新興BEV専業メーカーの台頭が、外国勢を圧迫。VWグループのBEVも急激に競争力を失う状況となっている。
このような現状を打開するため、VWグループは、ヨーロッパ市場では、よりコンパクトで低価格なモデルの充実を図る方針にシフト。それが2023年3月にお披露目された「ID.2all」であり、今回コンセプトカーがワールドプレミアとなった「ID. EVERY1(エブリワン)」である。
欧州で市民権を得た“ピープルズカー”の地位をふたたび


全長4050mmと、ちょうど現行ポロ程度のBセグメントハッチバックであるID.2allは、26年に2万5000ユーロ(約400万円)で発売される予定で、日本市場への導入も予定されている。また走りの楽しさを際立たせたGTIバージョンやSUVバージョンも用意される予定なので、楽しみにしているひとも多いだろう。
ID. EVERY1は、全長3880mmとID.2allよりさらにコンパクトなサブBセグメントのハッチバックで、こちらは2万ユーロ(約320万円)という、さらにアフォーダブルな価格で2027年3月に登場する予定。ルックスもVWの伝統を感じさせる親しみやすさがあり、幅広いユーザーに支持されそうな印象だ。
これら2台は、どちらもBEV専用モジュラープラットフォームであるMEBの改良版を採用した前輪駆動モデルで、シュコダやセアトなどグループ傘下の他ブランドにも展開される模様だ。「ゴルフ」や「セアト レオン」「シュコダ オクタヴィア」のように、ヨーロッパで完全に市民権を得た“ピープルズカー”の地位を確立できれば、VWグループのBEV拡大戦略は、少なくともヨーロッパでは再び軌道に乗る事ができるかもしれない。
中国市場回復の鍵とは?


一方の中国では、新たに若者をターゲットにした電動車のサブブランド「ID.UX」を立ち上げている。2024年4月に開催された北京モーターショーで、その旗艦モデルとなる、全長4.8mのSUVコンセプト「ID.Code」を公開。既存のID.ファミリーとは異なる、とても近未来的なテイストのデザインや、AIを組み込んだインフォテインメントシステム、レベル4の自動運転などを搭載した、極めて先進的なモデルになるとアナウンスされている。このモデルの発売時期は未定だが、ID.UXから2027〜2030年に5車種が登場するという。
ID.UXからは、2024年夏に「ID.UNYX」というコンパクトSUVが発売されている。このモデルは中国東部の合肥(ごうひ)にある開発拠点VCTC(フォルクスワーゲン・チャイナ・テクノロジー・カンパニー)で開発された、中国専用の新開発BEVプラットフォーム「CMP(チャイナ・メイン・プラットフォーム)」を採用。より中国市場に最適化したプラットフォームを使用して、現地販売モデルの商品力アップを図る。
このID.UXの成功が、VWにとって中国市場回復の鍵となる。現地メーカーとは先進性と価格の両面で熾烈な戦いが繰り広げられることになるが、VWにとっては決して負けられない、厳しい戦いになりそうだ。